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ツィンギ・ドゥ・ベマラハのカランコエ [others]


 マダガスカルを代表する動植物は日本においてもいくつか有名なものがあるが(バオバブやニチニチソウ、キツネザル、カメレオン、ヒルヤモリ、マンテラ等)、景観となるとムルンダヴァのバオバブの並木道とベマラハ国立公園のツィンギくらいしか知られていないのではないだろうか。ベマラハ国立公園はマダガスカル中西部に位置し、石灰岩が雨に侵食され鋭く尖った針の山のような景観が有名である。これをツィンギ・ドゥ・ベマラハと呼び、アクセスが致命的に悪い地域ではあるが、比較的よく知られた場所である。勿論、というか残念ながらというか、訪れたことはない。
 ツィンギは刃物のように研ぎ澄まされており、同様な地形はマダガスカルの他所でも見られるが、ここは国立公園全体だと15,7000 haといったとてつもない規模である。このカルスト台地では十分な土壌が確保できないため、特殊な植物が見られるようだがカランコエとしては、5種が確認されている。調査が不十分な地域なので、今後も未記載種を含めて多くの種類の存在が確認される可能性は高い。

 さて「確認されている」と書きつつも、私が個人的に文献やネット上で探しただけなのだが、ここのカランコエは、K. boisi、K. antennifera、K. gastonis-bonnieri、K. bogneri、K. humificaの5種が知られている。最初の2種がカランコエ亜属、残りの3種はブリオフィルム亜属で、このうち一般的に知られているのは3番目のガストニス・ボニエリと最後のフミフィカぐらいであろうか。
 ICNの情報によるとK. boisiとK. antenniferaはシノニム疑惑があり、シノニムか同種の別変種であろうとしている。どちらも高さ30cmほどの一年草で、Descoings(2003)の記述ではK. antenniferaの花はオレンジ色としているが、実際に開花させた写真を見ると黄色に近く、K. boisiと同じなのではないかと思える。このK. boisiについては情報が極めて少ないため、残念ながらこれ以上の言及はできない。
K. antenniferaはその原記載(Descoings, 2004)において、産地を単にAfriqueとしか書いていない(コートダジュールのナーセリーから入手でオリジンは不明としている)ため、その3裂の欠刻葉を見てK. lanceolata とK, laciniataの交雑種であると根拠のない風説も流れたが、2018年にイタリアの愛好家がツィンギ・ドゥ・ベマラハでの自生地の写真を公開し、本種がマダガスカル産であると一般に(?? 一部の人々に、が正しいかな)知られることとなった。またDescoingsが突き止めなかった本種のオリジンは1998年に採集されており、その後RauhがKalanchoe lucile-allorgeiとして記載しようとしていたが、結局記載されずに終わっている。


 ブリオフィルム亜属3種のうち、ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieriについては説明不要であろうが、2変種あるうちのうちどちらかと言えば基変種と思われる。もうひとつフミフィカK. humificaも国内ではそこそこ知られた種である。まだ植物が小さいうち(高さ20cm以下)は葉が黒いので、黒いカランコエとして知られるが育ってくると葉は緑色になる。この種も先のK. antennifera同様1998年に採集され、採集地不明のままDescoingsが2005年に新種記載している。
 最後の1種、ボグネリK. bogneriはRauhが1993年に新種記載している白粉に覆われた種で、花はブリオフィルム亜属の中でも形態的にはセイロンベンケイソウやガストニス・ボニエリの仲間(ここでは暫定的にProliferaeと呼んでおく)に近く、美しい赤色の花筒が特徴的である。葉の形状はセイタカベンケイK. suarezensisにも似るがより短く卵形ともいえる。この種の最大の特徴は、明らかにセイロンベンケイソウの仲間であるのに唯一葉縁不定芽を形成しないことである。より詳しく調べるとProliferaeとは別グループである可能性もある。そういう意味では不定芽の形状が特異的なフミフィカも独立グループかもしれない。


 今分かっているのは、ツィンギ・ドゥ・ベマラハのごく一部ではあるが、今後も驚愕するような新種が発表されることを期待したい。


子宝の出来ない子宝草、カランコエ・ボグネリK. bogneri

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葉縁不定芽と交雑の方程式 [others]

 タイトルは洒落ただけでここで方程式を提示するわけではないが、子宝草同士の交配と不定芽形成について数少ないサンプルからオハナシを組み立ててみたい。

 カランコエ属の中でもBryophyllum亜属同士の交雑品種はあまり出回っていないが、その中でも(個人的に子宝草と呼んでいる)葉縁不定芽を形成する種の交雑種は更に少なくなる。交雑品種を作出するのは主として花ものが多いため、商売にならない子宝草は交配することもないのだ。とはいえ我々はホートニィや不死鳥Kalanchoe x houghtonii(錦蝶K. tubiflora × シコロベンケイK.daigremontiana)という有名な人為交配の例を知っている。さらに自然交雑種としてマダガスカル南部から南西部にかけて発見された種としては、K. x lokarana, K. x richaudii, K. “Rauhii”, K. x poincarei, K. x rechingeri, K. x descoingsiiという面々が知られている。
 自然界で見つかった交雑種の親植物は(推定ではあるが)どれも子宝草同士と考えられており、それ故これらの植物も全て葉縁不定芽を形成する。と、言い切ってしまいたいがK. x poincareiだけは今までタイプの違う2個体が発見されているに過ぎず、個人的に確認できていない。(でもこれはrosei種群×beauverdii種群と見られるため、まず不定芽形成するとみてよい。)


マダガスカル南東部で見つかったライジンゲリK. x rechingeri(錦蝶K. tubiflora×黒錦蝶複合種K. costantiniiの自然交雑種とされる)
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 人為交配の例としては欧米、中近東、東アジアでの報告や論文があるが、親植物にK. tubiflora, K.daigremontiana, K. laetivirens, K. scandens, K. variifolia, K. perrieri, K. laxiflora, K. fedtschenkoi, K. marnieriana, K. tenuiflora, K. peltigera, K. pinnata, K. suarezensis, K. gastonis-bonnieri, K. “Rauhii”を使用している。そして知っている限りではどれもが葉縁不定芽を形成する。これは系統関係が遠いと考えられるK. pinnataやK. suarezensisの類とBryophyllum亜属のInvasores節との掛け合わせでも同様である。この限定的な例から「葉縁不定芽を形成する種同士の交雑ではF1個体も葉縁不定芽の形成能力がある」と言えそうだ。

 ではBryophyllum亜属とKalanchoe亜属を交配した場合はどうであろうか。個人的な情報のやり取りから得た知見だが、花ものカランコエK. blossfeldiana hybridsやアジア産カランコエとK. scandensの交配結果ではどれも不定芽を形成しない。この手の交配例は他にあまり知らないのだが、論文上の記載やデータを拾ってみよう。まずはポルトガルのResende(1956)ではB.calycinum × B.daigremontianum(今で言えばセイロンベンケイソウ×シコロベンケイ)は葉縁不定芽pseudo-bolbilhosを生じるがK. blossfeldiana × B.daigremontianum(花ものカランコエ×シコロベンケイ)では不定芽bolbilhosの形成能力はないとしている。
 時代は飛んで異節間交雑を扱ったIzumikawa et. al.(2007)でもリュウキュウベンケイソウK.spathulata × ラクシフローラK.laxifloraの交雑結果として、不定芽形成なしとしている。因みに「異節間交雑」と言っているのは、この時期の属下分類単位ではKalanchoeとBryophyllumは節sectionであった(最近になって亜属扱いの方が都合よくなっている)からである。
更に王嘉偉&朱建鏞(2011)でも、花ものカランコエの品種‘Isabella’ × セイロンベンケイソウK. pinnataの異節間交雑の結果として葉縁不定芽(葉緣苗)は「無」としている。以上の結果から「Bryophyllum亜属とKalanchoe亜属を交配した交雑個体には葉縁不定芽の形成能力がない」と現在のところは言っておこう。

 さて、それでは現在Bryophyllum亜属とされる種の中でも不定芽を形成しない種と形成する種の交雑ではどうなるのであろうか。この場合はデータが殆どなく、僅かに私信で例があるに過ぎない。私信情報なのでざっくり言うと、紅提灯K.manginiiとプベスケンスK.pubescensの交配株と考えられているZebediと子宝草の交配例がある。Zebediの親植物については最初にI氏からその見解を示唆され、その後海外からの情報で確信となった。
 K.manginiiとK.pubescens、そしてそれらの交雑品種“Zebedi”とも開花後に花序に不定芽を形成するが、葉縁不定芽は形成しない。これとセイロンベンケイソウK. pinnataやK. “Rauhii”との交雑株が作出され、これらには葉縁不定芽が形成されることが確認されている。これについては色々しがらみがあって詳しくは語れないが、新たな可能性というか煩悩を呼ぶ情報ではある。という訳でこのパターンは「 」付きの見解を保留としたい。

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葉形成熟 [others]


 現生両生類は無尾目・有尾目・無足目の3目に分かれる。具体的にはカエル類、サンショウウオ類、アシナシイモリ類である。基本的には卵から孵化した時点では幼生で、その後生長し変態して亜成体となり、さらに成長を続けるが、直接発生の種など、このパターンの例外も多々ある。例外の一例として、有尾目のうち一生水生生活をおくる種に見られる幼形成熟neotenyがある。幼生の形のまま、あるいは部分的に幼生の特徴を残したまま性成熟し繁殖可能となる現象で、有名なのはメキシコサラマンダーである。(この種の幼形成熟個体は近隣に生息するその他の数種をひっくるめてアホロートルと総称される。)オタマジャクシが変態してカエルにならず、オタマのままで繁殖するというのは知られていないが、有尾目ではそのような現象が何例も知られているのだ。

 上記はカランコエと何の関係もないが、タイトルは両生類の幼形成熟とは裏腹に若いときと成熟してから葉の形が変わる現象を表したここでの造語である。発芽した当初の双葉とその後の本葉の形が違うというのは当たり前なので省くとして、カランコエで良く知られるのはディンクラゲィKalanchoe dinklageiの例で、この木性種では若木のときは鋸歯が目立つ細長い葉をしているが、成長すると葉に幅が増し、鋸歯も目立たなくなる。一種の変態metamorphosisのような変化である。


ディンクラゲィKalanchoe dinklageiの葉形変化

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 以前リュウキュウベンケイソウ種群の欠刻葉について書いたことがあるが、カランコエ属内で系統的には関係なく見られる。例えばK. lobataやK. antenniferaなどKalanchoe亜属内ではアフリカ大陸、マダガスカル、アジアを問わず現れるし、ベハレンシスなんかも欠刻葉と言えそうなものがある。Bryophyllum亜属でもマロモコトレンシスK.maromokotrensisやロゼイK.rosei、ミニアータK.miniataの一部の変種は欠刻葉と言え、見方にもよるがスキゾフィラK. schizophyllaなどもそう言えなくもない。


 これらの欠刻葉の種は若い個体の葉は切れ込みがなく、成長すると切れ込みがある欠刻葉となる。全く個人的な好みの話であるが、植物を育ててこの変化を楽しむのは楽しい。個体発生は系統発生を繰り返すというヘッケルの反復説に従えば欠刻葉は二次的に進化したものだろうかとか、それぞれの種の地理的分布と雨量の関係を調べたら有意なデータは得られるだろうか。あるいは、Kalanchoe亜属のリュウキュウベンケイソウ・ラキニアータ種群とBryophyllum亜属では欠刻葉のタイプが違うので収斂進化とは言えないだろうなどと色々妄想するのも楽しい。

 もっとも最近は何も考えず、この手のフォルムに魅せられていく自分の嗜好を吟味するだけで時は過ぎていくのである。


葉形変化例;冬もみじとスキゾフィラK. schizophylla
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みそさん、ねこさんへのお詫びと回答 [others]

 このブログにコメントがつくことは少ないので油断していたのですが、立て続けに2件のコメントで不義理を働いてしまいました。「みそ」さんという方からコメントを頂いて、それに気づいたのは2ヶ月半後でした。更に、「ねこさん」のコメントには4ヶ月半も気づきませんでした。お二方とも気づいたときに返事は書いたのですが、なにしろ相当経ってからの返事なので見られない可能性もあると気づき、ここに概要のみ再録する次第です。
 ちなみに以前はコメントがつくとメールが飛んできたのですが、So-netブログからSSブログに変わった際にメールアドレスをIDにしているため通知機能が使えなくなっていたのでした。ということが昨夜分かりました(遅かったですね)。



≪みそさんのコメント≫

子宝草目録2-① Suffrutescentes/胡蝶の舞とその仲間(https://kalanchoideae.blog.ss-blog.jp/2016-12-23)

【コメント(要旨)】

自分のサイトの記事にリンクを貼らせて欲しい。

胡蝶の舞の学名はK.laxifloraとしているところが多いが、ICNをみると自分のものとは異なるようで、K.fedtschnkoiの方が似ていて混乱している。

【返信(要旨)】

リンクは御自由にどうぞ。

K.laxifloraは明らかな葉柄があり、K. fedtschenkoiは葉柄がごく短い(場合が多い)です。

こちらの記事を参照ください。

子宝草目録2-③ Suffrutescentes/ふたつの胡蝶


■追記

胡蝶の舞と称してK.fedtschnkoiを売っていることが多々あるのでご注意ください。

また、胡蝶の舞錦はK.fedtschnkoiです。



≪「ねこさん」のコメント≫


【コメント(要旨)】

ガランビトウロウソウの実生苗・リュウキュウベンケイソウの欠刻として入手した植物の正体を知りたいので、写真を見て欲しい。

【返信(要旨)】

この記事を見て再度メアドを御連絡頂ければ、確認してみます。

リュウキュウベンケイソウの方は些か自信がないですが、ガランビトウロウソウは分かるかもしれません。

■追記

下記の記事も写真が載っているので、御参照下さい。

臺灣のカランコエ


ガランビトウロウソウの実生記録


カランコエ・スパチュラータと8つの変種


聖地巡礼;麗しき島に根付くもの


聖地巡礼;珊瑚石灰岩の匙葉と枝角葉



 大変御迷惑、というか不快な思いをさせてしまったことと思いますが、この記事を目にしたら返信を御覧頂けると幸いです。
※改行や行間隔の調整が上手くいかず読みにくいのですが、よく分からないのでこのままアップさせて頂きます。

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街角のカランコエ;2021年の印象 [others]

 2020年、2021年とどこかがボロ儲けした煽りで大きな社会変革があったわけだが、季節性の流行り病の10~20%程度の伝播でパンデミックとうそぶかれて納得してしまうのは人が良いのか、バカなのか。世界中が大変なことになっているという喧伝はあったものの、数字を冷静に見ると実際大変だったのは欧米と一部の国だけではなかったのか。誰かさんの言う「ファクターX」というのは日本ではなくて、逆に欧米と一部の国が流行してしまう素地として持っている「ファクター」ではないのか。何しろ世界的に見れば日本は(自画自賛ぶりとは裏腹に)特別に成績が良いわけでもないし。

 脱線が過ぎてしまうのでこれくらいにして、ともあれこの2年間は何とはなしにあたふたと過ぎてしまった感が強い。私がボケているだけかもしれないが、2020年と2021年の区別がつかないような感覚がある。個人的には失われた2年間である。パノプティコン(相互監視社会)など隣国の事と思っていたのに、瞬く間に我が国で実現してしまったのには震撼した。かつて昭和初期から10年程度でマスコミに煽られて国民が富国強兵に賛同し軍国化してしまった悪夢が、また繰り返される可能性大と知って大きな失望感に見舞われた。


 行動制限などの不本意な状況や、忸怩たる焦燥感が募る日々に偶然出会った植物たちは、深呼吸して煩雑な思考をリセットし、歩を止めて自分の目で見る(自分の頭で考える)ことを教唆しているかのように感じられた。2021年に街で見たカランコエ(というか子宝草だが)で印象に残ったものを記録しておきたい。


 まず神奈川県某所で見つけたラクシフローラKalanchoe laxiflora。このタイプは以前Boiteau et Mannoni(1949)が分けた3タイプに当てはまらずフェッシェンコイに似たタイプであるが、花を見る限りはラクシフローラである。同様のタイプが東京の千代田区でも見られた。どちらも19~20年の冬を野外で越して生き延びていたが、この冬は厳しいのでどうなることであろうか。


神奈川某所のラクシフローラ:21年3月に開花していた
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千代田区某所のラクシフローラ:2月時点なので一部で花序形成が始まりそうな段階
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 次は埼玉県某所のキンチョウKalanchoe tubiflora。人家の塀に沿った僅かな土に根付いて立派に育ったが、これも冬越しは難しそうだ。もう蕾が形成されていたが、開花までは至らないと思う。それにしても最低限の水分(環境からそのように思われる)で育っているためか、随分と美形である。


埼玉某所のキンチョウ:願わくば花が見たい
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 最後はよく訪問する杉並区某所で見つけたフェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoi。閉店?した店先に取り残されたプランタで健気に(というには力強く)生き残っている。次に訪問した時に健在であれは葉を1~2枚貰ってきたい。


杉並区某所のフェッシェンコイ:葉の大きな魅力あふれる個体だ

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