チンバザザ動植物公園のカランコエ [others]
この公園は市民には安く解放されていて、憩いの場として休日は賑わう。動植物園としての機能より公園としての役割の方が大きい。
確認できた種は、乾季の終わりでベハレンシス、ヒルデブランティ、ストレプタンサ、ガストニス・ボニエリ、キンチョウ、セイロンベンケイソウくらいであったが、雨季の終わりに訪れるともっと豊富な種が見られるかもしれない。過去の記録を見るとセイタカベンケイやテヌイフローラもあったようだ。テヌイフローラK. tenuifloraなど、もともとがこの植物園で見つかった標本を基に新種記載されている。かつてはマダガスカルの希少種が集められていた同園も、時の流れを経て衰退してしまった感が強い。
おもしろいのは、雑草として疎まれるキンチョウが個体数少なく繁茂していないのに対し、ガストニス・ボニエリはものすごく蔓延っていることだ。キンチョウも乾季に強そうではあるが、何かの条件が繁茂を抑え、逆にガストニス・ボニエリには有利な条件があるのだろう。ここのガストニス・ボニエリは北西部の自生地よろしく、葉が立ち上がった状態で乾季を過ごしている。日本で栽培しているとなかなかこういう姿は見られない。
ベハレンシスK. beharensis インテリアショップ等で見られるゴールデンタイプ
ベハレンシスK. beharensis 葉がグレーのもの
ベハレンシスK. beharensis var. subnuda
ヒルデブランティK. hildebrandtii var. glabra
ストレプタンサK. streptantha
ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieri葉を立てて乾季をしのぐ
ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieriはこのように蔓延っている
セイロンベンケイソウK.pinnata名の通り羽状葉が発達している
Wikipediaを添削 [others]
日本語のWikipediaでカランコエ関連の記事には以下のようなものがある。
カランコエ
キンチョウ
コダカラベンケイ
セイロンベンケイ
ベニベンケイ
リュウキュウベンケイ
多くの項目は殆ど見るべき情報がなく、細かいことは見逃すとしても(例えば分布情報の抜け漏れなど)、明らかな間違いについて修正を試みたい。では上記項目を順に見てみよう。
・「花弁は5枚でやや反り返っていて、星の形に開ける。」
⇒ 花弁は4枚である。種によって反り返りがあったりなかったりする。
・「一般に園芸店などで扱われるのは、ベニベンケイであることが多い。」
⇒ ベニベンケイを基にした交配種、または栽培品種が正しい。カタカナでベニベンケイと書くと種名なので、正しくない。ベニベンケイそのものは超が付くほどのレアもの。
・「コチョウノマイ(胡蝶の舞) Kalanchoe laxiflora = K. crenata = K. fedtschenkoi = Bryophyllum crenatum」
⇒ K. crenataとK. fedtschenkoiは全くの別種
・「リュウキュウベンケイ(琉球弁慶) Kalanchoe integra」
⇒ 学名はKalanchoe spathulata、Kalanchoe integraは別種で現在はKalanchoe deficiensのシノニムとなっている
この項ではBryophyllum属としていて、上記カランコエの項ではBryophyllumをKalanchoeに含めるとしていたので、矛盾がある。
英名としてdevil's backboneが挙げられているが、これはシコロベンケイの英名。
この項もBryophyllum属としている。写真は本種ではなく子宝草=クローンコエ
・「原産は南アフリカだが、現在では熱帯地方各地に帰化している。」
⇒ 原産はマダガスカル。キンチョウに比べると南アフリカでは限られた3地域に帰化しているに過ぎない。
・「はじめは単葉だがよく育つと三出-単羽状複葉となる。」
⇒ 3~5枚小葉の羽状複葉となる。
特筆すべき間違いはないが、他種との交配による栽培品種を「変種」としているのは間違いで、栽培品種をこの学名で呼ぶのも誤りである。
・「リュウキュウベンケイ(琉球弁慶、Kalanchoe integra)」
⇒ 繰り返しになるが学名はKalanchoe spathulata。
本項目は国内の絶滅危惧情報等があり、まともである。
温室のカランコエ;新宿御苑/不定期巡回 [others]
2016年6月に新宿御苑の温室は「定期巡回してもよい」と感じたという記事を記したが、その後4年半も行かず仕舞いであった。20年も暮れようとしていた頃、急に新宿御苑を訪れることになった。果たしてカランコエという視点から見て、久々の御苑温室は新たな魅力を増していた。
カランコエは基本的に乾燥地の植物(平たく言えば多肉植物)のエリアにまとめられているが、今回は沖縄の植物エリアにリュウキュウベンケイソウが地植えされていた。前回まではガラス張りの別室や特別展示だったが、勢いが増したか個体数が増えたか、地植えのリュウキュウベンケイソウは良く繁茂して花序も発達し始めていた。しかし残念ながら名札の学名は相変わらず「Kalanchoe integra」となっていた。何度か書いているようにリュウキュウベンケイソウはKalanchoe spathulataである。
繁茂するリュウキュウベンケイソウKalanchoe spathulata
花序を形成し始めている
そして以前大きなベハレンシスが目立った乾燥地エリアへ行くと、以前からの個体は自立に限界が来て切り口も痛ましく緑色のロープで支えられていた。挿し穂から新たに育てたような鉢植えの大型個体もあり、その根元に根上不定芽が多く芽吹いていた。小さな個体も所々に生えていて、充実している。
以前ここで見られた他の種類、月兎耳・唐印・フェッシェンコイも全て今回も見られた。特筆すべきは唐印で、名札の学名はKalanchoe thyrsifloraとなっていて、どうやら本物のようだ。最近は紅唐印Kalanchoe luciaeばかりで唐印は見かけたことがない。国内では希少種といっても良いくらいだ。
2016年には数本がまばらに植えられていたに過ぎないフェッシェンコイは大きな株となって生い茂っていた。花序を形成し始めていたが、まだ蕾はない。この株は頭上の岩棚に植えられているが、地面にも葉が落ちて不定芽で育ったと思われる子株が多く見られた。一つ残念なことは、名札がマルニエリアナとなっていた。しかもKalanchoeのスペル違ってるし。
今までにこの温室で確認したBryophyllum節はフェッシェンコイだけだったが、今回は新たにシコロベンケイと黒錦蝶が加わっていた。後者は名札がなかったが、よく見かける暗褐色で狭い葉のタイプである。つまり子宝草の類が3種見られたということで、なかなか良かった。その他のカランコエも4種あり、計7種のカランコエが確認できたが、これは国内の植物園としてはいい方なのではなかろうか。
このまま毎年1種ずつ増えていくと楽しそうだが、なかなか難しいだろうか。
補修されて何とか立っているベハレンシスKalanchoe beharensis
シコロベンケイKalanchoe daigremontiana
フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiと間違いだらけの名札
マニアのこだわり [others]
アフリカ南部のカランコエ [others]
著者:Gideon F. Smith、Estrela Figueiredo、Abraham E. van Wyk
発行年月:2019/10/19
発行者:Academic Press
ISBN:978-0-12-814007-9
彼らの仕事の凄いところは、本書も含めて文献的な調査が徹底していることである。そのため定説めいた情報を覆したことが幾つかある。例えば錦蝶の学名は最近K. delagoensisが使用されているが、実は昔使っていたK. tubifloraの方が適格であったというようなことである。
実を言うとアフリカ南部産の種にはそれほど興味がないのだが、豊富な写真は大変参考になり、帰化したBryophyllum節の種も幾つか扱っているので、貴重な文献情報が増えて嬉しい。近年この地域で幾つか新種記載されたり、亜種のステイタス変更があったりと変動があったので、その点も参考になる。
また2017年に記載されたK. waterbergensisについては28頁目に名は載っているが、こちらも種の説明には未掲載である。これらは本書の研究史・自然史的な徹底ぶりからすると実に惜しいのであるが、2nd editionで追加する手もありそうだ。そうなったとき、本書はペーパーバックながら非常に高価なので、個人的にはちょっと苦しい。
いずれにしてもカランコマニアには、かなりお薦めの一冊である。