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チンバザザ動植物公園のカランコエ [others]

 マダガスカルの首都、アンタナナリボの中心地から南へ約2.5Kmに位置するチンバザザ(ツィンバザザ)動植物公園Parc Botanique et Zoologique de Tsimbazazaは、以前紹介したトリアラのアンツカイ樹林公園と並ぶ同国の2大植物園のひとつである。というよりマダガスカルでその他に公共の植物園があるのかどうか知らない。チンバザザでは彼の国の代表的な動物群であるキツネザルの仲間は充実した種数が見られ、小さな爬虫類館ではホウシャガメAstrochelys radiataやクモノスガメPyxis arachnoidesといったカメマニア垂涎の種やマダガスカルボアAcrantophis madagascariensisといった固有種が見られる。但しケージのガラスが汚いので、写真撮影には向いていない。しかもその建物が閉鎖されていることも多く、行けば見られるという訳でもなさそうだ。
 この公園は市民には安く解放されていて、憩いの場として休日は賑わう。動植物園としての機能より公園としての役割の方が大きい。

 園内にはアルフレッド・グランディジェの胸像があり(彼の名はカランコエやバオバブにみられる)、その近くに多肉植物のエリアがある。ここではアロエやモリンガ、アローディア、ユーフォルビアに混じって何種かのカランコエが見られる。種数は少ないものの、そこの環境に順応した野生的な姿を見ることができる。ものは言いようで、要するに展示的に植えてあるというより、一度植えたものが何とか生き残っているという表現が正しいかも知れない。
 確認できた種は、乾季の終わりでベハレンシス、ヒルデブランティ、ストレプタンサ、ガストニス・ボニエリ、キンチョウ、セイロンベンケイソウくらいであったが、雨季の終わりに訪れるともっと豊富な種が見られるかもしれない。過去の記録を見るとセイタカベンケイやテヌイフローラもあったようだ。テヌイフローラK. tenuifloraなど、もともとがこの植物園で見つかった標本を基に新種記載されている。かつてはマダガスカルの希少種が集められていた同園も、時の流れを経て衰退してしまった感が強い。
 おもしろいのは、雑草として疎まれるキンチョウが個体数少なく繁茂していないのに対し、ガストニス・ボニエリはものすごく蔓延っていることだ。キンチョウも乾季に強そうではあるが、何かの条件が繁茂を抑え、逆にガストニス・ボニエリには有利な条件があるのだろう。ここのガストニス・ボニエリは北西部の自生地よろしく、葉が立ち上がった状態で乾季を過ごしている。日本で栽培しているとなかなかこういう姿は見られない。

 以下に同園で見られるカランコエの写真を列挙したい。

ベハレンシスK. beharensis 通常タイプのもの
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ベハレンシスK. beharensis インテリアショップ等で見られるゴールデンタイプ
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ベハレンシスK. beharensis 葉がグレーのもの
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ベハレンシスK. beharensis var. subnuda
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ヒルデブランティK. hildebrandtii var. glabra
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ストレプタンサK. streptantha
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ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieri葉を立てて乾季をしのぐ
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ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieriはこのように蔓延っている
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セイロンベンケイソウK.pinnata名の通り羽状葉が発達している
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タグ:チンバザザ
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Wikipediaを添削 [others]

 正直に言うと、Wikipediaの記事をそのまま信じてしまうことは多々ある。しかし、前提としてわかっていることではあるが、これはどこの誰とも知らない人が勝手に書き込んでいるものなのだ。それでも大半の記事は大変しっかりしているように見える。なのでついつい本気にしてしまうのだが、時々とても駄目な記事があったりする。何故か私の専門関連の記事はひどいものが多く、カランコエ関係も例外ではない。
 日本語のWikipediaでカランコエ関連の記事には以下のようなものがある。
カランコエ
キンチョウ
コダカラベンケイ
セイロンベンケイ
ベニベンケイ
リュウキュウベンケイ
 多くの項目は殆ど見るべき情報がなく、細かいことは見逃すとしても(例えば分布情報の抜け漏れなど)、明らかな間違いについて修正を試みたい。では上記項目を順に見てみよう。

❒カランコエ
・「花弁は5枚でやや反り返っていて、星の形に開ける。」
⇒ 花弁は4枚である。種によって反り返りがあったりなかったりする。
・「一般に園芸店などで扱われるのは、ベニベンケイであることが多い。」
⇒ ベニベンケイを基にした交配種、または栽培品種が正しい。カタカナでベニベンケイと書くと種名なので、正しくない。ベニベンケイそのものは超が付くほどのレアもの。
・「コチョウノマイ(胡蝶の舞) Kalanchoe laxiflora = K. crenata = K. fedtschenkoi = Bryophyllum crenatum」
⇒ K. crenataとK. fedtschenkoiは全くの別種
・「リュウキュウベンケイ(琉球弁慶) Kalanchoe integra」
⇒ 学名はKalanchoe spathulata、Kalanchoe integraは別種で現在はKalanchoe deficiensのシノニムとなっている

❒キンチョウ
 この項ではBryophyllum属としていて、上記カランコエの項ではBryophyllumをKalanchoeに含めるとしていたので、矛盾がある。
英名としてdevil's backboneが挙げられているが、これはシコロベンケイの英名。

❒コダカラベンケイ
 この項もBryophyllum属としている。写真は本種ではなく子宝草=クローンコエ

❒セイロンベンケイ
・「原産は南アフリカだが、現在では熱帯地方各地に帰化している。」
⇒ 原産はマダガスカル。キンチョウに比べると南アフリカでは限られた3地域に帰化しているに過ぎない。
・「はじめは単葉だがよく育つと三出-単羽状複葉となる。」
⇒ 3~5枚小葉の羽状複葉となる。

❒ベニベンケイ
 特筆すべき間違いはないが、他種との交配による栽培品種を「変種」としているのは間違いで、栽培品種をこの学名で呼ぶのも誤りである。

❒リュウキュウベンケイ
・「リュウキュウベンケイ(琉球弁慶、Kalanchoe integra)」
⇒ 繰り返しになるが学名はKalanchoe spathulata。
本項目は国内の絶滅危惧情報等があり、まともである。

こうしてみると大して間違っていないように見えるが、元の情報そのものが非常に少ないのも一因である。こんなところで揚げ足取りするよりWikiを修正した方が有意義かもしれないが、登録するのも面倒だし誰も困らないと思われるので、安易な道を選ばせてもらった。

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温室のカランコエ;新宿御苑/不定期巡回 [others]

 20166月に新宿御苑の温室は「定期巡回してもよい」と感じたという記事を記したが、その後4年半も行かず仕舞いであった。20年も暮れようとしていた頃、急に新宿御苑を訪れることになった。果たしてカランコエという視点から見て、久々の御苑温室は新たな魅力を増していた。

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  カランコエは基本的に乾燥地の植物(平たく言えば多肉植物)のエリアにまとめられているが、今回は沖縄の植物エリアにリュウキュウベンケイソウが地植えされていた。前回まではガラス張りの別室や特別展示だったが、勢いが増したか個体数が増えたか、地植えのリュウキュウベンケイソウは良く繁茂して花序も発達し始めていた。しかし残念ながら名札の学名は相変わらず「Kalanchoe integra」となっていた。何度か書いているようにリュウキュウベンケイソウはKalanchoe spathulataである。

 

繁茂するリュウキュウベンケイソウKalanchoe spathulata

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花序を形成し始めている

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 そして以前大きなベハレンシスが目立った乾燥地エリアへ行くと、以前からの個体は自立に限界が来て切り口も痛ましく緑色のロープで支えられていた。挿し穂から新たに育てたような鉢植えの大型個体もあり、その根元に根上不定芽が多く芽吹いていた。小さな個体も所々に生えていて、充実している。

以前ここで見られた他の種類、月兎耳・唐印・フェッシェンコイも全て今回も見られた。特筆すべきは唐印で、名札の学名はKalanchoe thyrsifloraとなっていて、どうやら本物のようだ。最近は紅唐印Kalanchoe luciaeばかりで唐印は見かけたことがない。国内では希少種といっても良いくらいだ。

 2016年には数本がまばらに植えられていたに過ぎないフェッシェンコイは大きな株となって生い茂っていた。花序を形成し始めていたが、まだ蕾はない。この株は頭上の岩棚に植えられているが、地面にも葉が落ちて不定芽で育ったと思われる子株が多く見られた。一つ残念なことは、名札がマルニエリアナとなっていた。しかもKalanchoeのスペル違ってるし。

 今までにこの温室で確認したBryophyllum節はフェッシェンコイだけだったが、今回は新たにシコロベンケイと黒錦蝶が加わっていた。後者は名札がなかったが、よく見かける暗褐色で狭い葉のタイプである。つまり子宝草の類が3種見られたということで、なかなか良かった。その他のカランコエも4種あり、計7種のカランコエが確認できたが、これは国内の植物園としてはいい方なのではなかろうか。

 このまま毎年1種ずつ増えていくと楽しそうだが、なかなか難しいだろうか。

 

補修されて何とか立っているベハレンシスKalanchoe beharensisIMG_4659.JPG

貴重品の唐印Kalanchoe thyrsifloraIMG_4624.JPG

シコロベンケイKalanchoe daigremontianaIMG_4638.JPG

黒錦蝶Kalanchoe beauverdiiIMG_4644.JPG

フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiと間違いだらけの名札IMG_4640.JPGIMG_4639.JPG


タグ:新宿御苑
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マニアのこだわり [others]

 趣味の如何を問わず、マニアとは拘りである。拘りのない愛好者はマニアではない。健全な趣味人である。つまり、マニアは他人からすればどうでもいいようなことが気になるような人達なのだ。カランコエの人為的な品種(交配種含む)を追求するのもマニアだが、種分類を越えて種内変異(主に地域個体群)にまで食指を伸ばし始めたら、もう自分は別方向でマニアであると認めなくてはいけない。
 もともとマニアになろうと思って始めたこのブログだが、マニアに近づくにつれ範囲を定めないと先の人生でえらいことになると気づいた。そこでカランコエ全般については緩く楽しむことにして、ブリオフィルム節(亜属とされることもある)のうちの葉縁に不定芽を生じる種群(所謂子宝草)についてのみ普通のマニアとして、トータルとして見たときにお気楽なカランコマニアとしてやっていければいいと、この頃そう思う。

 さて、皆さんは伊豆七島に於けるシマヘビの変異や釧路と樺太のキタサンショウウオの違いなんかに興味を持ったことはないだろうか。えっ、ない? そもそもなんで急に動物の話を持ち出すのかって? いや、私は植物一般に詳しくなくて、身近な例を思いつけなくて。。。
 では、日頃園芸店などで目にするカランコエが別の店では趣が違って見え、ついついまた買ってしまったというような経験は? あぁ、それならあるという答えが返ってきそうだ。そう、分類学的には同種(亜種・変種)でも違うタイプの株は園芸的に価値があるとみなされて、もてはやされたりする。枝変わりは勿論のこと、実生から育てた変異を固定したり、意図的に育種してみたり。そして人為交配種を創造するに至り、栽培品種は無限に広がっていく。
 そこまで手を広げなくとも、同種内で違った型が見られたり、地域による変異などには興味をそそられるものと思う。そうなったらもうマニアの道に一歩踏み入れた状態だ。実際には成長段階や育て方(環境)による変化もあってなかなか難しいものがあるが、もっと単純に通常タイプとちょっと違ったタイプがあるなどという例を知ると、どちらも欲しくなるのがマニアである。自分が子宝草の類に対してマニアを目指すのは、この領域である。人為交配種にも多少は手を出したいものの、経済的・時間的に制約されない身分でないと、のめり込むわけにはいかないだろう。

 という訳で機があれば子宝草は今後も蒐集していきたいと思っている。そのうち以前記した子宝草目録の補遺・訂正版も手掛けたいと思う。であるから子宝草については改めてということで、ここでは別のカランコエの写真を載せてなんとなく終えることにしたい。
ミロティKalanchoe millotiiの通常タイプ
ミロティP6130056.JPG
やや円形の葉を持つタイプ
ミロティ BioIMG_0809.JPG
繊毛が少ないタイプ(Tsivory産)
millotii f TsivoryIMG_4197.JPG

タグ:ミロティ
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アフリカ南部のカランコエ [others]

 2019年にBoiteau et Allorge-BoiteauのKalanchoe de Madagascar(1995)以来24年振りにカランコエの地域誌regional monograph が出版された。アフリカ南部のカランコエを扱った書籍である。元々この本の出版を偶然知ったのは2018年だったが、発行時期が何度も延びてヤキモキさせられた。無事出版されて何よりである。

書名:Kalanchoe (Crassulaceae) in Southern Africa: Classification, Biology, and Cultivation
著者:Gideon F. Smith、Estrela Figueiredo、Abraham E. van Wyk
発行年月:2019/10/19
発行者:Academic Press
ISBN:978-0-12-814007-9

 この本はナミビア、ボツワナと南アフリカ、スワジランド、レソトに産するカランコエ属の植物17種と移入種(帰化、半帰化)7種、園芸的な一般種6種の計30種について自然史的な解説を試みたものである。著者のうちSmithとFigueiredoは以前もBradleya誌に掲載した論文を紹介したので覚えている方もいらっしゃるかもしれない。二人は近年同誌を中心にカランコエの分類学的な論文を精力的に出版している。Bradleya誌は年刊で最近毎年購入しているが、その他の定期刊行物等に掲載した論文で興味のあったものをFigueiredo女史に別刷り請求したところ、すぐにメールで送ってくれたので個人的な好感度も高い。
 彼らの仕事の凄いところは、本書も含めて文献的な調査が徹底していることである。そのため定説めいた情報を覆したことが幾つかある。例えば錦蝶の学名は最近K. delagoensisが使用されているが、実は昔使っていたK. tubifloraの方が適格であったというようなことである。
 実を言うとアフリカ南部産の種にはそれほど興味がないのだが、豊富な写真は大変参考になり、帰化したBryophyllum節の種も幾つか扱っているので、貴重な文献情報が増えて嬉しい。近年この地域で幾つか新種記載されたり、亜種のステイタス変更があったりと変動があったので、その点も参考になる。

 上で触れた近年の記載種には唐印K. thyrsifloraのグループが多い。本ブログでは以前この仲間に唐印、紅唐印K. luciaeとその別亜種の3タクソンが知られることを触れたが、別亜種が別種K. montanaに昇格し、更にK. winteriとK. crouchiiの5種に増えている。非常に残念ながら発行が遅れたにも関わらず、同じ著者が記載したK. crouchiiは本書の掲載に間に合わなかった。
 また2017年に記載されたK. waterbergensisについては28頁目に名は載っているが、こちらも種の説明には未掲載である。これらは本書の研究史・自然史的な徹底ぶりからすると実に惜しいのであるが、2nd editionで追加する手もありそうだ。そうなったとき、本書はペーパーバックながら非常に高価なので、個人的にはちょっと苦しい。
いずれにしてもカランコマニアには、かなりお薦めの一冊である。

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