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葉縁不定芽と交雑の方程式 [others]

 タイトルは洒落ただけでここで方程式を提示するわけではないが、子宝草同士の交配と不定芽形成について数少ないサンプルからオハナシを組み立ててみたい。

 カランコエ属の中でもBryophyllum亜属同士の交雑品種はあまり出回っていないが、その中でも(個人的に子宝草と呼んでいる)葉縁不定芽を形成する種の交雑種は更に少なくなる。交雑品種を作出するのは主として花ものが多いため、商売にならない子宝草は交配することもないのだ。とはいえ我々はホートニィや不死鳥Kalanchoe x houghtonii(錦蝶K. tubiflora × シコロベンケイK.daigremontiana)という有名な人為交配の例を知っている。さらに自然交雑種としてマダガスカル南部から南西部にかけて発見された種としては、K. x lokarana, K. x richaudii, K. “Rauhii”, K. x poincarei, K. x rechingeri, K. x descoingsiiという面々が知られている。
 自然界で見つかった交雑種の親植物は(推定ではあるが)どれも子宝草同士と考えられており、それ故これらの植物も全て葉縁不定芽を形成する。と、言い切ってしまいたいがK. x poincareiだけは今までタイプの違う2個体が発見されているに過ぎず、個人的に確認できていない。(でもこれはrosei種群×beauverdii種群と見られるため、まず不定芽形成するとみてよい。)


マダガスカル南東部で見つかったライジンゲリK. x rechingeri(錦蝶K. tubiflora×黒錦蝶複合種K. costantiniiの自然交雑種とされる)
x rechingeriIMG_7243.JPG

 人為交配の例としては欧米、中近東、東アジアでの報告や論文があるが、親植物にK. tubiflora, K.daigremontiana, K. laetivirens, K. scandens, K. variifolia, K. perrieri, K. laxiflora, K. fedtschenkoi, K. marnieriana, K. tenuiflora, K. peltigera, K. pinnata, K. suarezensis, K. gastonis-bonnieri, K. “Rauhii”を使用している。そして知っている限りではどれもが葉縁不定芽を形成する。これは系統関係が遠いと考えられるK. pinnataやK. suarezensisの類とBryophyllum亜属のInvasores節との掛け合わせでも同様である。この限定的な例から「葉縁不定芽を形成する種同士の交雑ではF1個体も葉縁不定芽の形成能力がある」と言えそうだ。

 ではBryophyllum亜属とKalanchoe亜属を交配した場合はどうであろうか。個人的な情報のやり取りから得た知見だが、花ものカランコエK. blossfeldiana hybridsやアジア産カランコエとK. scandensの交配結果ではどれも不定芽を形成しない。この手の交配例は他にあまり知らないのだが、論文上の記載やデータを拾ってみよう。まずはポルトガルのResende(1956)ではB.calycinum × B.daigremontianum(今で言えばセイロンベンケイソウ×シコロベンケイ)は葉縁不定芽pseudo-bolbilhosを生じるがK. blossfeldiana × B.daigremontianum(花ものカランコエ×シコロベンケイ)では不定芽bolbilhosの形成能力はないとしている。
 時代は飛んで異節間交雑を扱ったIzumikawa et. al.(2007)でもリュウキュウベンケイソウK.spathulata × ラクシフローラK.laxifloraの交雑結果として、不定芽形成なしとしている。因みに「異節間交雑」と言っているのは、この時期の属下分類単位ではKalanchoeとBryophyllumは節sectionであった(最近になって亜属扱いの方が都合よくなっている)からである。
更に王嘉偉&朱建鏞(2011)でも、花ものカランコエの品種‘Isabella’ × セイロンベンケイソウK. pinnataの異節間交雑の結果として葉縁不定芽(葉緣苗)は「無」としている。以上の結果から「Bryophyllum亜属とKalanchoe亜属を交配した交雑個体には葉縁不定芽の形成能力がない」と現在のところは言っておこう。

 さて、それでは現在Bryophyllum亜属とされる種の中でも不定芽を形成しない種と形成する種の交雑ではどうなるのであろうか。この場合はデータが殆どなく、僅かに私信で例があるに過ぎない。私信情報なのでざっくり言うと、紅提灯K.manginiiとプベスケンスK.pubescensの交配株と考えられているZebediと子宝草の交配例がある。Zebediの親植物については最初にI氏からその見解を示唆され、その後海外からの情報で確信となった。
 K.manginiiとK.pubescens、そしてそれらの交雑品種“Zebedi”とも開花後に花序に不定芽を形成するが、葉縁不定芽は形成しない。これとセイロンベンケイソウK. pinnataやK. “Rauhii”との交雑株が作出され、これらには葉縁不定芽が形成されることが確認されている。これについては色々しがらみがあって詳しくは語れないが、新たな可能性というか煩悩を呼ぶ情報ではある。という訳でこのパターンは「 」付きの見解を保留としたい。

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