子宝草とつる性カランコエの再編成(前編) [systematics]
カランコエとブリオフィルム⑦ ハーフウェイ・システマティックス [systematics]
一方Kitchingia亜属についても別の論文(Smith et al., 2021)にてレビジョンが出版されており、これにはBoiteau and Allorge-Boiteau(1995)のグループSylvaticaeの2種のみが含まれることになった。従来のもう2種が含まれるグループCampanulataeは別亜属になるのだろうが、現時点での所属は明らかにされていない。Boiteau and Allorge-Boiteau(1995)の時点でKitchingia亜属(文献中ではKitchingia節として扱われている)の特徴は心皮が4開裂することであったが、今回の論文ではそれに加えて花序に不定芽を形成しないことも特性とされた。
今後も目が離せない展開が待っていそうで、今年は子宝草マニアにとってエポック・メイキングな年である。
カランコエとブリオフィルム⑥ 平成最後の新展開 [systematics]
今回タイトルに⑥と付けたが、では⑤を載せたのはいつなのだと突っ込まれる前に調べたら5年以上前だった(https://kalanchoideae.blog.ss-blog.jp/2014-08-03)
さて、昨年カランコエ属の下位分類に関する論文が英国のサボテン・多肉植物協会の会誌Bradleyaに掲載された。この手の話題は久々で期待して読んだのだが、分類学そのものではなく命名規約に因んだ状況整理的な内容であった。
著者:Gideon F. Smith and Estrela Figueiredo
掲載誌:Bradleya 36, 2018:162 - 172
論文名:The infrageneric classification and nomenclature of Kalanchoe Adans. (Crassulaceae), with special reference to the southern African species
論旨としては、Kalanchoe属はKalanchoe・Bryophyllum・Kitchingiaの3亜属に分けられるというものだ。そして何故かKitchingia「亜属」のみ構成種が載っていて、下記の種がリストアップされている。
Kalanchoe ambolensis
Kalanchoe campanulata
Kalanchoe gracilipes
Kalanchoe peltata
Kalanchoe miniata
Kalanchoe porphyrocalyx
Kalanchoe schizophylla
Kalanchoe uniflora
そして次の3種はBryophyllum「亜属」に残しておく(retained)との記述がある。
Kalanchoe jongmansii, Kalanchoe laxiflora, Kalanchoe streptantha
上記のリスト前半の4種は、Boiteau体系では心皮が4開裂していることを根拠としてKitchingia節に分けていた。これは至極納得がいくものであった。以前から言われていた萼筒が花筒との比率が小さいことと、葉縁不定芽の形成がないことを条件とした場合、リスト後半の4種も条件に合うので一見良さそうに思える。しかしそうするとKalanchoe jongmansiiを保留にしている意味が分からなくなる。
一年生、または多年生。 草本性または木本性、地上性。 葉縁には通常不定芽を生じない。 花は直立または広がる。 花筒は通常、萼筒・萼片よりもはるかに長い。花糸は花冠の内側に挿入、 葯は花冠内か、非常にわずかに突出する。
多年生または二年生。草本性。 地上性だが、まれに着生。 葉縁の鋸歯の窪みにしばしば不定芽を生じる。 花は下垂型。花筒と萼筒は多くの場合、区別が目立たない。 花糸は花冠の下部3分の1に挿入、葯は突出する。
多年生。 草本性。地上性または着生。 葉縁は通常不定芽を生じない。花は下垂型。花筒が萼筒によって目立たないことはあまりない。 花糸は花冠の下部3分の1に挿入、葯は突出する。
個人的な収穫としては引き続きカランコエ1属説が支持されている点と、Eukalanchoeが否定された点に対して確証を深めたが、分類面では何の進展もない(後退はある)と思えるのであった。
ブリオフィルムの系統/葉縁に不定芽を形成するタイプ③ [systematics]
ヴォワトー体系の子宝草4グループ(進化研体系では3節)には、葉縁に不定芽を形成しない(と思われる)種も含まれる。また、形成するかしないか文献上不明なものもあるが、4グループの9割以上の種・変種は葉上不定芽を生成する。
一口に不定芽と言っても、大まかに二つのタイプがある。ひとつはシコロベンケイやクローンコエに生じるような形状のもので、これを狭義のbulbilと呼ぶのだろう。この不定芽を本体の葉から外して保存しておき、気温の高い季節に土の上に蒔くと発根、発芽する。勿論、不定芽を生成している時期であれば気温の条件は整っているので、すぐに蒔いてもよいし、敢えて蒔かなくても自然に落下してそこらじゅうで根付くのは多くの人が経験している通りである。
もうひとつはガストニス・ボナリ(ガストニス・ボニエリ)やセイロンベンケイソウのように普通の植物の芽の形で葉縁から生じてくるタイプだ。これは英語で言えばplantletである。不定芽そのものはadventitious budと言い、その中でカランコエに生じるタイプとしてbulbilとplantletに分けられるということだ。尤も英語圏でも明確に区別している人も余りいないのではあるが。
4グループにこの2タイプを当てはめると、
Scandentes、Bulbilliferaeはbulbilタイプ
Prolifraeはplantletタイプ
Suffrutescentesはbulbilに近い中間タイプと言える。
こういう視点からすると子宝草のグループ分けは進化研体系よりもヴォワトー体系の方が個人的に便利である。
bulbilタイプの不定芽を形成する錦蝶K. delagoensis
plantletタイプの不定芽:ガストニス・ボナリK. gastonis-bonnieri
中間タイプの不定芽:フェッシェンコイK. fedtschenkoi
面白い事に4グループ(あるいはブリオフィルム節)以外で花の咲いた後の花序に生じる不定芽もbulbilタイプ(マンギニー、ミニアータ、レブマニィ等)とplantletタイプ(Kalanchoe節)、中間タイプ(シコロベンケイ等)がある。但し、この不定芽のタイプと植物自体の系統は余り関係ない。
花序の不定芽bulbilタイプ:レブマニィK. rebmannii
中間タイプ:シコロベンケイK. daigremontiana
ちょっと消化不良気味なので、最後にGehrig et.al.(2001) による核DNAのデータを近隣接合法で処理した系統関係を参照すると、子宝草のグループに限っては進化研体系の方に近い結果が得られている。即ち、ラクシフローラやロゼイとシコロベンケイ・錦蝶が同じクレイドで、セイロンベンケイソウやプロリフェラとガストニス・ボナリはやや離れている。スキゾフィラのデータがないので、黒錦蝶との関係は分らない。また、花序に有毛不定芽を生じるマンギニーやミニアータはひとつのクレイドにまとまっていた。
従って葉上不定芽のタイプだけで分類しても、それはあくまで個人の趣味のレベルで便利かどうかという事だけである。要するに、私がただの自己満足で不定芽のタイプ分けをしたに過ぎなかった!
ブリオフィルムの系統/葉縁に不定芽を形成するタイプ② [systematics]
「葉縁に不定芽を形成するブリオフィルム」というと表現が長くなるので、これをまとめて便宜的にここだけで「子宝草」と呼ぶことにしたい。「子宝草」というのは実際は流通名なのか、栽培品種名なのか、とにかく一般名ではあるが、Kalanchoe laetivirensの和名っぽく扱われている。だから紛らわしいのであるが、元々このブログでは子宝弁慶(シコロベンケイ)と混同が著しいK. laetivirensを商品名であろうクローンコエと呼ぶことにしているので、「子宝草」を一般名称化してしまっても、ここだけのルールということで御容赦願いたい。
もうひとつ敢えて「子宝草」の表現を採用した理由は、もう10年以上前だろうか、子宝草資料室という名だったか、この手のカランコエのHPがあって、いろいろな種を紹介していた。当時カランコエ初心者だった自分はそのHPに随分と刺激されたものである。もう存在していないようなので、かつてのサイトを偲ぶとともに敬意を表して「子宝草」と表現したいと思った。
(子宝草サイトの方、万が一ここを見ていたらコメント頂けると嬉しいです。)
子宝草のうちセイロンベンケイソウをはじめとする何種かは汎熱帯域に広く見られ、いかにもBryophyllum節が世界的に分布しているかのように見えるが、生物地理学的にBryophyllum節の原産地がマダガスカル(+コモロ)であることには異論がない。他の地域では単に帰化植物として蔓延っているに過ぎないが、旺盛な繁殖力のなせる業である。
そのマダガスカルの子宝草はヴォワトー体系では4グループに分けられるというのが、前回までの話だった。ここからが前回の続きとなる(ということは、今回も前振りが長すぎたようだ)。
さて、ヴォワトー体系のグループ分けは以下のようになっている。Boiteau et Allorge-Boiteau(1995)を基本として、その後記載された種を追加して種レベルでリストアップしてみる。変種や品種はいずれ別の形で整理したい。
① Scandentes:Kalanchoe schizophyllaスキゾフィラ(シゾフィラと表記することもある)、Kalanchoe beauverdii黒錦蝶、Kalanchoe ×rechingeriライジンガリ、Kalanchoe ×poincarei
② Bulbilliferae:Kalanchoe daigremontianaシコロベンケイ、Kalanchoe delagoensis錦蝶、Kalanchoe laetivirensクローンコエ、Kalanchoe sanctula、Kalanchoe ×houghtonii不死鳥?
③ Suffrutescentes:Kalanchoe roseiロゼイ、Kalanchoe fedtschenkoiフェッシェンコイ、Kalanchoe laxiflora胡蝶の舞(ラクシフローラ)、Kalanchoe marnierianaマルニエリアナ、Kalanchoe serrataセラタ、Kalanchoe waldheimiiワルトハイミィ、Kalanchoe tenuiflora、Kalanchoe ×lokarana、Kalanchoe ×richaudii
④ Prolifrae:Kalanchoe pinnataセイロンベンケイソウ、Kalanchoe proliferaプロリフェラ、Kalanchoe rubellaルベラ、Kalanchoe curvula、Kalanchoe gastonis-bonnieriガストニス・ボナリ、Kalanchoe suarezensisセイタカベンケイ、Kalanchoe mortagei、Kalanchoe bogneri、Kalanchoe macrochlamys、Kalanchoe maromokotrensis
上記以外に近年記載されたKalanchoe cymbifolia、Kalanchoe humifica、Kalanchoe peltigeraがあるが、グループ分けした場合の所属が不明である。また、近々一部の分類種群でレビジョンが発表されて、若干のステイタス変更と新種記載が行われるようである。論文が発行され、入手したら情報を更新しようと思う。
上記の体系に対し、以前紹介した進化研体系(湯浅1978「新花卉」98号)では少し違った分類を提示している。
ここではトウロウソウ亜属Subgenus Bryophyllumとして、その下に①ラキシフローラ節Section Laxiflora、②ガストニス節Section Gastonis、③セイロンベンケイ節Section Pinnata、④ビューベルディイ節Section Beauverdiiの4節を設けている。同じ4グループでもヴォワトー体系とは少し異なっている。
2つの体系を比較すると、下記のようになる。
Boiteau et Allorge-Boiteau (1995) | 湯浅(1978) | |
1 | Scandentes | ビューベルディイ節 |
※但しschizophyllaはキチンギア亜属 | ||
2 | Bulbilliferae | ラキシフローラ節 |
3 | Suffrutescentes | |
4 | Prolifrae | ガストニス節 |
セイロンベンケイ節 |
総合的に考えて湯浅の進化研体系に1票入れたいところだが、一長一短といったところだろうか。系統学的根拠を無視して自分勝手な都合で言うと、Scandentesは湯浅の体系、Bulbilliferae・Suffrutescentesはヴォワトー体系、Prolifraeは湯浅の体系にすると、頭の中がすっきりする。ここではこれ以上の言及は避けるが、近々各グループに所属する種を列挙するような作業を試みようと思う。
Scandentesの黒錦蝶Kalanchoe beauverdii
Bulbilliferaeのシコロベンケイ=コダカラベンケイ(本物)Kalanchoe daigremontiana
Suffrutescentesの胡蝶の舞Kalanchoe laxiflora
ProlifraeのプロリフェラKalanchoe prolifera