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バラとローズのエニグマ(後編) [taxonomy]

 前回は知られざるK. roseaの素性と、それに絡んで未だに知られざるK. carneaについても触れた。今回は更に知られざるもうひとつのK. roseaの話から入る。
 Chevalierは1898-1899年の探検旅行にてフレンチ・スーダン(現在のマリ)で高さ1m、芳香のないピンクの花の咲くカランコエを発見し、K. rosea A. Chev.(1920)として記載した。明らかにKalanchoe rosea C.B.Clarkeの存在に気付かずに命名したもので、ホモニム(同名異物)となり不適格となる。しかしながらChevalierの原記載は非常に短いということはあるにせよ、原記載としての要件は満たしている。
現状はDescoings(2003)では保留扱い、the African Plant Databaseでは不適格、IPNI(the International Plant Name Index)では名をリストアップされているだけという状況ということで、新たな名で再記載の動きはないようだ。


 さてもう一方のローズ、Kalanchoe roseiはHamet & Perrier de la Bathieにより1914年に記載された種で、鋸歯の目立たない披針形の葉が特徴なBryophyllum亜属である。(と、ここでは記しているが、この特徴は今年2021年に覆ることになる。)Shaw(2008)によると他のカランコエと交雑して変種が生じている。(これも以前Shawの論文を紹介した際に「こういうのは混乱の元なのでやめてほしい。」と一蹴した内容で、根拠は示されていない。)
 論文に戻って、K.roseiは1910年にPerrierがマダガスカル南部Imaloto川上流のRanahiaで採集しているが、ホロタイプを指定していなかった(Raymond-Hamet et Perrier de la Bathie, 1914)。Perrierがその時採集した標本は現在パリ国立自然史博物館と米国のスミソニアン博物館に所蔵されている。
 更にK. roseiの命名法を確認し、Shaw(2008)が議論なくして元の亜種から変種に改変したK. rosei var. serratifoliaとK. rosei var. variifoliaを採用し、K. rosei var. seyrigiは原記載当時の適格条件であるラテン語での特性記述(descriptionやdiagnosis)がないため、有効名ではないとして扱っている。この辺も後にまた大きく変更が生じて整理されたので(Shtien et Smith, 2021)、いずれそれらの論文の内容も紹介したい。以上がこの論文の大要だが、上記の知見については2019年時点での見識と見ておきたい。


 最後に触れているのはKalanchoe bouvieriというマイナーな(ともすればK. bouvetiiと勘違いしそうな)植物についてである。この名もHamet & Perrier de la Bathieにより、K.rosei の2年前1912年に記載されている。K. rosei と多分同時にPerrierが1910年にImalotoで採集している。一般的にはBryophyllum亜属でK. roseiの近縁種ぐらいの認識かも知れないが、パリ国立自然史博物館の標本にはPerrierの手書きラベルでこれがK. roseiの変異monstroseであると記されている。このラベルには日付の記載がなく、K. bouvieri の2年後に記載されたK. roseiの名があることから、ラベルがいつ付されたものかは不明である。
 後にHumbert(1933)はウィーン規約に基づきK. bouvieriを種として否定したが、40年以上を経た1975年にその見解が公式となった。しかしここで問題なのはK. bouvieriとK. roseiはシノニムとなるので記載年が早いK. bouvieriに先取権があるのだが、命名規約の例外規定に基づき現在までに広く認知されたK. roseiが残ることになった。


 以上、論文の要旨を紹介したがまとめると、
Kalanchoe rosea:カランコエ亜属、リュウキュウベンケイソウに近縁。同名の北アフリカ産K. rosea A. Chev.の名は無効(だが再記載はされていない)
Kalanchoe rosei:ブリオフィルム亜属。K. bouvieriは変異monstrose。
という内容であった。


2019年当時、ロゼイはこの植物とされていた
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