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ローズ門派の平定 その① [taxonomy]

 いわゆる子宝草(葉縁不定芽を形成するBryophyllum亜属)からセイロンベンケイソウやガストニス・ボニエリの仲間を除いたInvasores節の中で、分類的に一番混沌としているのがロゼイKalanchoe roseiの一派である。ロゼイといわれている披針形の葉の植物はタイプ標本とどういう関係なのか、同様に変種のseyrigiiとは何なのか、等々問題山積で解決などしないかのように見えた。ところが2021年に事態は急速に進んだ。Ronen Shtein & Gideon F. Smithのコンビがロゼイ種群に関する論文を3篇続けざまに発表したのだ。
 ロゼイ種群の分類学的問題は複雑なので、3つの論文を通しで読み解いていかないと理解がおぼつかない。論文は細かい問題にも触れていて、全部を網羅して紹介するのはちと難しいのだが、個人的に面白いと感じた部分を中心に要旨を紹介したいと思う。この論文の難しさは専門的に高度だからということもあるが、多重的に輻輳する問題を緻密に解いていくので、むしろ約款や契約書、あるいは難解な長編推理小説を読んでいくような難しさである。そして3篇を通して読破しないと最終的な結論というか理解が得られない。
 第1篇はK. peltigeraとK. rosei var. seyrigiiについて、第2篇はK. rosei var. variifoliaについて、そして最後はK. rosei var. roseiの問題を取り上げ、総合的にK. rosei種群の分類学的問題を解き明かしていく。今回から順に内容を咀嚼していきたい。


第1篇は下記の論文である。
Shtein, R. & G. F. Smith(2021)
Taxonomy and nomenclature of the southern Malagasy Kalanchoe peltigera, with reference to K. rosei var. seyrigii (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae)
Phytotaxa 490 (1): 047–059


 カランコエ・ペルティゲラK. peltigeraは2005年にDescoingsが新種記載した種であるが、ロゼイ・セイリギK. rosei var. seyrigiiとの関係が論じられたこともないし、気づいている人も殆どいないであろう。国内で現物が紹介されたことはなく馴染みのない種であるから当然である。ペルティゲラはフランスのPhilippe Richaud氏がマダガスカル南部、Mandrare川北部のTsivoryで採集したものを元に記載された盾状葉の種である。
 この種は記載当時形状の良く似たペルタータK. peltataとフェッシェンコイK. fedtschenkoiの中間型とされたが、花の形状や葉縁不定芽を形成すること(この論文で初めて公言された性質)からInvasores節であることが今回の研究で明確にされた。


 さて、上記のペルティゲラとロゼイ・セイリギの関係とは何であろうか。
いつも参考にするBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)の Kalanchoe de Madagascarに於いて、K. rosei var. seyrigi(この書では表記に最後のiが一つ足りない)のタイプ標本をパリの国立自然史博物館MNHM所蔵のSeyrig 819であるとしている。これはBekilyとTsivoryにほど近いBelamboの森で採集され、首都のアンタナナリボの植物園で栽培されていたもので、御丁寧に実際のその標本には赤字で「TYPE」と表記されている。そしてその標本を見ると、巷でセイリギと認識される楕円形で鋸歯の多い葉を持つ植物とは似ても似つかない盾状葉の植物であり、一見してペルティゲラに似ている。実際この研究で精査した結果、これはペルティゲラと同一であると結論付けた。となると本当のセイリギは実はペルティゲラとシノニムで、命名法の先取り権からするとペルティゲラの学名はK. rosei var. seyrigiiとなるのか、といった疑問が浮かんでくる。
 ではそもそもセイリギとは有効な変種なのかを調べると原記載はCactus (Paris)誌に掲載されたBoiteau & Mannoni (1949)の記事中にあり、正当な新変種記載の要件を満たした有効名であると確認された。しかしこの原記載を見るとこの変種はK. rosei subsp. serratifoliaの置換名で前記のSeyrig 819がタイプ標本ではなく、実際のタイプ標本はフォール・ドーファンFort-Dauphinの北部で採集されたHumbert 5.979であると分かる。これはK. rosei subsp. serratifoliaのタイプ標本でもあり、ここで両者がシノニムであることが明らかになった。そしてBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)でのタイプ標本の記載が間違っていて、後の研究者やマニアに誤認を与えたのであった。もっとも、このことに気づいた人間は世界でも片手で数えられるくらいしかいなかったに違いない(勿論、私はその中には入っていない)。


 論文中にはここら辺の考察が微に入り細に入り論じられ、私も原記載やタイプ標本の写真を見ながら確認しようと試みたのだが、あまりに几帳面な記述で私の語学力だとトランスレーターを使ってもうっかりすると読み違えるおそれがあり、ついぞ最後まで追随して確認することは断念した。
 結果として下記の5項目をまとめていたので、簡単に紹介したい。
1. 長年見過ごされていたK. rosei var. seyrigiiの名は有効
2. セイリギのタイプ標本はK. rosei subsp. serratifoliaと同一で、両者はシノニム
3. Seyrigが1944年に採集したSeyrig 819を含む3つの標本はペルティゲラと同定
4. ペルティゲラはロゼイK. rosei var. roseiに、セイリギはK. rosei var. variifoliaに近縁で共にInvasores節に含まれる。
5. K. peltigeraの名はそのまま有効


 考察の結果、以上述べてきたような結果を持って論文は一旦終わるが、おまけとしてパリの国立自然史博物館MNHMではペルティゲラのタイプ標本(Descoings 28316)がすでに失われていることが分かり、このホロタイプのクローンから新たにネオタイプR. Shtein 795, [TELA927]とアイソタイプR. Shtein 795 [TELA928]を指定した。


 ちょっと分かりにくかったかもしれないが、ロゼイ種群の第1弾はこのような整理が行われた。次回はバリフォリアK. rosei var. variifoliaについて説いた第2弾を紹介したい。


カランコエ・ペルティゲラKalanchoe peltigeraとその花
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