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ミニアータ系とは? [flowers]

 最近のNHK趣味の園芸のテキストは少なからずマニア趣向な規格があったりしてなかなか楽しいが、以前当ブログでも触れたように2000年代のカランコエの記事にはなかなかマニアックな種をさり気なく載せていた。ALPガーデンの小林先生が執筆していたので、一般には入手し難いものもマニア向けサービスのように見せてくれていたのではないかと思う。
 この時代のテキストには下垂型の花を咲かせる園芸品種も多数載っており、私にとっては垂涎の的だった(のだが入手できずに終わっている)。それらの品種を分類するのに「マンギニー系」とか「ミニアータ系」という言葉が使われている。これは品種開発時に交配する片親がマンギニーK. manginiiやミニアータK. miniataということである。マンギニーは多肉植物としても売っている紅提灯のことで、これを親に持つ園芸品種はテッサやミラベラなどのメジャーどころや名の分からぬものまで数々見受けられる。一方ミニアータ系となると基本的にウェンディとその改変品種のみと言ってよい。


 ウェンディはK. miniata×K. porphyrocalyxと言われるが、花の形状や色彩はK. porphyrocalyxと識別し難い。ミニアータK. miniataはあまり見かけない種なので、イメージが掴みにくいと思うが変異に富んだ種でRauh(1995)のマダガスカル本では7変種を上げている(miniata, andringitrensis, anjirensis, confertiflora, peltata, sicaformis, subsessilis)。困ったことにこれらの識別までは詳しく書いていないので、ミニアータの現物を前にしてもどの変種なのか判断できない。この7変種がミニアータの全てではなく、近年もつる性のものや萼片が完全に開いて花筒がむき出しになるものなどが見つかっている。上記の変種のいずれかに含まれるのだろうが、大木に着生する姿も見られ多彩なミニアータの世界が広がる。いつの日か分類学的研究が進んで、数種に分割される可能性も大きいが。
 ミニアータ(の多く)は個人的な感覚からすると、下垂型カランコエの中では最も美しい花が咲く。多くの変種では花の色はオレンジやピンクであるが、ウェンディを作出したJ.J.Karperは親のK. miniataについて、「くすんだ紫色の大きな花」と表現している(Karper et Doorenbos, 1983)。この手の色彩の花が咲くミニアータは他種との交雑個体(or種)と思われる鋸歯の目立つ欠刻葉のものとか、萼筒に暗色斑が目立つものがあるが、どうもウェンディとの共通形質が見いだせない。ミニアータの大きな特徴として葉柄基部が肥大し、抱茎するamplexicaulことが上げられるが、ウェンディには見られない。つまるところKarperも記述しているように立性の性質のみ受け継いでいる気もする。


ミニアータK.miniataの数タイプ
miniataIMG_9973.JPG
peltigera-like miniataIMG_9447.JPG
second miniataIMG_3424.JPG


 さて、趣味の園芸テキスト(2008.12, 2006.12, 2004.11, 2002.12, 2000.9)には、ウェンディ(=カルパーウェンディ)の他に以下のようなミニアータ系品種が紹介されていた。
ハメリンプール、ハーベストムーン、イエローウェンディ、ホーピング
全てウェンディを改変したものだ。今なら八重咲のサニーバルーン(日本での販売名はサニーディ)も載るだろう。

 ミニアータを親とした品種にはもう一つ、ミニアータ×ウニフローラということになっているティンカーベルがある。オレンジ系の花色のティンカーベルとティンカーベル・ネリー、パープル系の花のティンカーベル・エラとティンカーベル・ケリーが品種登録されている。これらもALPガーデンの品種で不鮮明な写真しかないため明確には分からないが、現在もシャンデリア(オレンジレッド、パープルレッド)として購入可能な品種とよく似ているように思う。ティンカーベルについては2014年にも記事を書いているが、その後は何の進展もなくティンカーベルとシャンデリアの謎はこのまま解けないかもしれない。

タグ:ミニアータ
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カランコエの節間雑種 [flowers]

 カランコエをカランコエ節Kalanchoe、ブリオフィルム節Bryophyllum、キチンギア節Kitchingiaの3節に分けるか、キチンギア節をブリオフィルム節に含めて2節に分けるかで捉え方が異なるが、園芸品種を初め、自然交雑による交配種を含めても異なる節Section同士の交雑例は多くない。
 一般的に良く知られるのはテッサ‘Tessa’でブリオフィルム節の紅提灯Kalanchoe manginiiとキチンギア節のグラキリペスKalanchoe gracilipesの交配によりオランダで作出された。以前の記事で書いた様にこれはすぐれた品種で、花色が薄いとか暑さに弱いといった(あくまで園芸上の)欠点をなくしたロングセラーである。しかしキチンギア節をブリオフィルム節に含めるとした場合、これは異節間雑種intersectional hybridではなくなってしまう。

‘Tessa’ギリシャの女子の名だろうか
TessaIMG_6114.JPG

 もう1種知られるのはミラベラ‘Mirabella’で、こちらはKalanchoe blossfeldianaの品種×紅提灯と言われている。これならカランコエ節とブリオフィルム節の交配種ということになる。この根拠として引用されるのはthe German journal Gartenwelt 60 (11)の記事であるが、ミラベラはこの時作出された雑種そのものではなく、その後30年を経て花卉業界に現れたものだ。例によって米国大家が宣っている説なので、話半分にしておきたい。ちなみに前述のドイツ交配種のときに使用されたブロスフェルティアナの品種は‘Tom Thumb’である。
 もっと信頼できる情報として農水省の種苗登録の記録によれば、ミラベラは育成者がThomas Frankで、「この品種は,『マンギニー』に無名の品種を交配して育成されたもの」と記されている。こちらの方を信じて、ミラベラを異節間雑種の代表的なものと認識したい。似たようなタイプの交配種も同様である。
 それから我が国では殆ど見られないようだが、ドロシーという花ものカランコエもカランコエ節×ブリオフィルム節のようである。ブリオフィルム節の方の親はどれであろうか。。。

花も名も美しい‘Mirabella’
Mirabella P3140038.JPG

 私の好きな子宝草の仲間のブリオフィルム節では2008年に発表されたリュウキュウベンケイソウKalanchoe spathulata×ラクシフローラKalanchoe laxifloraの雑種があげられる(Izumikawa et.al.)。こちらはある意味純粋にカランコエ節×ブリオフィルム節で、マダガスカルの進化的なブリオフィルム節とアジアのカランコエ節という一見遠い存在で交配が成立し、貴重なデータが得られている。
リュウキュウベンケイソウが子房親となった場合、雑種株は両種の中間的な形質のものが約半数見られ、残りはリュウキュウベンケイソウと区別がつかなかった。それは交雑せずに自家受粉してしまった可能性がある。逆の交雑で得られた種子のうち、発芽したものはラクシフローラと区別がつかず、これも自家受粉が疑われる。
リュウキュウベンケイソウ×ラクシフローラの雑種はDNA量からも染色体数からも両種の交雑が確認され、形態形質こそ中間的であったが葉縁不定芽の形成は現れなかったとしている。

その後カランコエの交配が比較的盛んな台湾においてもKalanchoe blossfeldiana‘Isabella’とセイロンベンケイソウKalanchoe pinnataやウェンディ‘Wendy’との交配について論文が出ている(王 和朱, 2011)。こちらの結果も中間形質の雑種ができるが稔性はなく、セイロンベンケイソウとの雑種では不定芽形成形質はないという結果であった。
 更に後年作出されたガランビトウロウソウKalanchoe spathulata var. garambiensis×黒錦蝶Kalanchoe beauverdiiでも同様に不定芽形成が見られないことから、カランコエ節×ブリオフィルム節では不定芽形成能力が欠如するものと示唆される。
 この結果は若干寂しくもあるが、子宝草マニアを標榜する身としては、コレクション・アイテムが無限大に増加する可能性がないことに安堵感も覚えるのである。

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テッサとグラキリペス [flowers]

 世界の多肉植物愛好家にとって国際ベンケイソウ科協会(ICN)のHPは同科の目録としてセミ・オフィシャルなものと認識されているようだ(と言ってもカランコエ愛好家にしか確認していないが)。このHPの良い所は(少なくともカランコエ属では)若干の疑義はあるものの(植物学的な)種と交配種、それに栽培品種を分けて表記しているところである。ここで栽培品種Cultivarとしてテッサ‘Tessa’が載っている。
 これは1980年代にオランダでJ.J.Karperが作出した交配種である。以前の記事でも紹介したが、花数の多いグラキリペスKalanchoe gracilipes(Kitchingia節)と花色の良いマンギニー(紅提灯)K. manginii(Bryophyllum節)のいいとこ取りした品種で、2~3月頃、花屋で時折見かけることがある。オレンジ色の下垂型の花が嫌がらせのように、これでもかと数多く咲いた姿は見事である。
 この花を見て、ICNのHPの写真を見ると全く異なるので混乱を招くだろうが、結論から言うと花屋で見る植物が本物のテッサ‘Tessa’で、ICNの写真は多分ミラベラであろう。

 個人的な経験からするとテッサの片親であるグラキリペスK. gracilipesは暑さに弱く、毎年夏越しに難儀している。もう一方の親、マンギニーK. manginiiは意外に暑さに強い。では、テッサはというと、これも暑さに強い、少なくとも弱くはない。テッサの見た目はグラキリペスに酷似しており、それ故海外ではこれをグラキリペスと誤認していることが多い(日本ではもっとひどい状況で、エンゼルランプK. unifloraと混同したりしている)。
 テッサの葉はマンギニーと異なり無毛で、形もグラキリペスに似ている。花の形も大体グラキリペスと同じで、花を解剖して心皮を見るとKitchingia節の特徴である雌蕊の分岐が見られ、これもまた同じである。マンギニーの形質は花色と暑さへの耐性ぐらいだろうか。
 なので暑さに強いグラキリペス風(またはKitchingia節風)な植物として重宝な存在である。

Kalanchoe属を3節Section(または亜属Subgenus)に分けた場合、Kalanchoe・Bryophyllum・Kitchingiaに3分されるが、このうちKitchingia節には4種が知られる。そのうち私に栽培経験があるのはグラキリペスとペルタータK. peltataのみであるが(双方とも1変種ずつ)、どちらも暑さには弱かった。春から初夏にかけて調子よく育っても、夏には当ブログで紹介してきたように悲惨な姿になってしまう。
 ということを踏まえて、Half Kitchingiaのテッサはお勧め品種である。

‘Tessa’(L)とK. gracilipes (R)の花の比較
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下垂型花卉の雪解け [flowers]

 昨年の夏を無事に切り抜けた着生花卉類のその後の短報である。対象はグラキリペス・ウニフローラ・エンゼルランプ・シャンデリアの各種。
 結論から言うと早めに室内に取り込んで夜も明るい環境に置いたウニフローラ“phiphi”以外は大なり小なり開花した。例年だと多かれ少なかれ蕾をつけても、膨らむ前にバタバタと落ちてしまって殆ど開花まで至らないグラキリペスとシャンデリアも今年はそこそこ咲いてくれた。大半のものは11月終わりの日没が16:30頃になる時期までベランダに置いておき、花序が発達し始めてから室内に取り込んだので花芽は成長を続けた。
 今年に限って何故グラキリペスとシャンデリアが開花したかというと、思い当たる条件がある。室内に取り込んだ後の事であるが、昨年までは暖房用に石油ファンヒーターを使っており、今年からエアコンに変えたのだ。
 これは飽くまで推論に過ぎないのだが、以前こんなこともあった。11月末に苗プレートに挿し穂を植えて室内に取り込んだのだが、12月の終わり頃からそれまで順調だった植物が次々とおかしくなっていった。葉が萎れて落ちてしまうのだ。そのうち頂芽近くの新しい葉もポロポロと落ちるに至って、どうしてよいのか分からず北向きの自分の部屋に移した。部屋は暗くて寒いがやがて葉は落ちなくなり、多少の犠牲は出たものの残ったものは一冬持ちこたえて翌春以降には復活したのだ。
 このとき自分の部屋に植物を移したのは、もしかすると石油ファンヒーターの影響かも知れないという気がしたからである。

 もうひとつ今年変えたことと言えば、良く陽に当てたことである。昨年までは蕾がある程度育つまで自分の部屋に置いていたのだが、今年は昼はなるべく外に出して陽に曝したのだ。勿論夜は取り込むのだが、エンゼルランプは一晩取り込み忘れて、翌日の大雪を被ってしまうというハプニングも起きた。幸い家内が見つけて取り込んでくれたので、無事であったばかりか花も良く咲いてくれた。
 果たして上記の2つの要素が功を奏したのかどうかは分からないが、例年以上にうまくいったことは確かである。


雪を被ってもダメージのなかったエンゼルランプ
エンゼルランプIMG_8944.JPG 


 ただし、最後に余計なオチが付く。花が終って新芽が出始めたグラキリペスだが、そのまま成長してくれるだろうという期待を裏切って3月になると根元から枯れ始め、終には新芽もろとも全滅してしまった。
 以前グラキリペスは花後に枯れる種なのではないかと訝しんだことはあったが、2回開花すると死んでしまうものと思って諦めるしかないのだろうか。


例年になく良く咲いたK. gracilipes、室内で花色は出ていてない(18/1月)
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しかし2か月後にはこの悲惨な姿に(18/3月)
グラキリペス2017IMG_9101.JPG 


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万寿咲き!モアフラワーズ!! [flowers]

 このブログのタイトルに写真を使っているカランコエ・パリKalanchoe ‘Paris’ はデンマークのクヌート・イェプセン社のヒット作だ。結構前の事だが、2009年にIPM ESSEN(世界最大級の園芸見本市:ドイツ)で新品種鉢花部門の大賞を受賞したとのことで、他にも欧州で賞を受賞している。この花が牽引したのか、単に最近の流行なのか街の花屋さんにも様々な種の緑色の花が増えている。

 クヌート・イェプセン社はクイーンシリーズのラインナップが充実しており、一重のオリジナルOriginals、八重のクイーン・ローズRoseFlowers[レジスタードトレードマーク]、多肉のクイーン・グリーンQueen[レジスタードトレードマーク] Green、それにパリを初めとするモアフラワーズMoreFlowers[レジスタードトレードマーク]といったシリーズがある。

 モアフラワーズのコンセプトは、
Queen[レジスタードトレードマーク] MoreFlowers[レジスタードトレードマーク] are simply designed to give more of everything ? more class, more style, more passion and more indulgence. Extravagant eye-catching blooms adorn these charismatic plants for week after week. A special gift for that special someone.
となっている。

 2017年8月現在のラインナップはパリParis(グリーン)・ピンクパリPink Paris(ピンク)・ギタGhita(ピンク)・エレンEllen(ホワイト)の4種だが、昨年までアップされていた赤花のマドリッドMadrid(アフリカン・マドリッドAfrican Madrid)は今年も日本国内では販売していた。更に以前は白花のアップルブロッサムApple blossomや桃色花で花が長くなるフォーエバーピンクといった品種もあった。また、ピンクパリを購入した時についていたタグには黄花のサリーという品種が載っていた。

 このモアフラワーズは人工的だと思いつつも惹かれるものがある。花にやたらと花弁が多い。もしかしてMore flowersの本当の意味は、コンセプトとは関係なくMore petals(花弁)なのではないかと訝しんだりしている。花カランコエは1930年代初頭に仏の探検隊がマダガスカル北部のツァラタナナ山で採集した原種Kalanchoe blossfeldianaを元に、様々なカランコエ属の種と交配して多様性のある品種が生み出されている。(但し下垂型の花カランコエは別系統)。

 カランコエ属はベンケイソウ科の中でも特徴的な4枚の花弁を持ち、K. blossfeldianaも例外ではない。花は小さいが品種改良の過程で4倍体の大型の花が作出された。今でも一重咲きの品種に小さな花と大きな花があるのは、原種の花のサイズの系統と4倍体の系統であろう。
 やがて突然変異の二重咲き(ダブルフラワー)が現れ、更には八重咲きの品種が作られた。現在では八重咲き品種も隆盛を極めて普通のものとなり、更には万寿咲きとも言えるモアフラワーズの出現に至っている。しかし万寿咲きがクヌート・イェプセン社の専売特許というわけではなく、フィデス社のカランディーバ・シリーズでも以前から散見された。更にはパリにそっくりなグランディーバの品種まで販売され、今の花ものカランコエはまさに百花繚乱である。


ピンクパリPink Paris
ピンクパリP3040479.JPG


マドリッドMadrid
マドリード IMG_8927.JPG


今は亡きフォーエバーピンク
フォーエバーピンクP3030427.JPG


クイーン・ローズとして購入した極端な多重咲き、もはやペンタグラムである
クイーンローズイエローIMG_2372.JPG

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