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ローズ門派の平定 その③ [taxonomy]

 これまでの2回で2つの論文を紹介し、ロゼイ種群も大分整理がついてきた。そして今回紹介する3番目の論文で殆どの問題が解決する。ここで取り上げられた問題はロゼイと呼ばれるカランコエに2型があることと、知られざる子宝草Kalanchoe bouvieriの正体についてである。


今度の論文はこれである。
Shtein, R. & G. F. Smith(2021)
The real identity of the Malagasy Kalanchoe rosei (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae) finally resolved, and the description of a new species, K. perrieri.
Phytotaxa 502 (3): 259–276


 ロゼイKalanchoe roseiは1910年にPerrier de la Bathieにより、Ranahia周辺のImaloto川で採集された植物を元に1914年に新種記載された。この名は新世界のベンケイソウ科研究で有名な米国の植物学者Joseph Nelson Roseに因む。
 いつものBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)ではロゼイのホロタイプはPerrier de la Bathie 11825とされているが、原記載のHamet & Perrier de la Bathie(1914)では指定されていなかった。そこで改めて本篇で命名規約に基づきBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)で示したPerrier de la Bathie 11825をレクトタイプに指定した。この標本はパリの国立自然史博物館所蔵だが、スミソニアンの米国国立ハ―バリウムにも同所で採集されたUS00603536があるので、これをアイソレクトタイプとした。


 Descoings(2003)の目録では当時のK. rosei種群をひとまとめにしてロゼイに集約していたため、その記述が緩くセラタK. serrataや不死鳥K. x houghtonii、あるいはラウイK. “Rauhii”までも包括されてしまうような記載内容となっている。それらは論外としてもロゼイとして残った種(変種variifoliaが種に昇格して他の変種がなくなったため、K. rosei var. rosei改めK. rosei)には明確な2型が見られる。これらを仮にMorphotype A・Bとして精査している。
 Morphotype Aはタイプ標本がそれに当たるので、Perrier de la Bathieが1910年とその後1919年に採集した標本を記載文と比較すると、葉が分岐する(つまり欠刻葉になる)型が記載のものと一致した。花の形状からInvasores節に属することも明らかであった。萼筒は丸く、長さ:幅の比率から太い花、ピンクの花冠は(オレンジ~赤花の)variifoliaと異なる。
 一方、日本国内でも時々見られる、というか国内で一般にロゼイと認識されている披針形の葉で欠刻葉にはならず、盾状にもならない(なったとしてもほんの僅かの)ものをMorphotype Bとした。こちらはロゼイとは別種と見なし、ペリエリKalanchoe perrieriとして新種記載している。ホロタイプは1994年にP. Richaud氏がマダガスカルで採集してきたTELA909を指定し、他に4つのアイソタイプを指定している。


 最後に残ったK. bouvieriの問題であるが、Boiteau & Allorge-Boiteau (1995)ではロゼイのシノニムとしている。標本はパリの国立自然史博物館所蔵のPerrier de la Bathie 11799 (ロゼイ同様1910 年にRanahia周辺のImaloto川の土手の岩場で採集)が相当するのだが、原記載のHamet & Perrier de la Bathie(1912)ではこれまたホロタイプを指定していなかった。そこで本篇ではこの標本をレクトタイプに指定した。
 K. bouvieriは退化したような幅広の萼筒、それより短い花筒、長く細い花弁、委縮した葉といった特徴から奇形であると判断できる。
 では元の植物は何かというと、①ピンクの花と葉の基部がやや耳状なのでシコロベンケイ、クローンコエ、サンクチュラ、ペルティゲラ、ロゼイ、ペリエリが候補となる。②葉が深く3裂しているので、これでペルティゲラとロゼイに絞られる。③そして採集地がロゼイと一緒で、ペルティゲラは離れた分布なので、最終的にK. bouvieriはロゼイの奇形であると認められる。
※この件については、昨年紹介した下記の記事も参照願います。
バラとローズのエニグマ(後編)https://kalanchoideae.blog.ss-blog.jp/2021-11-28


 3回に渡ってロゼイ種群の論文3篇の内容を紹介してきて、かなり簡略化しているとはいえ、読んでいる方は頭の整理がつかないのではないかと思う。そこで最後に私が個人的にまとめた表を提示したい。論文の解釈として正しいかどうか著者に確認してもらったので、そのまま信じても大丈夫。ここに示したようにロゼイ種群の問題として、もうひとつラウイが未記載のまま残っている。また、マニアの間でベルリンものと呼ばれる植物の正体も懸案だ。これはベルリンで最初に認識された品種というだけで、実際は交雑種なのかどうかも分からない。枝葉末節はともかく、これで積年の鬱憤が晴れたような新しい時代を迎えられたことは間違いない。


rosei complex.PNG 


付記

・ホロタイプ holotype : 新種記載と同時にその種の基準として指定された唯一の標本
・アイソタイプisotype : -ホロタイプと同時に採集された標本で、同種とみなされる標本
・レクトタイプlectotype : ホロタイプが未設定、または紛失している場合、新種記載時に指定されたシンタイプ(ホロタイプがなく複数標本でその種を担名しているも)や上記のアイソタイプの中から基準標本として選定した標本

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