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知られざる子宝草の世界【Bryophyllum編 ①】 [taxonomy]

 さて、カランコエの希少種というのは結構多く、最初に発見されて記載された(新種として学術論文等で命名規約の要件を踏まえて紹介されることと思ってください)だけで、その後は発見されていないものがある。またある場所でたまたま採れた標本は、A種だと思っていたが別の未記載種だったということもある。こういうことはカランコエに限った、さらには植物に限った例ではないが、所謂子宝草にも見られるケースである。そんな希少例も含めて、まだ見ぬ子宝草について紹介してみたい。
 「まだ見ぬ」と書いたが文字通りの意味で、私が現物を見たことがないという例を挙げると非常に多くなってしまうので、いろいろ情報をあたっても写真すらろくに見ることができない子宝草という意味で捉えて頂きたい。


 当ブログではこのところずっと当たり前のように「子宝草」という言葉を使っているが、このブログの外の世界では「葉縁に不定芽を形成するカランコエ(phyllo-bulbiliferous Kalanchoe)」という意味なので、ご注意願のほどを。さて、カランコエ属の下位にブリオフィルム亜属があり、その下の節SectionレベルでBryophyllum節とInvasores節に属する植物がここでいう「子宝草」ということになる。厳密にいうと現時点でBryophyllum節の構成種の全貌が明らかになっているわけではないので、この節の中で子宝草に相当するのは一部の種かもしれない。以前のBoiteauたちの体系でいうとProliferae亜節に属するメンバーである。どちらのグループにも上記で述べたような「最初に発見されて記載されただけで、その後は発見されていないもの」が含まれている。そんなものは当然「写真すらろくに見ることができない」ということになる。
 では早速だが、それぞれの節に分けて希少種を紹介したい。


■Bryophyllum節
 この節Sectionには比較的最近発見され、まだ新種記載されていないものが少なくとも2種はいるほか、明らかに複合種とみられるものも帰属している。そういったものも写真すらろくに見られない種ではあるのだが、その手の話題はまたいつか書くことにして、既に記載されている種に限った話をしたい。という条件付けをするとK. macrochlamys、K. cymbifolia、K. brevicalyxの3種がこれに当てはまる。以下個別に紹介したい。なお、今回、次回を問わず子宝草はすべてマダガスカル原産のため、採集地名は国名を省略させて頂く。


1. K. macrochlamys
 本種は1923年にPerrier de la Bâthie(以下Perrier と表記)がSambiranoで採集した個体を基に、Perrier(1928)にて記載された。雨期の葉は深裂のある欠刻葉で葉縁には不規則な鋸歯があり、乾期には全縁(鋸歯がないこと)の線状の葉になる。花はセイロンベンケイソウに似た形状で、大きな萼筒は暗線のある白黄色というような植物である。
 最初に採集されホロタイプに指定された標本の他に、少なくとも3つの異なる採集地、採集者、最終年の標本が知られるが、どれもK. macrochlamysとは程遠く、どうやって同定したのか神経を疑うようなものもある。ホロタイプがマダガスカル北西部で採れているのに、南東部のpic St Louisで採集した全く形状の異なるものなどである。
 標本的な記録を見る限り、この種はホロタイプ以外知られていないことになる。となると1920年代には標本になっており、生体の写真は存在しない、あるいは入手できない状態であった。しかし、昨年ドイツの研究者がマダガスカル北部に調査に入り、この植物の2番目の標本を発見したという情報がある。発見された当時は冬葉の状態で咲き終わった花柄も観察されている。何年かすると写真が公開されるものと思われる。


この種には一つ課題があり、標本や記述を見る限り2006年に記載されたK. maromokotrensisは酷似していて非常に近縁と思われる。この問題についても数年後には回答が得られるだろうから、ここで詳しくは触れずに本種の標本写真(左)とマロモコトレンシスの生体写真(右)を提示するにとどめたい。
macrochlamys_maromoko.jpg


2. K. cymbifolia
 本種は1997年にDescoingsがパリの国立自然史博物館所蔵のマダガスカルのE. Razafindrakoto氏による図版と資料に基づき記載したが、図版だけで標本は知られていない。記載論文によると、1994年にチンバザザ動植物公園でこの種に近縁と思われる植物が観察されたとあるが、その後の報告はない。2022年に某国の研究者がこの情報を基に同所を訪れたが、30年近くも経ていることもあり成果はなかった。
 楕円形から卵形楕円形の葉は強く凹んでボートのような形状になっているのが特徴で、学名の由来にもなっている。個人的な見解だが、この種はマロモコトレンシスに近縁で、その幼形成熟的なものではないかと思われる。


 これもここで多くは語らず、本種の原記載図(左)とマロモコトレンシスの生体写真(右)を比較して雰囲気だけ伝えたい。いい写真がなかったが、抱茎の様子はほぼ同じとみてよいだろう。マロモコトレンシスの葉の形状も、そのときの状態で舟形になったりする。花は相違があるが、図版もよく見ると萼筒に縞が入っているのが見て取れる。
cymbifolia.png


 ここで紹介した2種以外については次回に委ねたい。

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