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子宝草とつる性カランコエの再編成(前編) [systematics]

  昨年のブログでも触れたように2021年はBryophyllum、それも子宝草の仲間に興味を持つ人間にとっては革命的な年であった。その口火を切ったのはつる性カランコエのレビジョンを扱った下記の論文である。


Ronen Shtein & Gideon F. Smith (2021)
A revision of the climbing kalanchoes (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae) of Madagascar including the description of Kalanchoe sect. Invasores and K. ser. Vilana
Phytotaxa 482 (2): 093–120.


 この論文は論題にもあるように、つる性カランコエを扱いながらもBryophyllum亜属の分類体系の再構築に手を付けている。残念ながらこの後の展開はまだ発表されていないが、色々と期待を持たせるような内容である。


 論文での記述の順番からすると逆になるが、先ずはここで提唱された分類体系から説明したい。論文からの引用の前に一旦カランコエ属の下位分類をおさらいすると、従来の3節(Kalanchoe, Bryophyllum, Kitchengia)が今は亜属に上がり、さらに最近記載されたAlataeとFernandesiaeを加えた5亜属となっている。これはあくまで2023年4月時点での情報であるから、今後また亜属の増減があるかもしれない。
 この亜属のうちBryophyllum亜属の下位分類の整理に取り掛かったのがこの論文であるが、従来のBoiteau体系でいうBryophyllum節の下の6亜節(Centrales・Scandentes・Bulbilliferae・Suffrutescentes・Streptanthae・Proliferae)の再編成を提唱している。今回はこのうちの一部に留まるが、Scandentes・Bulbilliferae・Suffrutescentesの3グループがまとめてInvasores節として記載された。
≪註≫Boiteau体系でBryophyllum節(現在は亜属)にはもうひとつEpidendreaeが含まれるが、こちらはAlatae亜属として独立したため、Bryophyllum亜属としては残りの6亜節ということになる。


 Boiteauは1940年代の終わりにScandentes・Bulbilliferae・Suffrutescentesといった分類群を提唱したが、それはその後1995年のBoiteau and Allorge-Boiteauに至るまで分類学上(正確には命名規約上)の有効な記載をしていない(ラテン語の特性記述などがない)ため、マニアが便宜的に使用するには重宝だが正規の分類単位ではなかった。今回記載されたInvasores節はこの3グループを包括するわけであるが、ここに属する種はすべて葉縁に不定芽を形成phyllo-bulbiliferousし、花弁は尖らず、葉は無毛で単葉(深裂することもあり)だが複葉にはならない等の特徴がある。論文中には構成種が列記されているが、このあとに新種記載されたものもあるので後日それらも含めて改めて紹介したい。
 Bryophyllum亜属のBoiteau体系で残りのCentrales・Streptanthae・Proliferaeの3亜節については、今後整理されていくのだと思う。戦後まもなくBoiteauが“Cactus”誌にカランコエの連載をしていた時に葉縁不定芽を生じる仲間についてはProliferaeに至る前に連載が終ってしまった。歴史は繰り返すにならず、(全く個人的な趣味の問題ではあるが)今度はProliferaeについても整理されることを願いたい。


 さてこの論文ではもう一つ、Invasores節に属する中でBoiteau体系のScandentesに当たる部分からKalanchoe schizophylla以外の種をVilana列として記載している。列seriesは節sectionの下位の分類単位である。スキゾフィラK. schizophyllaは散房花序で蜜線の形状、なにより葉縁に不定芽を形成しないことからBryophyllum亜属ではあるもののInvasores節からは外された。勿論その下位のVilana列にも含まれず、この列には黒錦蝶として知られる一群が包括されることになった。
 その内容については次回紹介したい。


視点を変えればスキゾフィラK. schizophyllaは別の分類単位へ飛び立ったとも言えるschizophyllaIMG_5574.JPG

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