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子宝草とつる性カランコエの再編成(後編) [taxonomy]

 前回はRonen Shtein & Gideon F. Smith (2021)のつる性カランコエの論文から正規に記載されたBryophyllum亜属の下位分類を紹介したが、今回は新たに記載されたInvasores節Vilana列の構成種について説明したい。


 Vilana列とは簡単に言うと従来のbeauverdii種群である、つまり黒錦蝶Kalanchoe beauverdiiとして一括りにされてきた植物群である。かなり以前、当ブログで子宝草目録と銘打ってこの仲間を紹介したが、最終的に整理された内容はそれとは異なっている。その時の説明と比較して相違点を解説していくと却って混乱を招くこととなりそうなので、ここでは最新の分類のみを記そうと思う。
 さて今回の再編でKalanchoe beauverdiiは4種に別れ、その他に他列の種との自然交雑種が2種あるのでInvasores節のつる性カランコエは6種となった。Vilana列に話を絞ると、K. beauverdiiが分かれた4種には基変種以外に変種が4種ある(内3変種はこの論文で新変種記載された)ので、分類単位としては4種4変種の規模になった。


 先ず、日本で黒錦蝶と呼ばれるタイプは原記載とタイプ標本を調べるとKalanchoe beauverdiiではなく、K. scandensであることが分かった。マダガスカル南西部に見られ。特筆すべき種内変異は知られていない。K. beauverdiiは緑色の葉を持つ種なので、「黒錦蝶」(これは正式な和名ではなかろう)の学名は今後はK. scandensを使うことになる。
 ではK. beauverdiiはどんなものかというと三角の葉を持つタイプで、マダガスカルの南端の西側に分布する。有名なjueliiはこの種の変種である。この論文より一足先にSmith & Figueiredo(2019)でこの変種を正式に記載しており、有効名がKalanchoe beauverdii var. jueliiとなっていたが、今回は記載されたjueliiがネット上で良く知られるきれいな矢印形の葉のものではなく、鋸歯を多く持つタイプのものであることを明らかにしている。
 これに対し基変種はマダガスカルの南端で見つかっている基本的には苦無(くない)形の葉を持つタイプで、時に葉形は三角形に変化する。そしてもう一つ、ここで新たに記載されたKalanchoe beauverdii var. pertinaxという変種が含まれる。これはハート形の葉(ちょっと言い過ぎ? 腎臓形かな)に葉柄が付いたようなタイプで基
 K. scandens同様に暗色の線形または針形の葉を持ち、多少幅広になるのがKalanchoe guignardiiである。この種は基変種と今回記載されたK. guignardii var. schistosepalaの2変種が知られるが、基変種はこのグループの分布としては特異的にマダガスカル中西部のマハザンガ(マジュンガ)州Manongarivoにて一度発見されたきりである。schistosepalaの方も今のところトリアラ州Ifatyで採集されたのみである。この2者の違いはschistosepalaでは萼片が花冠に密着し、果実の成熟後も心皮は閉じているが、基変種の萼片は花冠に密着せず、種が成熟した心皮は開く等があげられている。


 残る1種、Kalanchoe costantiniiもK. guignardiiと同様に基変種と今回記載されたK. costantinii var. unguiferaの2タクサに分かれる。共にマダガスカル南東部で見られ、緑色の幅広の葉を持つ種である。新変種のunguiferaは基変種に比べ萼筒が四角張り、萼片・花弁が反り返らず内側に曲がる。今回記載されている他変種にも言えることだが、unguiferaは今のところタラウンニャロ(フォール・ドーファン)でのみ採集されているが、今後新たな産地が多く見つかっていくであろう。


 以上がVilana列の面々であるが、その他に列間交雑種として以前より知られていたKalanchoe ×rechingeriとKalanchoe × poincareiの2種のつる性種がある。これらの親種についての考察も述べられていたが、それらはいずれ機会があれば紹介したい。


 きわめて簡単かつ表面的ではあるが、以上、Shtein & Smith (2021)のつる性カランコエのレビジョンでの変更点を紹介した。著者たちは同じ2021年にrosei種群やdaigremontiana種群についても発表しており、子宝草マニアとしてはこれらも内容を整理しておかねばならないと思う。


K. guignardii var. schistosepala
schistsepala IMG_9230.JPG
K. costantinii var. unguifera
unguifera IMG_3416.JPG

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