SSブログ

ガストニス・ボニエリ・アンカイジネンシスの謎 [taxonomy]

 前回はSmith教授たちのガストニス・ボニエリの論文を紹介したが、そのなかで変種のアンカイジネンシスKalanchoe gastonis-bonnieri var. ankaizinensisが認められずにシノニムとされたことを報告した。今までネット上や現物を見まわしたところ、あくまで見た目であるがガストニス・ボニエリには3つのタイプがあるように見受けられる。ひとつは日本では珍しい斑が少ないタイプ、それから国内で一般的に見られる密な斑のあるタイプ、そしてまず見たことがないほぼ無斑のもの(おそらくマダガスカル北東部産)の3タイプである。このうち密な斑のものがアンカイジネンシスだと思っていたのだが、認められないとすると原記載から見直してみる必要がある。


 ということで、またいつものBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)を見てみる。この本にアンカイジネンシスの原記載があるのだ。よく見ると前回話題にしていた(photos, Allorge 1994)は植物標本ではなく、単にチンバザザの植物園の写真を参照していることが分かった。またこの本のP40のプレートの4.の写真に花の蕾が載っており、それがまさに「萼筒が開いていてパープルマークがある」という記述通りであった。しかし、致命的なことにこの写真はその時点では未記載のクルブラKalanchoe curvulaの蕾である。少し頭を抱えて、本文を確認した。


 まずここの検索表で基変種(普通のガストニス・ボニエリ)とアンカイジネンシスの差としているところは上で記述した「萼筒が開いていてパープルマークがある」ということだが、この特徴はガストニス・ボニエリの変種ではなく上記で指摘した写真にあるクルブラKalanchoe curvulaのものだ。
 次に記載文を見ると気になる記述がある。原文はフランス語なので翻訳ソフト頼みだが、
「Ankaizina(Dufournet コレクション)に由来する変種で、極度に大理石模様の葉が特徴で、ワックス状の白いコーティングで覆われる。基変種との大きな違いは、4本の赤みがかった線のある花冠を持つことである。この変種は特にその葉が装飾的で、ときに三列の欠刻葉となる。 しかし何よりも、花冠が形成される前、4つの半円を形成する開いた萼筒が特徴的である。」
ということが書かれている。花冠までの前半部分は(採集地は別として)斑の細かいタイプのガストニス・ボニエリの説明のように見えるが、欠刻葉以降の部分はクルブラの説明となっている。この後にも「複葉は一般に7枚の小葉で、葉柄は基部で4〜5 cm(mmの間違えか)肥大し、」という明らかに羽状複葉のクルブラの記述となっている。要はKalanchoe gastonis-bonnieri var. ankaizinensisとKalanchoe curvulaを完全に混ぜてしまっているのだ。全く異なる2種が混同されるのは奇異に思えるが、この本ではつる性のKalanchoe x poincareiとセイタカベンケイKalanchoe suarezensisを完全に混同しているという有名な例を有している。


 またアンカイジネンシスのタイプ標本は、
Boiteau s. n, (Dufournet coll.) materiel en alcool, P, (photos)
となっていてアルコール標本の写真のような記載であるが、先月紹介したSmith et. al.(2020)によるとこの標本は存在していないようである。そこで別な視点からパリ国立自然史博物館のK. curvulaの標本を調べてみたところ、MNHN-P-P00431097の標本のラベルに元々黒インクで「Kalanchoe」と書かれた後に青インクで「ankaizinensis Boiteau」と書き足されていたのを発見した。


 まとめるとKalanchoe gastonis-bonnieri var. ankaizinensisとして記載された変種はKalanchoe curvulaの特性が混入した結果、現在は無効とされている。しかし斑の細かいガストニス・ボニエリは実在していて、将来的には別変種とされる可能性がある。但し、採集地等の情報はなく、Ankaizina産でなければ別の名で記載されるのであろう。


斑の細かいガストニス・ボニエリとその花(花冠の赤いラインに注目)
IMG_6069.JPG

IMG_9740.JPG
一般的なガストニス・ボニエリとその花
IMG_6068.JPG

IMG_5909.JPG
K. curvulaの開花前の萼筒(口の開いた萼筒とパープルマークに注目)
curvula IMG_0664.JPG

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

ガストニス・ボニエリの謎 [taxonomy]

 ガストニス・ボニエリK. gastonis-bonnieriの分類と命名に関する論文が2020年のBradleya誌に掲載された。その内容を今頃やっと確認したのだが、いろいろと面白い発見があったので記録しておきたい。
 対象の論文は下記のものである。
Gideon F. Smith, Ernst Wolff, Luce Thoumin
The taxonomy and nomenclature of Kalanchoe gastonis-bonnieri Raym.-Hamet & H.Perrier (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae), with biographical notes on Gaston Eugène Marie Bonnier (1853–1922). 
Bradleya 2020 (38), 94-103


 内容は本種の種分類的というより、研究史の中で命名法的な側面に焦点を当てて諸問題を論じている。下記に内容の一部を整理して羅列してみる。
・記載者:Raymond-Hamet & H.Perrier
・掲載誌:Annales des Sciences Naturelles, Botanique, série 9, 16: 364-366. 1912.
・タイプ:Tampoketsa, Bemarivo valley産, J.M.H.A. Perrier de la Bathie 11831(レクトタイプ)
・シノニム;
Bryophyllum gastonis-bonnieri (Raym.-Hamet & H. Perrier) Lauz.-March.
※不思議なことにBerger(1930)はBryophyllumとして発表していない。
Kalanchoe adolphi-engleri Raym.-Hamet
マダガスカル南部産がタイプ、ガストニス・ボニエリとの差は葉柄がないこととしている。
Kalanchoe gastonis-bonnieri var. ankaizinensis Boiteau & Allorge-Boiteau
基変種は開花前に萼筒が閉じているが、この変種は萼筒が開いていてパープルマークがある。
 ということであるが、パリの国立自然史博物館の植物標本にラインアップされておらず、上記の差異を踏まえてもこれを(ガストニス・ボニエリの)変種として認識するには不十分であるとしている。


 さて、変種のankaizinensisは消滅することになるのだが、園芸的には葉にまばらな斑があるタイプと密な斑があるタイプが知られていて、後者がankaizinensisであると考えられている。上記の論文によるとこの植物は(採集地は書いていないが)チンバザザTsimbazazaの植物園で栽培されていたもので、Kalanchoe ankaizinensisとして扱っていたものとしている。しかしKalanchoe ankaizinensisという呼称の有効な出版はない。原著ではここに(photos, Allorge 1994)と書かれているが「私たちが確認できる限り、「Allorge 1994」は文献の参照ではなく、栽培中の植物またはアルコールで保存されたタイプ標本のいずれかが、LucileAllorgeによって写真が撮影された日付を示しています。」と解釈していて、この標本の所在は分からないというのが結論である。


 上記に対し少し自分でも調べてみたのだが、中途半端に長くなるので少し短めだがここで一旦切り上げたいと思う。本種に興味を持つ人も少ないとは思うが、次回もガストニス・ボニエリのお話である。


乾季のガストニス・ボニエリ:国内ではなかなかこういう姿は見られない
IMG_2030.JPG

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

ローズ門派の平定 その③ [taxonomy]

 これまでの2回で2つの論文を紹介し、ロゼイ種群も大分整理がついてきた。そして今回紹介する3番目の論文で殆どの問題が解決する。ここで取り上げられた問題はロゼイと呼ばれるカランコエに2型があることと、知られざる子宝草Kalanchoe bouvieriの正体についてである。


今度の論文はこれである。
Shtein, R. & G. F. Smith(2021)
The real identity of the Malagasy Kalanchoe rosei (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae) finally resolved, and the description of a new species, K. perrieri.
Phytotaxa 502 (3): 259–276


 ロゼイKalanchoe roseiは1910年にPerrier de la Bathieにより、Ranahia周辺のImaloto川で採集された植物を元に1914年に新種記載された。この名は新世界のベンケイソウ科研究で有名な米国の植物学者Joseph Nelson Roseに因む。
 いつものBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)ではロゼイのホロタイプはPerrier de la Bathie 11825とされているが、原記載のHamet & Perrier de la Bathie(1914)では指定されていなかった。そこで改めて本篇で命名規約に基づきBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)で示したPerrier de la Bathie 11825をレクトタイプに指定した。この標本はパリの国立自然史博物館所蔵だが、スミソニアンの米国国立ハ―バリウムにも同所で採集されたUS00603536があるので、これをアイソレクトタイプとした。


 Descoings(2003)の目録では当時のK. rosei種群をひとまとめにしてロゼイに集約していたため、その記述が緩くセラタK. serrataや不死鳥K. x houghtonii、あるいはラウイK. “Rauhii”までも包括されてしまうような記載内容となっている。それらは論外としてもロゼイとして残った種(変種variifoliaが種に昇格して他の変種がなくなったため、K. rosei var. rosei改めK. rosei)には明確な2型が見られる。これらを仮にMorphotype A・Bとして精査している。
 Morphotype Aはタイプ標本がそれに当たるので、Perrier de la Bathieが1910年とその後1919年に採集した標本を記載文と比較すると、葉が分岐する(つまり欠刻葉になる)型が記載のものと一致した。花の形状からInvasores節に属することも明らかであった。萼筒は丸く、長さ:幅の比率から太い花、ピンクの花冠は(オレンジ~赤花の)variifoliaと異なる。
 一方、日本国内でも時々見られる、というか国内で一般にロゼイと認識されている披針形の葉で欠刻葉にはならず、盾状にもならない(なったとしてもほんの僅かの)ものをMorphotype Bとした。こちらはロゼイとは別種と見なし、ペリエリKalanchoe perrieriとして新種記載している。ホロタイプは1994年にP. Richaud氏がマダガスカルで採集してきたTELA909を指定し、他に4つのアイソタイプを指定している。


 最後に残ったK. bouvieriの問題であるが、Boiteau & Allorge-Boiteau (1995)ではロゼイのシノニムとしている。標本はパリの国立自然史博物館所蔵のPerrier de la Bathie 11799 (ロゼイ同様1910 年にRanahia周辺のImaloto川の土手の岩場で採集)が相当するのだが、原記載のHamet & Perrier de la Bathie(1912)ではこれまたホロタイプを指定していなかった。そこで本篇ではこの標本をレクトタイプに指定した。
 K. bouvieriは退化したような幅広の萼筒、それより短い花筒、長く細い花弁、委縮した葉といった特徴から奇形であると判断できる。
 では元の植物は何かというと、①ピンクの花と葉の基部がやや耳状なのでシコロベンケイ、クローンコエ、サンクチュラ、ペルティゲラ、ロゼイ、ペリエリが候補となる。②葉が深く3裂しているので、これでペルティゲラとロゼイに絞られる。③そして採集地がロゼイと一緒で、ペルティゲラは離れた分布なので、最終的にK. bouvieriはロゼイの奇形であると認められる。
※この件については、昨年紹介した下記の記事も参照願います。
バラとローズのエニグマ(後編)https://kalanchoideae.blog.ss-blog.jp/2021-11-28


 3回に渡ってロゼイ種群の論文3篇の内容を紹介してきて、かなり簡略化しているとはいえ、読んでいる方は頭の整理がつかないのではないかと思う。そこで最後に私が個人的にまとめた表を提示したい。論文の解釈として正しいかどうか著者に確認してもらったので、そのまま信じても大丈夫。ここに示したようにロゼイ種群の問題として、もうひとつラウイが未記載のまま残っている。また、マニアの間でベルリンものと呼ばれる植物の正体も懸案だ。これはベルリンで最初に認識された品種というだけで、実際は交雑種なのかどうかも分からない。枝葉末節はともかく、これで積年の鬱憤が晴れたような新しい時代を迎えられたことは間違いない。


rosei complex.PNG 


付記

・ホロタイプ holotype : 新種記載と同時にその種の基準として指定された唯一の標本
・アイソタイプisotype : -ホロタイプと同時に採集された標本で、同種とみなされる標本
・レクトタイプlectotype : ホロタイプが未設定、または紛失している場合、新種記載時に指定されたシンタイプ(ホロタイプがなく複数標本でその種を担名しているも)や上記のアイソタイプの中から基準標本として選定した標本

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

ローズ門派の平定 その② [taxonomy]

 前回に続いてカランコエ・ロゼイ種群の謎を解き明かす論文の第2弾、Kalanchoe rosei var, variifoliaについて見ていきたい。例によって、まず論文のタイトルと掲載を紹介する。
Shtein, R. & G. F. Smith(2021)
A new status for two varieties previously included in the southern Malagasy Kalanchoe rosei, now included in K. variifolia (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae)
Phytotaxa 496 (3): 228–244


 さて今回は前回有効であると紹介した変種K. rosei var. seyrigiiと近縁のK. rosei var. variifoliaとの関係を解き明かしていく。この2者に基変種を加え、ロゼイには3つの変種が知られるわけだが、ときに亜種として扱われる場合もある。論文ではこの辺を詳しく解いているのだが、紹介すると煩雑になり過ぎるのでここでは変種として扱っておく。もっとも、これらの種内タクサ(K. rosei var. seyrigiiはK. rosei var. serratifoliaの名称としてではあるが)を亜種から変種に変更したのはかなり以前にこのブログでも取り上げたShaw(2008)の論文で、それ自体記載としては無効なのだが取りあえず便宜上目をつぶって、とにかく3つに分けられると思って頂きたい。


 まず変種の分布について調べていくと、基変種K. rosei var. roseiはAtsimo-Andrefana、Androy北部、Anosy地区の3ヶ所で見つかっている。これらの地域は乾燥地帯からも沿岸からも離れた場所に位置している。一方、K. rosei var. seyrigiiはマダガスカル南東部沿岸のフォール・ドーファンFort-Dauphin周辺で、K. rosei var, variifoliaはその西部のブアラBeharaで採集された。


 Boiteau & Mannoni (1949)はK. rosei var. seyrigiiの原記載の記事中で、基変種以外の変種が実は交雑株なのではないかと示唆している。Shaw(2008)もまたこれらの変種は錦蝶K. tubifloraやシコロベンケイK. daigremontianaとロゼイK. roseiの交雑種という見解を表明しているが、根拠を示しているわけではなく、当時存在したブリオフィルムのHPからの受け売りでしかない。そのHPの著者は何でもハイブリッドだと言い出す人物なので(マダガスカル産の種が何故かアフリカ大陸の種の交雑種だと言ったりしている)、全く話にならない。実際に交雑種とされるリショーイK. x richaudiiは錦蝶との交雑種とされるがK. rosei var. seyrigiiと同所的に見られ、もうひとつの交雑種とされるラウイ“Rauhii”もK. rosei var. variifoliaと同所的に見つかっている。
 つまりロゼイや錦蝶といった交雑の親植物とこれらの変種を比べると親植物にある葉の表面の斑は見られず、萼筒の形も異なることから交雑種説は支持されない。さらに同所的に発見されたリショーイやラウイは、斑もあるのでこれらの変種と錦蝶の交雑種であると考えられる。


 基変種と分布が離れ、交雑説も退けた2つの変種について、ShteinとSmithはフランスやドイツのハ―バリウムにあるタイプ標本や他の標本、同時に生体標本も調べて記載文を補完した。結論として2変種がロゼイの種内タクサであるという見解は支持されなかった。そこで2変種を種に引き上げ、バリフォリアKalanchoe variifoliaとして、その種内で2変種に分けた。
・Kalanchoe variifolia var. variifolia : タイプ標本 Boiteau f. 227、エピタイプ Boiteau n 2027
・Kalanchoe variifolia var. seyrigii : レクトタイプ H. Humbert 5979 
 両者の違いを列挙するとバリフォリアは葉に帯粉せず、下葉は早めに落葉、茎は木質で樹皮があり、葉先は鈍角で葉縁の鋸歯はまばらであるのに対し、セイリギは葉にかすかな帯粉が見られ、すぐには落葉せず、茎はやや木質になるが樹皮は付かず、葉先は尖っている(というか葉先にも鋸歯がある)、そして葉縁には細かな鋸歯が密にある。
 セイリギはバリフォリアより葉も花も平均的に小型だが変異に富んでいて、論文中にも何タイプかが紹介されている。


 バリフォリアは両変種とも下垂型の花が咲き、萼筒と花筒が融合し密腺は幅の倍以下の長さである。そして葉縁不定芽を生じることからInvasores節であるとしている。本篇にはその他にもいろいろと考察を重ねているが、素人愛好家の眼から見ると専門的(マニアック)過ぎるのでここでは割愛したい。


 本篇の結論としてバリフォリアはロゼイの変種でも交雑種でもなく独立種で2変種を含み、Invasores節に属すということを踏まえておきたい。これでロゼイ・バリフォリア・ペルティゲラの整理がついた。あとはロゼイの正体と知られざるK. bouvieriとの関係を残し次の最終篇へとつながっていく。


Kalanchoe variifolia var. variifolia : 鋸歯はまばら
rosei ssp.  var. serratIMG_0809.JPG
Kalanchoe variifolia var. seyrigii : 鋸歯が細かい(この他にも別タイプが多々ある)rosei var. seyrigiIMG_4997.JPG

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

ローズ門派の平定 その① [taxonomy]

 いわゆる子宝草(葉縁不定芽を形成するBryophyllum亜属)からセイロンベンケイソウやガストニス・ボニエリの仲間を除いたInvasores節の中で、分類的に一番混沌としているのがロゼイKalanchoe roseiの一派である。ロゼイといわれている披針形の葉の植物はタイプ標本とどういう関係なのか、同様に変種のseyrigiiとは何なのか、等々問題山積で解決などしないかのように見えた。ところが2021年に事態は急速に進んだ。Ronen Shtein & Gideon F. Smithのコンビがロゼイ種群に関する論文を3篇続けざまに発表したのだ。
 ロゼイ種群の分類学的問題は複雑なので、3つの論文を通しで読み解いていかないと理解がおぼつかない。論文は細かい問題にも触れていて、全部を網羅して紹介するのはちと難しいのだが、個人的に面白いと感じた部分を中心に要旨を紹介したいと思う。この論文の難しさは専門的に高度だからということもあるが、多重的に輻輳する問題を緻密に解いていくので、むしろ約款や契約書、あるいは難解な長編推理小説を読んでいくような難しさである。そして3篇を通して読破しないと最終的な結論というか理解が得られない。
 第1篇はK. peltigeraとK. rosei var. seyrigiiについて、第2篇はK. rosei var. variifoliaについて、そして最後はK. rosei var. roseiの問題を取り上げ、総合的にK. rosei種群の分類学的問題を解き明かしていく。今回から順に内容を咀嚼していきたい。


第1篇は下記の論文である。
Shtein, R. & G. F. Smith(2021)
Taxonomy and nomenclature of the southern Malagasy Kalanchoe peltigera, with reference to K. rosei var. seyrigii (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae)
Phytotaxa 490 (1): 047–059


 カランコエ・ペルティゲラK. peltigeraは2005年にDescoingsが新種記載した種であるが、ロゼイ・セイリギK. rosei var. seyrigiiとの関係が論じられたこともないし、気づいている人も殆どいないであろう。国内で現物が紹介されたことはなく馴染みのない種であるから当然である。ペルティゲラはフランスのPhilippe Richaud氏がマダガスカル南部、Mandrare川北部のTsivoryで採集したものを元に記載された盾状葉の種である。
 この種は記載当時形状の良く似たペルタータK. peltataとフェッシェンコイK. fedtschenkoiの中間型とされたが、花の形状や葉縁不定芽を形成すること(この論文で初めて公言された性質)からInvasores節であることが今回の研究で明確にされた。


 さて、上記のペルティゲラとロゼイ・セイリギの関係とは何であろうか。
いつも参考にするBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)の Kalanchoe de Madagascarに於いて、K. rosei var. seyrigi(この書では表記に最後のiが一つ足りない)のタイプ標本をパリの国立自然史博物館MNHM所蔵のSeyrig 819であるとしている。これはBekilyとTsivoryにほど近いBelamboの森で採集され、首都のアンタナナリボの植物園で栽培されていたもので、御丁寧に実際のその標本には赤字で「TYPE」と表記されている。そしてその標本を見ると、巷でセイリギと認識される楕円形で鋸歯の多い葉を持つ植物とは似ても似つかない盾状葉の植物であり、一見してペルティゲラに似ている。実際この研究で精査した結果、これはペルティゲラと同一であると結論付けた。となると本当のセイリギは実はペルティゲラとシノニムで、命名法の先取り権からするとペルティゲラの学名はK. rosei var. seyrigiiとなるのか、といった疑問が浮かんでくる。
 ではそもそもセイリギとは有効な変種なのかを調べると原記載はCactus (Paris)誌に掲載されたBoiteau & Mannoni (1949)の記事中にあり、正当な新変種記載の要件を満たした有効名であると確認された。しかしこの原記載を見るとこの変種はK. rosei subsp. serratifoliaの置換名で前記のSeyrig 819がタイプ標本ではなく、実際のタイプ標本はフォール・ドーファンFort-Dauphinの北部で採集されたHumbert 5.979であると分かる。これはK. rosei subsp. serratifoliaのタイプ標本でもあり、ここで両者がシノニムであることが明らかになった。そしてBoiteau & Allorge-Boiteau (1995)でのタイプ標本の記載が間違っていて、後の研究者やマニアに誤認を与えたのであった。もっとも、このことに気づいた人間は世界でも片手で数えられるくらいしかいなかったに違いない(勿論、私はその中には入っていない)。


 論文中にはここら辺の考察が微に入り細に入り論じられ、私も原記載やタイプ標本の写真を見ながら確認しようと試みたのだが、あまりに几帳面な記述で私の語学力だとトランスレーターを使ってもうっかりすると読み違えるおそれがあり、ついぞ最後まで追随して確認することは断念した。
 結果として下記の5項目をまとめていたので、簡単に紹介したい。
1. 長年見過ごされていたK. rosei var. seyrigiiの名は有効
2. セイリギのタイプ標本はK. rosei subsp. serratifoliaと同一で、両者はシノニム
3. Seyrigが1944年に採集したSeyrig 819を含む3つの標本はペルティゲラと同定
4. ペルティゲラはロゼイK. rosei var. roseiに、セイリギはK. rosei var. variifoliaに近縁で共にInvasores節に含まれる。
5. K. peltigeraの名はそのまま有効


 考察の結果、以上述べてきたような結果を持って論文は一旦終わるが、おまけとしてパリの国立自然史博物館MNHMではペルティゲラのタイプ標本(Descoings 28316)がすでに失われていることが分かり、このホロタイプのクローンから新たにネオタイプR. Shtein 795, [TELA927]とアイソタイプR. Shtein 795 [TELA928]を指定した。


 ちょっと分かりにくかったかもしれないが、ロゼイ種群の第1弾はこのような整理が行われた。次回はバリフォリアK. rosei var. variifoliaについて説いた第2弾を紹介したい。


カランコエ・ペルティゲラKalanchoe peltigeraとその花
peltigeraIMG_8860.JPG
peltigeraIMG_9096.JPG

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。