毒グモの過ち [flowers]
今まで度々「アフリカン・ローズ」という品種名で紹介したり掲載してきた花卉カランコエであるが、実は別の品種だったことが分かったのだ。
「皆さま申し訳ありません。」
アフリカンシリーズは種苗登録の記載を見るとブロスフェルディアナ系の品種とKalanchoe laciniataを交配して育成したもので、葉はラキニアータの特徴が良く出た(基本的に3裂の)欠刻葉である。本物の「アフリカン・ローズ」も花色はローズ・ピンクで、当時のクヌート・イェプセン社の記事で見た記憶がある。
なのでそんな時期に花屋で見かけた欠刻葉のカランコエを先入観でアフリカンシリーズと思い込み、開花すると花色からアフリカン・ローズと「同定」してしまった。
私の購入した植物は、デンマークではなくオランダの会社が展開していた“Taranta”という商標のカランコエだったのだ!!
薔薇色の名前;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2013-12-01
冬もみじの混迷;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-11-03
冬は無慈悲な死の女王;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2015-02-14
うろこの葉;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2016-05-07
一方KPホランド社のタランタシリーズはいまだ健在で八重咲の品種も出ており、もしかしてこれの日本での販売名がボヌールなのか?というような憶測をしてしまうのであった(これはあくまで想像なので情報ではありません、念のため)。
因みにボヌールBonheurの品種登録者の名称はNubilus B.V.となっていて、会社名については分からない。
形質転換と再変換 [flowers]
このところ多忙につき、今回は本当の意味で備忘録の短報である。
2年前に購入した花弁がつぶれた形で5枚ある花ものカランコエは、先日紹介したように翌年の花は形を成さずに崩壊していた。(「ハイブリッドは獲得形質の夢を見続けるか?」http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2016-06-05)
今年は棚の隅に置いてあって余り見てあげられなかったのだが、先日ふと見ると花がまともな形で咲いていた。しかもその花弁は4枚であった。花弁の形は2年前と同じくつぶれている。
勿論同じ株で世代交代したわけではない。
単に年数を経たことで勝手に解体・再構築といった昔のポスト・モダニズムみたいなことが起きていた。交配種の花の形質と遺伝子の問題はまだまだ手の出せる領域ではないが、先日書いた花の色彩変化も含めて、原因やメカニズムをいつか学びたいと思う。
ともあれ、植物は複雑だ。
花の形を呈していない昨年の花、さながら雑種崩壊!
今年はカランコエ本来の4花弁にcome back!!
ハイブリッドは獲得形質の夢を見続けるか? [flowers]
初めにおことわりしておきたい。以下は何の結論もないヨタ話である。
ネット上でも園芸関係の書籍上でも、花屋に並ぶ花ものカランコエのことをKalanchoe blossfeldiana と紹介して写真を載せていることが大変多い。学名を付するという事は、その植物を「種」として紹介している事に他ならず、写真を載せるのであれば本来ならば同定した個体のものを載せるべきであろう。 Kalanchoe blossfeldianaの原種は超のつくほど希少なので、紛らわしい事は止めて欲しいという個人的願望も大きい。今まで一度だけ昔の趣味の園芸で紹介したのを見たことがある。その後年、趣味の園芸のテキストにも花の写真が載ったが、それが実際に原種かどうかは疑問視している。
花ものカランコエは実際にはKalanchoe blossfeldianaを元に作出した栽培品種や多種との交配種であって、Kalanchoe blossfeldianaそのものではない。園芸植物として開発されてからの初期段階では、カランコエ・プミラ(白銀の舞)やアフリカ大陸産の種(現在の名で言うとK.crenataやK.glaucescens)と交配して様々な花色を作出したり、4倍体を使って花を大きくしたりしていた。現在は栽培品種同士の交配も進み、原種の掛け合わせを特定するのも不可能な品種だらけである。
クヌート・イェプセン社の資料を見るとK. laciniata, K. rotundifolia, K. aromatica, K. pubescens, K. grandiflora, K. citrina, K. faustiiを初めとする多数の種と交配している。その交配種同士で更に交配を進め、それらが混然一体となって混ざり合っていくのだから、もはやKalanchoe blossfeldianaなどと呼ぶことは出来ない。ただK. blossfeldianaの血が濃いことは濃そうなものはK. blossfeldiana交配種(K. blossfeldiana hybrid)とは呼べそうだ。
市販されている交配種は形質がある程度安定しているように思われそうであるが、実際はそうでもないのか翌年花が咲くと、購入した時の花色と違う花が咲く事が良くある。同様に葉のサイズの小型化や花数の減少も経験している方は多いと思う。こちらは遺伝的な問題ではなく、育成環境や条件によるものだろう。花数を増やすには矮化剤を使用するようだが、葉を大きくする方法は知らない。(どなたか御教示頂けると有難いです)
さて花色の変色は両親のどちらかの形質に戻ったとか考えられるが、植物の形質遺伝については知らないので知ったかぶりはやめておく。ただ変色についても記録の価値があるがあるかと思い、紹介したい。
長々と引っ張って、要は中身これだけ。
5花弁の変わり咲きは属間雑種かと思ったが、枝変わりかもしれない
同じ年の2番花は良かったが、
翌年は花が崩壊してしまった
ということは、やはり属間雑種か?
こちらは白色のダブルフラワーだったが、
数年後に桃・黄の二色咲きに変色
ボヌールのピンクは
2番花ですでに赤花に(早いよ!)
でも今年はこの通り、ピンクに返り咲き
光と色彩 [flowers]
【時節柄、このような能天気な記事をアップするのにためらいがありますが、御容赦ください。】
シュタイナー教育みたいなタイトルだが、今回はただの短いメモである。シュタイナー教育などという言葉を使うのは唐突過ぎるようだが、ルドルフ・シュタイナーと言えばゲーテ、ゲーテと言えばセイロンベンケイソウということで私の中では無理やり繋がっているのである。(訳がわからないという人も多いと思うので、「シュタイナー ゲーテ セイロンベンケイソウ」とかで適当にググってみて下さい。)
さて、本題。冬の間室内に取り込んだカランコエは、何度もしつこく書いてきたように葉が下垂し、丸まり、哀れな姿になっている。それに加えて、花の色が変わることもある。
これは主にベル型の花が咲くカランコエで見られる現象だ。ここでまた脱線するが、「ベル型」という表現にはどうも個人的に抵抗がある。というのもここで言うベル型は、ウェンディやウニフローラ、百歩譲ってミラベラ等のことを指すのだが、これらはBryophyllum節やKitchingia節である。(ミラベラやそれに類似した品種はKalanchoe節とBryophyllum節の交配種である。)これらの節の花は下垂して咲くその姿から「ベル型」と言われるのであろう。
ところがKalanchoe節も花を横から見ると、「ベル型」カランコエと同じような形のものがある。これらも「ベル型」と言えなくもないだろう。しかし、そんなことを言いだすと面倒なので「ベル型」といえばBryophyllum節やKitchingia節と暗黙のうちに決められているようだ。要は花の形ではなく、向きなのだ。
というわけで今後は気がついたときには「ベル型」ではなく、「下垂型」とか呼びたい。
話がそれたがブロスフェルディアナ系の花ものに比べ、ベル型の花は花持ちが悪い。購入した時は素晴らしい姿でも、2週間もすると貧しさがにじむようになり、3週間経つとかなりみすぼらしくなる。そこへいくとブロスフェルディアナ系は1~2ヶ月は平気で花が持つので良い。中国語では長寿花と呼ばれるが、この花持ちの良さ故の名前なのかは全く知らない。
また話がそれてしまったが、その短命の下垂型の花にはもう一つ欠点がある。ミラベラ等Kalanchoe節の血が入っている交配種はそんなこともないのだが、Bryophyllum節やKitchingia節の花ものは日光に当たらないと(室内に置いておくと)色が褪せてしまうのだ。蕾の状態から光不足の花は言うに及ばず、既に美しい色で咲いている花も暗い場所では日ごとに色が薄くなる。こうなると何だか悲惨な感じだ。
厄介な事に一度抜けた色は、再び光に十分当てても殆ど復活しない。本当に悲しい。
そこでカランコエと言えば「もっと光を!」(ゲーテ)とつながるのである。
Kitchingia節のグラキリペス<サンライズ>K.gracilipes
ちょっと写真の光の具合が悪いが、色が抜けたのが分るだろうか。
要するに2枚目の写真のような色になってしまうのだ。
話のついでに、先日学芸大学を歩いていると何やら美しい覆輪のセイロンベンケイソウが目についた。しかしこれは露地栽培のため寒さに当たったのが原因の一時的なものと思われる。我が家のシコロベンケイでも同様な現象が起きている。
寒さに当たったシコロベンケイK.daigremontiana、ずっとこのままだったら良いのに。
緑の女王様 [flowers]
デンマークのクヌート・イェプセン社(農水省の表記に従っています)と言えば、クイーン・カランコエ、クイーン・ローズ(八重咲き)といった鉢花が日本でも有名である。
過去にはキングフラワーとか何とかいうシリーズもあったが、今はもう見られない。同様にワイルドフラワーというシリーズもあって、草丈の高い切葉(欠刻葉)のラインナップが特徴だった。国内でも一時生産されていたが、こちらも残念ながら入手する前になくなってしまった。
花卉業界はめまぐるしい。2~3年前に出回っていた品種は永遠に失われてしまう。原種ならどんなに希少で分布が狭くとも、法的な保護や規制がない限り現地採集という入手の手段が残されている。実際には金と時間の双方がなくては不可能に近いのだが、その種そのものが失われている訳ではない。(どうせ机上論なので、紛争地帯にしかない場合とかその手の細かい付帯条件は考えない)
しかし園芸品種となるとこの世界から消えてしまっている可能性も大きく、気に入ったものがあれば自分で栽培し続けて持っているしかない。それとて、翌年には違った姿に変化してしまうかもしれない。そんなときは諸行無常と思って諦めるしかない。
話が大きくそれたが、昨年クヌート社に新しいシリーズが登場した。Queen Greenである。
これには現在(世界のどこかで)4種が販売されている。最近までフミリスがサプライジング・デザートという名で出ていたが、これが日本で生産・販売されていたかは知らない。
現在のラインナップはKalanchoe pinnata 'Zanzibar'、Kalanchoe daigremontiana、Kalanchoe tubiflora、Kalanchoe uniflora 'Phi phi'と全てブリオフィルム節だ。しかしこのうち前の3種を和名に直すとセイロンベンケイソウ、シコロベンケイ、錦蝶 (キンチョウ)である。日本では(温室の)雑草と思われているので、改めてこれらのライセンスを取って生産する会社はないだろう。非常に残念なことだ。
錦蝶はクヌート社のHPの写真からは日本で一般的に見られるものと相違があるのかよく分からないが、シコロベンケイは一般的なものと違い、不死鳥と同一視されているがタイプの違うKalanchoe ×houghtoniiのようなタイプだ。ちなみに錦蝶の学名は現在K. delagoensisとなっているが、K. tubifloraはそのシノニムである。
そしてセイロンベンケイソウは花の形が通常のものとは異なり、ややダブルフラワーのような萼が発達する。単純に欲しいと思ってしまうのだが、これも無理だろうか。しかしマジックベルなるセイロンベンケイソウの品種(?)が国内でも時折売られていることを考えると、僅かな望みはあるかもしれない。この品種の入手可能性について詳しい人がいたら、情報をお願いします。
以上の葉縁に不定芽を生じる面々の入手は困難だろうが、最後のKalanchoe uniflora 'Phi phi'だけは僅かながら市場に出ている。Queen Greenはその名が示す通り、観葉植物的な扱いなのだがunifloraは花も可愛いので人気が出てもおかしくはない。私もつい花に魅かれて、高価だったにもかかわらず購入してしまった。
要するにエンゼルランプの別品種なのだが、葉っぱだけになったときの姿も良く、我が家ではいつも厳しい家族の者にも好評だった。来年花を咲かせるのに失敗しても、何とか許されそうだ。
'Phi phi'の語源は判らないが、いちごのすいすい(誰も知らないだろうな)みたいで名前も可愛い。私も園芸店の方も「フィフィ」と呼んでいたが、タイのピピ島にちなんでいて本当は「ピピ」なのかもしれない。とするとセイロンベンケイソウの'Zanzibar'はタンザニアのザンジバル島の事だと思うし、同じクヌート社のモアフラワーズのシリーズではパリやマドリッドがあるのだから、その延長線上にあるとも言える。
おしゃれなインドア・グリーンのKalanchoe uniflora 'Phi phi'
葉はこんな感じ
unifloraなので花はやはりエンゼルランプ系