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不死鳥のクラスター#1 [taxonomy]


 何年か前に千葉県印西市の某ナーセリーを訪れたとき、実感を伴って「温室の雑草」という言葉を認識した。そのときベンケイソウ科中心の温室は、夥しい数のキンチョウ・シコロベンケイ・不死鳥に占拠されたかの如き状態であった。個人的には笑みがこぼれてしまったのだが、高価な多肉植物趣味の人々から疎まれる理由も理解した。しかしながら、これらの植物についてどれだけの知識が普及しているかと考えると、少なくとも一般書店に並ぶような書籍には殆ど情報がないことに気づく。
多肉植物の栽培ではなく植物自体の説明を試みるような本で、これらのカランコエを扱っているものは皆無に等しい。それもその筈で、未だに分類学的な研究はほとんど進んでいないのだ。例えばキンチョウやシコロベンケイの地域による種内変異さえ、まともな研究はない。そんな中、不死鳥というよりKalanchoe x houghtoniiについては、少し前のクローンコエの顛末記事の中で紹介した論文で、一旦の整理がついた。今回からそのことについて触れていきたい。


 この論文で整理したことは、いくつかある不死鳥の品種(?)を大きく4つにグループ分けしたことと、それら全てをKalanchoe x houghtoniiの学名で統一したことである。論文が掲載されたPhytotaxa誌は植物分類学雑誌なので、各論文中でいちいち命名規約について詳しく、あるいは平易に説明することはない。従って論文を読んでも、幾つかの異なるタイプの植物の学名が全てKalanchoe x houghtoniiとなることの理由が分からず違和感を覚える方も多いと思う。私も根拠を求めて規約を見まわして確認したので、ここで少し補足説明しておきたい。因みに規約は下記URLに全文が載っているので、誰でも内容を確認できる。


 国際藻類・菌類・植物命名規約 International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plantsの付則Ⅰ、H.4条を見ると、以下のようにあるので、この交配で出来た植物全ての学名がKalanchoe x houghtoniiを適用されると理解できる。
H.4.1. すべての親分類群が仮定できるか、または知られている場合、交雑種は指定された親分類群の交配から派生したと認識できるすべての個体を含む(つまり、F1だけでなく、その後の世代や逆交配および これらの組み合わせ)。 したがって、特定の交配型に対応する正しい名前は1つだけである。 これは、適切なランク(Art。H.5)で最も古い正当な名前(Art.6.5)であり、同じ交配型に対応する他の名前は、そのシノニムとなる(Art.52注4を参照)。


 件の論文の話に戻るが、ここでは知られる品種群をKalanchoe x houghtoniiのMorphotype A~Dとして分けている。当ブログでも不死鳥については何度かに分けて書いてきたが、良い機会なので論文紹介という形で(便乗して?)ここにまとめたことにしたい。


 さて論文をもとにKalanchoe x houghtoniiについて説明していきたい。
 記載はWard(2006)で”Cactus and Succulent Journal”誌にて発表されている。タイプ標本はD. B. Ward 10700がホロタイプで模式産地は米国フロリダのcentral Merritt Island。帰化している個体群の由来は不明。
 シノニムはないが、適格ではない名というか正式に記載されていない俗名としては、
Bryophyllum tubimontanum (Houghton, 1935)
Kalanchoe cv. Hybrida (Jacobsen, 1977)
等がある。
 来歴としては1935年にA.D. Houghton(米国)がシコロベンケイ×キンチョウの交配株を報告、そして1956年にResende(ポルトガル)も同様の2種を正逆の組み合わせで交配したことを発表している。その後Jacobsen(1977, 1986)はこの組み合わせの交配種を著書でも紹介しているが、1977の著書を見るとResendeの交配が対象である。


 次回は各形態タイプについて紹介したい。


Kalanchoe x houghtoniiの原記載を載せた雑誌
Ward CSJ.jpg

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