Shaw(2008)の陥穽④ [taxonomy]
今回でShaw(2008)の論文の紹介も最後になる。今回はroseiについての記述を見てみる。
□Kalanchoe rosei
この論文で紹介されているのはroseiといっても実際はKalanchoe “Rauhii”の話である。ちなみに当ブログでは昨年あたりからICNの品種名を公式なものと見做して、公式品種名の学名表記は‘ ’で括り、俗な品種名を“ ”で括っている。多少はこだわっているのだ。
この論文で紹介されているのはroseiといっても実際はKalanchoe “Rauhii”の話である。ちなみに当ブログでは昨年あたりからICNの品種名を公式なものと見做して、公式品種名の学名表記は‘ ’で括り、俗な品種名を“ ”で括っている。多少はこだわっているのだ。
さてShaw(2008)によると、
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欧米に出回る‘Kalanchoe rauhii’(原文の表記)は植物学的には記載されておらず、その名はWerner Rauhに因んでいるとしている。またKarper et Doorenbs(1983)を引用して‘K. rauhii’が交配種かもしれないことをほのめかしている。
ネット上では‘K. rauhii’の他に‘Dorian Black’とか‘Rubra’といった名でも呼ばれており、また同じ植物がオランダの生産者によって‘Lucky Bells’として広められていてPlant Breeders Right(PBR)まで授与している。(筆者注:“Lucky Bells”の花は“Rauhii”とは少し違うと思う)
この‘K. rauhii’はKalanchoe rosei subsp. variifoliaに相当し、Boiteau et Allorge-Boiteau (1995)にもイラストが載っている。
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というようなことが記されており、以前これを鵜呑みにした私は“Rauhii”がK. rosei subsp. variifoliaであると思い込んでしまったが、実際にはK. rosei種群とキンチョウあたりの交配種と考えるのが妥当であろう。
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欧米に出回る‘Kalanchoe rauhii’(原文の表記)は植物学的には記載されておらず、その名はWerner Rauhに因んでいるとしている。またKarper et Doorenbs(1983)を引用して‘K. rauhii’が交配種かもしれないことをほのめかしている。
ネット上では‘K. rauhii’の他に‘Dorian Black’とか‘Rubra’といった名でも呼ばれており、また同じ植物がオランダの生産者によって‘Lucky Bells’として広められていてPlant Breeders Right(PBR)まで授与している。(筆者注:“Lucky Bells”の花は“Rauhii”とは少し違うと思う)
この‘K. rauhii’はKalanchoe rosei subsp. variifoliaに相当し、Boiteau et Allorge-Boiteau (1995)にもイラストが載っている。
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というようなことが記されており、以前これを鵜呑みにした私は“Rauhii”がK. rosei subsp. variifoliaであると思い込んでしまったが、実際にはK. rosei種群とキンチョウあたりの交配種と考えるのが妥当であろう。
Shawはこの交配種に関してK. rosei subsp. variifoliaそのものがキンチョウとの雑種起源であろうとしている。そして以前存在していたBryophyllumのHPにて述べられていたK. rosei subsp. serratifoliaはロゼイ×キンチョウ、 K. rosei subsp. variifoliaはロゼイ×シコロベンケイという説を紹介している。こういうのは混乱の元なのでやめてほしい。上記の説は文献的知識には非常に詳しい米国のある大御所的な人物が言っているのだが、彼の説はたいてい根拠が浅く、また同定能力も予想以上に低いことが分かったので惑わされないようにしたい。
それはともかくShawはここでこの2亜種をK. roseiの変種としてリネームしている。しかしそのことについて植物分類学的な根拠は述べられておらず、K. rosei種群内の一部だけの変更にも賛同できないので、当ブログではこれを踏襲しない。と言っても亜種というステイタスが正しいとも思えないので、単に無用な混乱を避けたいがためである。
長々と紹介してきたShaw(2008)の論文だが、問題は多いものの力作ではあるのでカランコマニアを目指す者としては外せない一編である。
タグ:ラウイ
Shaw(2008)の陥穽③ [taxonomy]
今回は前回のクローンコエに先んじて載っている不死鳥類Kalanchoe ×houghtoniiについて見ていきたい。これはキンチョウKalanchoe delagoensis×シコロベンケイKalanchoe daigremontianaの交配種である。
□Kalanchoe ×houghtonii
この不死鳥の仲間の記述については以前この論文を拠り所としていたとき、読み込むほどに大混乱に陥ってしまった。
ここでの拾い物はそれまで俗称しかなかった(Bryophyllum tubimontanumとかHoughton’s Hybrid、Hybridaなど)この交配種がフロリダに帰化している個体を元に2006年に新種記載されたと知った事である(Ward, 2006)。
もうひとつ有意義だったのはキンチョウ×シコロベンケイの交配種には2系統あるという情報だ。子宝草目録3-③で述べたように稔性のない3倍体と稔性のある4倍体である。これは認識しておくべき点である。ShawはKalanchoe ×houghtoniiの品種分けとして4倍体は葉の表側に斑のないフロリダのKalanchoe ×houghtoniiともう1タイプJT Baldwinを上げており、3倍体としては葉の表側に斑のある不死鳥とJaws of Lifeを上げている。しかし少なくともKalanchoe ×houghtoniiとJaws of Lifeに形態差はない。Jaws of Lifeの葉の表に斑はなく、どちらも植物のサイズからして4倍体と思われるが、稔性については個人的に確認していない。なので、いかにも違いがある風なことを書いてこのような分け方をされると混乱してしまう。
この不死鳥の仲間の記述については以前この論文を拠り所としていたとき、読み込むほどに大混乱に陥ってしまった。
ここでの拾い物はそれまで俗称しかなかった(Bryophyllum tubimontanumとかHoughton’s Hybrid、Hybridaなど)この交配種がフロリダに帰化している個体を元に2006年に新種記載されたと知った事である(Ward, 2006)。
もうひとつ有意義だったのはキンチョウ×シコロベンケイの交配種には2系統あるという情報だ。子宝草目録3-③で述べたように稔性のない3倍体と稔性のある4倍体である。これは認識しておくべき点である。ShawはKalanchoe ×houghtoniiの品種分けとして4倍体は葉の表側に斑のないフロリダのKalanchoe ×houghtoniiともう1タイプJT Baldwinを上げており、3倍体としては葉の表側に斑のある不死鳥とJaws of Lifeを上げている。しかし少なくともKalanchoe ×houghtoniiとJaws of Lifeに形態差はない。Jaws of Lifeの葉の表に斑はなく、どちらも植物のサイズからして4倍体と思われるが、稔性については個人的に確認していない。なので、いかにも違いがある風なことを書いてこのような分け方をされると混乱してしまう。
更にKalanchoe ×houghtoniiの品種として以下の7つを上げている(記述順、‘ ’は省略)。
① Fujicho
② Hybrida
③ Jaws of Life
④ JT Baldwin
⑤ Parsel Tongue
⑥ Pink Butterflies
⑦ Pink Teeth
このうち①⑥⑦は同じもので、不死鳥錦に相当する。これを別々に扱っていることで先ず混乱する。②はノーマルの不死鳥でこれら2品種が3倍体に相当する。
Shawの見解とは違って③④は共にフロリダのKalanchoe ×houghtoniiと同じタイプの植物で、多分ここでいう4倍体相当種である。J.T. BaldwinというのはHoughtonの作出したキンチョウ×シコロベンケイの雑種について1949年に論文を出した人の名である。Baldwin自身はこの論文でHoughtonの交配種は3倍体であるとしているので、不死鳥タイプが3倍体、×houghtoniiタイプが4倍体と言い切ってしまうのは危険かもしれない。またShawはおそらくこの論文の図を見てこれがフロリダのKalanchoe ×houghtoniiと同タイプとしているが、私にはそれがJaws of Lifeとどう違うのか分からない。そもそもこの図はHoughtonの作出した交配種を描いたものなので、どうしてそれにJT Baldwinと名付けたのか理解困難である。
① Fujicho
② Hybrida
③ Jaws of Life
④ JT Baldwin
⑤ Parsel Tongue
⑥ Pink Butterflies
⑦ Pink Teeth
このうち①⑥⑦は同じもので、不死鳥錦に相当する。これを別々に扱っていることで先ず混乱する。②はノーマルの不死鳥でこれら2品種が3倍体に相当する。
Shawの見解とは違って③④は共にフロリダのKalanchoe ×houghtoniiと同じタイプの植物で、多分ここでいう4倍体相当種である。J.T. BaldwinというのはHoughtonの作出したキンチョウ×シコロベンケイの雑種について1949年に論文を出した人の名である。Baldwin自身はこの論文でHoughtonの交配種は3倍体であるとしているので、不死鳥タイプが3倍体、×houghtoniiタイプが4倍体と言い切ってしまうのは危険かもしれない。またShawはおそらくこの論文の図を見てこれがフロリダのKalanchoe ×houghtoniiと同タイプとしているが、私にはそれがJaws of Lifeとどう違うのか分からない。そもそもこの図はHoughtonの作出した交配種を描いたものなので、どうしてそれにJT Baldwinと名付けたのか理解困難である。
最後に⑤のParsel Tongueは以前に子宝草目録3-④で紹介したようにKalanchoe ×houghtoniiタイプの植物ではなく、細葉のシコロベンケイタイプなので、これは分ける必要がある。但しShawの記述はISIの提示している極端に多肉化した個体を元にしており、やや違和感を覚える。
以上のようにShawはKalanchoe ×houghtoniiに加えて7品種を紹介しているが、実際は×houghtoniiタイプ、不死鳥タイプ、Parsel Tongueの3タイプである。しかもParsel TongueはKalanchoe ×houghtoniiとは言えないので、キンチョウ×シコロベンケイの交配種は2タイプに分けられるというのが実際のところだ。更に子宝草目録3-③で述べた第3のタイプや子宝草目録5で紹介したものもあるので、留意しておきたい。
タグ:不死鳥