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Shaw(2008)の陥穽② [taxonomy]

 今回は前回に続いてキンチョウとクローンコエについてShaw(2008)の論文を見ていきたい。

□Kalanchoe delagoensis
 キンチョウ(錦蝶)についてもシコロベンケイと同様に昔からの種株と最近導入の2品種を紹介している。これもまたShawが命名している。
① Spirit of 28:一般的に知られるのは、(少なくとも米国内では)1928年にSwingle sとHumbertが持ち帰ったこのタイプとしている。
② Ihosy Purple:2005年にISIが頒布したもので、マダガスカル中部のイフシIhosyで採集されたもの。
 2種の違いは
・カーキ色の葉に小さな紫褐色の斑があり、中央脈midribは緑色(Spirit of 28)。
・Spirit of 28より細い葉で一様に紫がかり、中央脈は淡黄色(Ihosy Purple)
としている。
 そして花については花筒の一部に黄色い部分がある(Spirit of 28)に対し、Ihosy Purpleの花は一様にオレンジ色であると述べているが、ISIの説明を見る限りこの花色についての説明は逆である。

 葉色の説明も文章を見ると大きな違いに見えるが、ISIのHPで写真を見る限り、それほど特殊なタイプとは思えない。キンチョウの葉(以前書いた様に正しくは葉柄だが)は、成長度合いや環境によって形状・色彩共に結構バラつくので、Ihosy Purpleをその他のものと分ける意味はないように思える。
 花色にしても例えば京都府立植物園のキンチョウは花筒に黄色い部分があるIhosy Purpleタイプだが、葉は通常の色である。つまり葉色と花色のコンビネーションでIhosy Purpleを特徴づけることは無意味である。この2品種もシコロベンケイ同様分ける価値なしと判断したい。

 品種紹介の他にも記述があって、米国では1928年に導入されたが欧州ではそれ以前の1912年から入っていた(Wright, 1935による)との貴重な情報を得られる。もっともそれがアフリカ南部起源かマダガスカル起源かまでの言及はないとの事である。

多肉植物として売られているキンチョウKalanchoe delagoensis
育った姿と比べると別物のようだ
キンチョウIMG_8152.JPG 


□Kalanchoe laetivirens
 論文の順番でいくと次は不死鳥の仲間K. houghtoniiであるが、3頁半もあるので後回しにして、次のクローンコエの解説に移りたい。しかしここで改めて紹介することや指摘すべき点は殆どない。私が下記の記事で書いた元ネタの一つがこの論文だからである。
子宝草/クローンコエ http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-01-11
 強いて言えば本種がラクシフローラK. laxiflora×シコロベンケイK. daigremontianaの交配種であることは実験的に証明されていないとしてはいるが、Resende et Viana(1965)を参照しているにもかかわらず交配種説を否定はしていない。
(参照:http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2017-10-14
 このことは奇異に思えるが、どうやらShaw自身がクローンコエの成長に伴う葉形や雰囲気の違いに認識が浅く、判断する自信がなかったようだ。成長した米国の株の写真についての記述で「英国のものとはかなり異なっている。おそらくこれは枝変わりかもしくは環境の違いによる変化だろう」という表現をしている。

クローンコエKalanchoe laetivirensも成長段階によって姿が異なる
クローンコエIMG_7702.JPG
IMG_6645.JPG

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Shaw(2008)の陥穽① [taxonomy]

 Bryo-maniaな人達が一度は目にするであろうShaw(2008)の論文?は葉縁に不定芽(bulbilタイプ)を形成するKalanchoeについてまとめたもので、迷宮に落ちたマニア達に光明をもたらしたに違いない。しかしながら残念な部分も多く、誤った認識を広めるのにも一役買ってしまっている。今までこの論文を拠り所としてきた迷える者の一人として、今回からこの文に切り込んでみたい。

 最初に論文についてさっと紹介しておく。
論題:An investigation of the cultivated Kalanchoe daigremontiana group, with a checklist of Kalanchoe cultivars
掲載誌:HANBURYANA 3: 17–79, 2008
 前半は葉縁に不定芽を形成するカランコエ、即ちBryophyllum節を種別に解説し、後半は栽培品種の一大カタログ(但し図や写真はない)となっている。切り込みたいのは、この前半部分のみである。
Bryophyllum節パートは最初に検索表がありその後に各種説明が続くが、取り上げている種は私が子宝草目録で紹介しているところのBulbilliferaeとラウイのみであり、その他のロゼイの変種には触れていない。

先ずは検索表について言うと、同じ品種が検索の前の方と後ろの方で重複して出てきたりして面食らう。私の扱ってきた動物群では見たことのないシステムに違和感を覚えた。多分、植物でもこれは「なし」なのではなかろうか。またどうしてこの品種がここで落ちているのに、シノニムが全く別な所で出てくるのか、この検索表を使う者は迷いを感じるだろう。更に間違いもあると思えるので、あまり使えないものではあるが、このグループの検索表を作成したこと自体は画期的で、その点だけは評価している人も多いと思う。

 では本文の順に従って扱っている種の解説文に踏み込んでみたい。知識という面で学ぶところは多いが、盲従してしまうととんでもない間違いをインプットされてしまう。しかし論文自体がひどいものではないので、その点は誤解なきようお願いしたい。

□Kalanchoe daigremontiana
 最初はシコロベンケイについての説明である。この植物には次の2つの品種(?)があるとしている。この品種名はShawがここで名付けたものである。追随している論文等は知らない。
① Old Hat:園芸的に知られるシコロベンケイは、最近までこの品種のクローンが全てであったとしている。
② Felley Priory:近年マダガスカルから導入されたもので、RHS関係のナーセリーで見られたという。
 この2つの品種の違いは、
1.葉の基部で裏側の斑が途切れない帯を形成する(Felley Priory)か、しないか(Old Hat)。
2.強光の下での葉色が明るいグリーン(Old Hat)か、茶色がかったオリーブグリーン(Felley Priory)か。
としている。

 しかしながらシコロベンケイを育てていると分かるが、これは単なる個体差のように思える。しかも遺伝的な差異ではなく環境要因により成長過程で生じる差異である。Shawは多肉マニアにはおなじみであろうSajeva et Costanzo(2000)“ SUCCULENTS Ⅱ”の172頁にあるシコロベンケイKalanchoe daigremontianaとしている2枚の写真のうち、6007番の写真のものがFelley Prioryと思われると述べている。しかし、この写真の個体は一般的に見かけるものと同じである。ちなみにもう一枚の写真はシコロベンケイではなく、Kalanchoe ×houghtoniiである。
 以前にも子宝草目録で紹介したように同じ個体から得た不定芽を育てても、日照や用土の違いで葉色や葉形は異なったりするが、Shawはこの違いを自然交配による形状のバラつきと見ている節がある。勿論、過去に紹介したようにハイブリッドも存在していることは承知しているが。

葉の色と形状は同じクローンでも生育環境によって異なる
daigremontiana leaves.jpg 

また光環境によってライトグリーンやオリーブグリーンとなる
コダカラベンケイIMG_0657.JPG 
コダカラベンケイPB060665.JPG 


 私の結論としてこの2品種は同一と見做して、考えないことにしたい。これに比べたら以前紹介した(細葉のものではなく)長葉のものや、分布の北部で見られるという小型帯粉型のものの方が余程別品種扱いの価値があると思う。

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