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カランコエとブリオフィルム⑤:その後の展開-2 [systematics]

 前回はDescoings(2006)の論文でカランコエ属をKalanchoe、Bryophyllum、Calophygiaの3亜属に分けたことを紹介したが、残念ながらここで提唱されたCalophygiaをそのまま踏襲した論文はその後見当たらない。これが支持を得ていないのか、単にカランコエ属の下位分類の研究者がいないためなのかは分からない。多少なりともCalophygia亜属に留意しているのは、以前カランコエ属下位分類の研究史の論文を参照させて頂いた(というより記事の元ネタにさせて頂いている)Chernetsskyyくらいのものである。
 
 Chernetsskyyは2011年の研究史の論文発表後2012年には、元々研究していたカランコエの葉の構造の分析成果を取り入れてカランコエ亜科の下位分類、即ちカランコエ1属か2~3属に分かれるかについて論じている。ここではその内容を紹介したい。論文はネットで簡単に入手できるから、興味のある方は自分でもお読み頂くと面白いと思う。論文名:The role of Morpho-Anatomical traits of the leaves in the Taxonomy of Kalanchoeideae Berg. Subfamily (Crassulaceae DC.)

 この論文は要旨を更に簡単に言うと本人が研究していたカランコエ属の葉の形態・解剖学的構造の結果と、先人の研究による形態・発生・核型・茎の維管束・分子データから種分類を行った結果、(前年の論文同様) カランコエ属は1属で3節(または亜属)に分かれると結論付けたという内容である。前回の論文と異なる点は、節の名称として前回のKalanchoeに対し、今回はEukalanchoeを用いていることだ。この名称はカランコエの研究者として名高いBoiteauとMannoniがフランスのアマチュアの多肉・サボテン協会の雑誌で提唱したものだ。
 従来の研究では、論文の多くは花や茎や根の構造を見ているが、葉の微細構造や解剖学的所見に関するものは少ない。しかし葉の構造は重要な分類形質であるとして、光学顕微鏡や電顕を使った調査と分析を行っている。葉の特徴として用いたパラメータは、多型、葉柄、不定芽形成、毛状突起(トリコーム)、炭酸カルシウムの分泌、表皮構造、クチクラなど29項目に及ぶ。
 これら葉の構造分析の結果と上述の先人の残した研究を総合すると、結局のところ2節、もしくは3節間にまたがる中間型の存在がどうしても絡んでくるので、少なくとも属レベルで分けるのは不可であるという結論に至った。これは前回の論文の考察を支持する内容となり、少なくとも当面はカランコエKalanchoeとブリオフィルムBryophyllumを別属扱いする事は無理と言えるだろう。

 何度か書いたか書かなかったか遺憾ながら忘れてしまったが、このブログではChernetsskyyがまとめてくれた見解に追随してカランコエ1属説を取っている。しかしながら属レベルに分けるには根拠が希薄というのは分かるが、中間形質の種があって3属に分けられないということは、3亜属だろうと3節だろうと関わってくる問題である。この話題の③の記事の最後でブリオフィルムとキチンギアの分け方については、懸案にしたというよりブン投げてしまったのだが、ある意味正しい措置であった。というか種によっては厳密に分けられないであろう。
 今回のChernetsskyy の論文でDescoings(2006)のCalophygiaについては殆ど紹介にとどまり、内容への評価は特に触れていないのだが、上記のようにどのような分け方をしても一長一短だからなのかもしれない。


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タグ:Eukalanchoe

カランコエとブリオフィルム④:その後の展開-1 [systematics]

 カランコエ~、とか声を大にして叫ぶブログを目指しているが、ふと気付くとブリオフィルム節の記事ばかり多く書いている気がする。ブリオフィルム節もカランコエ属だから良いのだが、もっとカランコエ節の記事を書こうと思っている。思ってはいるが、いつも何とはなしにブリオの話に走るのである。ここで気がついたのだが、自分は下垂型の花が好きなのだろう。クリスマスローズやシクラメンに心惹かれるのも、下を向いているからだろうか。ここで、「いや、上を向いて咲く花も相当好きなんですよ」とか言っても取って付けたようで相手にされないであろう。それならばと、今日もまたブリオの話題である。

 ブリオフィルム節に関しては、いつぞやの記事でDescoings(2006)の論文("Le genre Kalanchoe structure et définition”)ではカランコエ属を3節ではなく、3亜属という扱いにしてKalanchoe、Bryophyllum、Calophygiaを提唱したというところまで紹介して、そのまま逃げていた。この論文ではなんやかんやとKitchingiaを却下したわけだが、実体としてはカランコエ属各種の花の構造を比較して分析し、KalanchoeとBryophyllumどちらとも言えないものを集めてCalophygiaとしている。
 花の構造で分析に用いた形質は、花付きの向き、萼、花冠、雄蕊、葯、鱗片、雌蕊である。以前のKitchingiaを単純にCalophygiaに命名変更したわけではなく、Kitchingiaを包括しながら他の2亜属からも花の構造が中間形質のものを容赦なくぶち込んで、大きなグループを立ち上げている。
 WikispeciesからCalophygiaに分類される種のリストを引用すると、下記の種が含まれている。

K. adelae – K. alternans – K. alticola – K. ambolensis –アルボレスケンス K. arborescens –アロマティカ K. aromatica – K. aubrevillei –黒錦蝶 K. beauverdii – 仙女の舞K. beharensis – K. bergeri – K. bouvetii –シルバースプーン K. bracteata – K. campanulata – K. chapototii – K. crenata – K. crundalii – K. curvula –錦蝶 K. delagoensis – ディンクラゲイK. dinklagei – K. dyeri – K. elizae –福兎耳 K. eriophylla –ファリナケア K. farinacea – グラキリペスK. gracilipes –グランディディエリK. grandidieri – K. grandiflora – K. hametiorum –ヒルデブランティ K. hildebrandtii – フミリスK. humilis – K. inaurata – ヨングマンシィK. jongmansii – ランセオアータK. lanceolata – K. latisepala –紅唐印 K. luciae – K. mandrarensis – 紅提灯K. manginii – 江戸紫K. marmorata – ミロティK. millotii – ミニアータK. miniata – K. ndotoensis – K. obtusa – オルギアリスK. orgyalis – ペルタータK. peltata – K. peteri – K. poincarei – K. porphyrocalyx – K. pseudocampanulata – プミラK. pumila – K. quadrangularis – K. quartiniana – ロンボピロサK. rhombopilosa – K. robusta – K. rolandi-bonarpatei – K. schimperiana – スキゾフィラ(シゾフィラ)K. schizophylla – シンセパラK. synsepala – テトラフィラK. tetraphylla – 唐印K. thyrsiflora – 月兎耳K. tomentosa – K. tuberosa – エンゼルランプK. uniflora – ヴィグイエリK. viguieri – K. welwitschii – K. wildii
 雑種: K. × flaurantia – K. × richaudii

 なんという雑多なラインナップだろう。花が知られていないカランコエ・フミフィカは蚊帳の外である。それに以前「カランコエとブリオフィルム②」で紹介したGehrig et al.(2001)の分子系統図によるとカランコエは大きく3~5つのグループに分かれたが、上記のリストはそれがランダムに混ざり合っている。塩基配列のデータも距離行列法の処理如何で様々な結果が出るから、分子系統図が絶対正しいとは全く思っていないが、Descoings(2006)ではそれらの論文は無視されているようで、Gehrig et al.(2001)もMort et al.(2001)も参考文献欄に見当たらない。
 究極的な事を言ってしまえば、分類学もひとつの思想なので遺伝子に頼らず形態学的な考察だけで研究するのも否定はしたくないが、ちょっと寂しい気は否めないのである。
 Calophygiaのリストを載せたおかげで長くなってしまった。続きはまた改めて書くこととしたい。

Descoings(2006).png
論文そのものは仏語が読めればとても面白そうな気がします。


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カランコエとブリオフィルム③:トウロウソウ節について [systematics]

 植物の分類では属の下位に亜属subgenus、節sectionといった分類単位を設けている。正直なところ、BryophyllumKitchingiaが亜属であろうと節であろうと素人のカランコマニアを目指している私にはどちらでも同じようなものである。問題はそれぞれの亜属なり節なりの特徴がどんなもので、またどう見分ける(区別する)かである。

 ところで亜属の下を植物分類学では「節」というようだが、園芸的にはこれを「節」と訳さず、そのまま「セクション」と言うのかもしれない。どこかでその表記を見かけた気がするが、どこか思いだせない。それでは亜属もサブ・ジーナスと言うのだろうか、しかし属は属と言っているので亜属の方が通りが良さそうだ。この辺がまだ門外漢の私には難しいところだが、本ブログではsectionを節と呼ぶことにしたい。

 話を戻して、まずはBerger体系での特徴をChernetsskyy2011)からの孫引きで見てみる。

-------引用はじめ----------

Berger3属を花の特徴とBryophyllumにおける不定芽の形成で区別した。主な判別基準は、萼と花冠筒部の形状・雄蕊の花糸と花弁の異類合着部位・子房長の花柱に対する割合・花の配列(直立か下垂か)・花序の形である。

--------引用終わり-----------

 これでは形質の差異がある点は分かるが、具体的な判別については分からない。そこで安直ではあるが上記を基にして小学館の園芸植物大辞典から各節の区別点を拾ってみたい。

 まず前提としてカランコエ属の花弁は4枚で雄蕊は8本、花弁が合着して花冠は筒状になり、萼片もたいてい合着して萼が筒状になっている。(時々5枚の花弁を持つ花が咲くことがあるが、これはあくまで奇形であってその個体のごく一部の花に限られる)このことを念頭に置いて園芸植物大辞典を見ると、

萼と花冠筒部の形状

Kalanchoe 萼は深裂するか筒状、花冠は舷部(花弁の先の方)で開出

Bryophyllum 萼は半分以上合着し花冠(花筒)を半分以上覆う、花冠は真直ぐか舷部でやや開く

Kitchingia 萼は花冠より極めて小さく深裂する、花冠は裂片が短い

雄蕊の花糸と花弁の異類合着部位

Kalanchoe 花糸は花冠の中ほど、または上部に着く

Bryophyllum 花糸は花冠の基部に着く

Kitchingia 花糸は花冠の中ほど、または上部に着く

子房長の花柱に対する割合

 特に言及なし

花の配列

Kalanchoe 直立

Bryophyllum 下垂

Kitchingia 基本的に下垂

花序の形

Kalanchoe 散房状または円錐状の集散花序

Bryophyllum 記載なし

Kitchingia 散房状または円錐状の集散花序

その他

Kalanchoe 不定芽は葉にできない、花序にも普通できない

Bryophyllum 多くの種で不定芽が葉にできる

Kitchingia 不定芽は葉にできないが、花序に形成される

という具合である。

 実際問題としてはこれらの特徴を見て複合的に判断するしかないだろう。それぞれ例外がありそうだ。葉をちぎって土の上に於いておき、不定芽が葉縁から出ればBryophyllumとも言えるが、全ての種に当てはまるわけではない。乱暴な見方をすると、ヨングマンシィを除いて下垂する花ならBryophyllumKitchingia、そして萼が大きければBryophyllumと覚えておけばよい。これだと花が咲かない事には区別できないのではあるが。

 この問題は大体分かれば良いだろう。少し疲れたのでKalanchoeBryophyllum 2節に分けた場合は、Kitchingiaに含まれる種がどう振り分けられるのかとかは暫く考えない事にしたい。

ちなみにそれぞれの節の和名はリュウキュウベンケイ(Kalanchoe)、トウロウソウ(Bryophyllum)、マダガスカルベンケイ(Kitchingia)となる。

 kit花冠.jpg

そうするとこれは、

 花序の不定芽.jpg

マダガスカルベンケイKitchingiaになるのですね(というのは皮肉っただけで、これはBryophyllum)

 bry花冠.jpg

そしてこれは、

 葉の不定芽.jpg

トウロウソウBryophyllumということですね...


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カランコエとブリオフィルム②:カランコエ亜科について [systematics]

 

  【前回からの続きです。】

  やっとベンケイソウ科内の話となるが、エングラー体系の一環としてBergerがまとめた1930年のベンケイソウ科の系統では、この科を6亜科に分けている。クラッスラ亜科、カランコエ(リュウキュウベンケイ)亜科、コチレドン亜科、センペルヴィウム(クモノスバンダイソウ)亜科、エケベリア(エチェベリア)亜科、セダム(マンネングサ)亜科の6つで、前3者がクラッスラの系統、後3者がセダムの系統とされ、カランコエ亜科には前に書いたようにKalanchoeBryophyllumKitchingia3属が含まれるとしている。この後はあまり研究が進まなかったのか、クロキンスト体系が主流になっていたであろう我が国でも、この体系が採用されていることがあった(園芸植物大辞典:小学館;1988-89)。

 細かい事は省くとして、ベンケイソウ科の系統の次の大きな動きは1998年のHamt’Hartの論文まで跳ぶ。この論文では葉緑体DNAcpDNA)の制限部位(制限酵素が塩基列を切断する部位)の変異からベンケイソウ科をクラッスラ亜科(Bergerと同じ)セダム亜科(残りの5亜科を含む)の2亜科に分けた。

 これ以前にもUhl(1948)による細胞学的な研究はあるが、ざっと見たところ染色体数から系統を探るような話で核型分析も行っていないため、今となっては参考にならない。

 1990年代から21世紀にかけての分子生物学的手法は日進月歩で発達しており、Hamt’Hartの論文の3年後、2001年には2つの重要な論文が出ている。ひとつはGehrig等(ら)による核DNAnrDNA)内のスペーサー領域(ITS-1,ITS-2)の塩基置換率を調べた論文。もうひとつはMort等による葉緑体DNA内のmatK遺伝子(イントロン切断酵素をコード)から得た系統関係の論文である。残念ながら前者についてはweb上で要旨を見ただけであるが、結果としてカランコエ属はベンケイソウ科内で(分岐分類学でいう)単系統であること、そして属内に伝統的分類による3節が認められることを述べている。つまりBerger体系でカランコエ亜科に含まれる3属はカランコエ属1属となり、その属内でKalanchoeBryophyllumKitchingia3節が認められるということである。

 またこの論文では、Allorge-Boiteau1996年にカランコエ属の起源をマダガスカルと見たことを裏付ける結果も得られている。

 Mort等(2001)の論文では亜科という分類単位を直接いじらず、クレード(の概念)を用いて解析結果を発表しており、ベンケイソウ科を7つのクレードに分けてカランコエ・クレードはカランコエ、コチレドン、チレコドン、アドロミスクスを含んでいる。そしてこの研究からはBryophyllumKitchingia2属はカランコエ1属に統合されることが強く支持されたとある(但し、今後一層の研究は必要であるというお約束の文章は付いている)。これら2編の論文によりKalanchoeBryophyllumKitchingiaKalanchoe1属に統合された。

 かくして現在の分類基準であるAPGⅢでもカランコエは1属となっている。但し、一般的にその下位レベル(節)でブリオフィルム節は認められている状況である。という訳でこのブログではKalanchoeBryophyllumKitchingia全てカランコエ1属に帰属するという見解を採用することにした。

AGPⅢ分類表(カランコは1属になっている)

http://www.alpine-plants-jp.com/botanical_name/APG3_Family_Genus_2.html

追記1

 2009年に大場秀章先生編著による「植物分類表」が出版されたが、マバリーの体系(APGⅡに準拠)を採用しているためかどうか分からないが、ベンケイソウ科にトウロウソウ属Bryophyllumとカランコエ属Kalanchoeが分かれて載っている。しかしカランコエ属の例として紅提灯K. manginiiを上げてあり、これはブリオフィラム節もしくはキチンギア節であってカランコエ節ではないので矛盾がある。従ってこの大著を元にカランコエ属とトウロウソウ属を別属として扱うのには説得力を感じない。

追記2

 カランコエ亜科の研究史をまとめたポーランドのChernetsskyy2011)によれば、最も適切な扱いはカランコエ属の下にKalanchoeBryophyllumKitchingia3節を設ける事であろうとしている。しかしカランコエ学者ともいうべきDescoings2006年の論文では3節でなく3亜属としKitchingiaの代わりにCalophygia亜属を立てている。この論文は仏語なので英文の要旨しか読んでいないので、今はこれ以上突っ込まないことにした。

追記3

 カランコエはマダガスカル(旧仏領)に多いためかフランスの学者が主に研究し、文献も圧倒的に仏語で書かれたものが多い(Hamet, Boiteau, Allorge-Boiteau,  Descoings )。大陸の種を精力的に研究したRaadtsの論文は独語だったりして、私には読めないものが大半で苦労する。そもそも素人にとって植物の記載は日本語でも少し突っ込むと難解なので、英語でも相当難儀している。

加えて植物の新種記載は2012年以前はラテン語だったため、手に負えないのだ。とか言って調べ物が進まないで、ひいてはブログ更新(記事の執筆)がままならない言い訳をそれとなく書いているのであるが...

植物分類表.png

素晴らしい本なのでありますが


カランコエとブリオフィルム①:ベンケイソウ科の分類について [systematics]

 カランコエについて書籍や記事を乱読していると、どうもカランコエと呼ばれている植物群は「最近はKalanchoe属とBryophyllum属に分けられている」と勘違いされている傾向が少なからず見受けられる。カランコエというのは、実際はこの2属の総称なのであろうか。少々手ごわい問題ではあるが、一度整理してみたいと思う。

 何が勘違いなのかと言うと、「最近」というのが勘違いである。Kalanchoe属は1763年にかのAdansonが記載したが、その後1806年にSalisburyが新たにBryophyllum属を記載しているつまり200年以上前からカランコエは2属に分けられているのだ。更に1881年にBakerKitchingia属も分けて、その後有名な1930年のBergerのベンケイソウ科の体系ではKalanchoeBryophyllumKitchingiaの3属がカランコエ亜科に帰属することになった。遺憾ながらこの文献は見ていないが、どうせ独語なので読めないから見ても同じである。

 Bergerの体系は最近まで(少なくとも便宜上は)踏襲されていることも多かったので、最近になってカランコエが2属に分けられるようになった、または2属の分割が認められるようになったという訳ではないのである。その後も2属(または3属)か1属で23節(または亜属)かという論議がぽつりぽつりと起き、つい最近までそれが続いていた。その研究史をつぶさにここに記載しても仕方ないと思うのでバッサリと割愛するが、長年に渡って決着しなかった事は確かである。要するにKalanchoe属とBryophyllum属が分けられてから、200年以上すったもんだしていたのである。

 ではKalanchoe属はともかく、Bryophyllum属やKitchingia属について現在の分類ではどう扱われているのであろうか。先ずはベンケイソウ科内の系統について見ていくことにようと思ったが、その前に植物分類体系から勉強しなければならないようだ。聞くとこよると近年の高校の生物でも被子植物は双子葉植物と単子葉植物に分ける分類を習ったようであるが、現在はここからしてすでに変わっているほど違う分類体系となっている。

 というわけで、植物マニアには周知の内容かもしれないが、駆け出しカランコエ・マニアには避けて通れない道である植物分類体系について簡単に整理してみたい。たださすがにリンネやアダンソン、ドゥ・カンドルなどの分類は飛ばして、19世紀にエングラーがまとめた分類体系についても省略したい。とはいえBergerのベンケイソウ科の分類はエングラーの植物分類体系の大著「植物の自然的科 第2版」内の一節であるから無視も出来ないのであるが、実際のところ、エングラー体系を彼の死後改定した新エングラー体系(1964)は大筋のところで最近まで巾を効かせていたので、改めて体系全体を調べるまでもないかと思う。

 エングラー体系が過去のものとなっていくのは、1980年にクロンキストをはじめとする主要な分類体系がいくつも公表されたことによる。日本ではクロンキスト体系がよく採用されているようで、今でも一般的にはこの体系が採用されている事が多いようだ。この体系でベンケイソウ科は、バラ亜綱 Rosidae バラ目 Rosales ベンケイソウ科Crassulaceae という帰属であった。

 クロンキスト体系は形態形質を重視して系統進化の反映を試みた体系だが、その後動植物ともに分岐進化をふまえた分岐分類学の洗礼を受け、更に1990年代から分子系統解析が分類学に深く浸透していく。現在は国際プロジェクトの被子植物系統グループ(Angiosperm Phylogeny Group)による体系が学問的には使われており、1998年の初版から改定を重ね、2009年の版(APGⅢ)が最新となっている。この体系でのベンケイソウ科の帰属は、コア真正双子葉類 core eudicots ユキノシタ目Saxifragales ベンケイソウ科 Crassulaceaeとなっている。

 しかし植物学は凄い。分類学レベルでは完全に分子系統学が巾を効かせている。動物ではそこまで完全に信じる事ができないのだが、うらやましい限りである。

 非常に簡単だが、植物界全体の分類体系はこのような変遷を辿っており、ベンケイソウ科の帰属はバラ目からユキノシタ目へ変更となった。この変遷や分類学の発展はベンケイソウ科内の系統分類にどのような変化をもたらしたのであろうか。

Adanson「植物諸科」1763.png

Adanson「植物諸科」1763

Kalanchoeの原記載

 Salisbury(1805) Bryophyllum calycinum.png

Salisbury(1805) Bryophyllum calycinum

 Baker(1881) Kitchingia原記載.png

Baker(1881) Kitchingia原記載


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