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毒グモの過ち [flowers]

 先般はロゼイで今回はローズの話である。実は長いこと当ブログを読んでくださっている方々に、お詫びしなければならないことが発覚した。
 今まで度々「アフリカン・ローズ」という品種名で紹介したり掲載してきた花卉カランコエであるが、実は別の品種だったことが分かったのだ。
「皆さま申し訳ありません。」

 思えばもっと早く気づいても良かったのだが、このカランコエを購入したとき巷では(??)クヌート・イェプセン社のアフリカンシリーズが出回っている雰囲気があった(雑誌などで見る限り)。そのため買ったカランコエのローズ・ピンクの花色を見て、全くの先入観から勘違いしてしまったのだ。そして改めて振り返ると、この時期に実際にアフリカンシリーズを見たことは一度もなかったのだ。
 アフリカンシリーズは種苗登録の記載を見るとブロスフェルディアナ系の品種とKalanchoe laciniataを交配して育成したもので、葉はラキニアータの特徴が良く出た(基本的に3裂の)欠刻葉である。本物の「アフリカン・ローズ」も花色はローズ・ピンクで、当時のクヌート・イェプセン社の記事で見た記憶がある。
 なのでそんな時期に花屋で見かけた欠刻葉のカランコエを先入観でアフリカンシリーズと思い込み、開花すると花色からアフリカン・ローズと「同定」してしまった。

 実際のところ、この植物のタグには「タランタシリーズ」と書いてあったのだ。そのこと自体は覚えていたのだが、発売元が「頭の良くなる花」の小林花卉さんだったので独自に名前を付けたものと(これまた)勝手に解釈してしまった。 ところが最近、部屋を整理していてそのタグを発見した。すると育成者は(クヌート・イェプセン社ではなく)KPホランド社と記されているではないか!
 私の購入した植物は、デンマークではなくオランダの会社が展開していた“Taranta”という商標のカランコエだったのだ!!

 それにしてもこんな恥ずべき思い違いや間違いを、堂々と載せてきた自分が情けない。また一歩マニアへの道が遠のいた気がする。下記の記事が間違えたものです(よりによって最多出場の種のような)。
薔薇色の名前;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2013-12-01
冬もみじの混迷;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-11-03
冬は無慈悲な死の女王;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2015-02-14
うろこの葉;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2016-05-07

 Tarantaというのはタランチュラのことで、切れ込みの多い葉が茂ったさまを蜘蛛に見立てたのかもしれない。タランチュラというのは本来イベリア半島(スペイン・ポルトガル)に生息し、咬まれると踊りだすと言われた毒グモで、日本ではコモリグモ属に相当する。コアなペットショップで見かける巨大で毛深いオオツチグモ(トリトリグモ)のことではない。ちなみにヨーロッパのカベヤモリはTarentolaである。

 さてクヌート・イェプセン社のクイーン・カランコエのアフリカンシリーズの葉は良く見るとヒメトウロウソウKalanchoe ceratophyllaに近く葉の先端は丸みを帯びている。葉先の尖ったタランタシリーズとは雰囲気が違う。これに近いのは最近出回っているカランコエ・ボヌールである。ボヌールBonheurは幸福の意の仏語だが、このスペルでネット検索しても育成者が分からなかった。
 一方KPホランド社のタランタシリーズはいまだ健在で八重咲の品種も出ており、もしかしてこれの日本での販売名がボヌールなのか?というような憶測をしてしまうのであった(これはあくまで想像なので情報ではありません、念のため)。
 因みにボヌールBonheurの品種登録者の名称はNubilus B.V.となっていて、会社名については分からない。


タランタシリーズのタグ
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ボヌールのタグ
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子宝草目録2-⑦ Suffrutescentes/バラの鋸歯 [taxonomy]

 前々回からの続きでロゼイの変種のうち基変種を除いた鋸歯が目立つ一群について見てみる。Kalanchoe rosei ssp. serratifoliaの一群である。この仲間は自然交配種と考えられるリショーイKalanchoe ×richaudiiやラウイ“rauhii”を含めてマダガスカル南東部の辺りに集中して見つかっている。この仲間を(インサイダー情報なしに)区別するのは混乱の極みである。

 まずはセラティフォリアK. ssp. serratifoliaとバリフォリアKalanchoe rosei ssp. variifoliaの差異であるが、前者は葉柄が不明瞭で鋸歯も葉柄近くにはない。後者は明瞭な葉柄を持ち、葉縁全体に鋸歯がある。以前書いた記事ではShaw(2008)に従ってラウイ“rauhii” = variifoliaと紹介してしまったが、これは将来訂正されるであろう。(参考:カランコエ・ラウヒー(ラウイ)http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-03-15


セラティフォリアK. ssp. serratifolia 葉柄近くに鋸歯はない
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バリフォリアKalanchoe rosei ssp. variifolia 葉縁全体に鋸歯がある
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 では以前は亜種セラティフォリアの変種とされ、取りあえず現在はロゼイの変種とされているseyrigiiはというと、取りあえず下の写真のようなものとされていたが、
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どうやらこれもバリフォリアvariifoliaのひとつの型か、もしくは未記載の変種あるいは交配種の類であろう。ちなみにこの植物は葉をちぎって土の上に伏せて置いても不定芽を生じるまでに非常に時間がかかる。私も試みたが、不定芽が生成されるまでに1か月以上かかっている。本物のseyrigiiについてはここでは書けない事情があるので割愛する。


下の写真の植物も見かけるがこちらはセラティフォリアの一型だろうか。
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花を見るとロゼイに近く、不定芽も良く生じる。
03 sp. IMG_3404.JPG
 

 さて、残るは自然交配種のリショーイK. ×richaudiiとラウイ“rauhii”であるが、両者ともマダガスカル南東部で採集されており、前者はトラニャロTôlanaro産(原記載ではTalanaro)、後者は新種記載されておらず詳しい産地は不明である。ラウイは以前書いたようなK. rosei ssp. variifoliaではなく別種であり、出回ってはいるが未記載種なのだ。なので学名はなく、かといって正式な栽培品種名もないため、ここではとりあえず“rauhii”と表記している。ヨーロッパでは“Lucky Bells”として流通していると言われるが、花と葉を見ると微妙に異なる2型があるように思える。
 リショーイもラウイもロゼイ×錦蝶と考えられているが、次のような差がある。リショーイはラウイと比較すると葉身が割合として細長く、葉柄は不明瞭、鋸歯は葉縁全体にはなく、花弁の先はフェッシェンコイのように開く。


ラウイ“rauhii”(上)とリショーイK. ×richaudii(下)の葉は微妙に異なる
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05x richaudiiIMG_7681.JPG
 

ラウイ“rauhii”(上)とリショーイK. ×richaudii(下)の花
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07x richaudiiIMG_3195.JPG
 

 ロゼイの仲間については消化不良気味ではあるが、この程度に止めたい。