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クローンコエ顛末記2021 [taxonomy]


 以前の記事で紹介したResende&Viana(1965)の論文では当時KalanchoeとBryophyllumを別属として扱う見解があったことから、シコロベンケイ×ラクシフローラをBryophyllum属の2種の交配株と見なしてBryophyllum ×crenodaigremontianumと呼んでいた。これはResende&Viana自身が正規の学名ではないと明記しているが、この名をKalanchoe属に変更するとKalanchoe ×crenodaigremontianaとなる。これをどう勘違いしたか巷のデマではKalanchoe ×crenatodaigremontianaと読み違えている。

 そのこと自体は横目で流すとして、2020年に上記論文も参照してSmith(2020)はクローンコエを交雑種とした。その後約13ヶ月経ってクローンコエは再び独立種に戻った(Shtein et al., 2021)。この論文の共著者のひとりは他ならぬGideon F. Smith教授なので説得力もあろう。論題と掲載は以下の通り。
Aspects of the taxonomy of the Kalanchoe daigremontiana species complex (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae) and associated interspecific hybrids in southern Madagascar, with the description of a new nothospecies, K. ×descoingsii (=K. laetivirens × K. tubiflora).
Phytotaxa 524 (4): 235–260

 さてここではSmith(2020)が指摘したようにクローンコエとResende&Vianaの交配株Bryophyllum ×crenodaigremontianumには大きな葉に模様がないという共通点はあるものの、大きな違いが6点あるとしている。厳密にはクローンコエとBryophyllum ×crenodaigremontianumや他の交配株との相違点と言える。他の交配株というのは著者のひとりが作出したシコロベンケイ×ラクシフローラ、及び既存の2種のシコロベンケイ×フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiを指し、シコロベンケイ×Suffrutescentesグループ交配株とクローンコエの相違点を探っている。

 以下にShtein et al.(2021)での指摘事項を簡単に紹介していこう。
1.クローンコエは際立って葉縁不定芽を生成する種phyllo-bulbiliferous speciesだが、交配株は半構造的に不定芽生成するだけで、クローンコエに見られるようなペデスタル(台座)もないか不明瞭である。
2. クローンコエやシコロベンケイは越年草multi-annual plants(つまり二年草などライフサイクルで一度だけ花を咲かせる;例外的にその後も生き残ることがある)であるが、観察した交配株やラクシフローラ、フェッシェンコイは多年草である。但しBryophyllum ×crenodaigremontianumについては不明である。
3. クローンコエやその交雑種は栄養成長時にはあまり丈が伸びず、厚くて短い葉柄と大きくて広い葉身を持った疑似ロゼットを形成し、その後生殖成長時に入ると最大4倍以上に丈が伸び、より長い葉柄とより短く、より狭い葉身を持つ葉を発達させるという特異な性質がある。しかしResende&Vianaの交配株では確認できないものの、観察したその他の交配株やラクシフローラ、フェッシェンコイは、一般的なカランコエ同様に栄養成長時徐々に伸長し、しばしば枝分かれする。
4. クローンコエはBryophyllum亜属Invasores節の中では珍しく茎の基部が非常に広くて、下葉は厚い葉柄を持ち抱茎しており、茎に四角形の外観を与える結節nodal scars(ここ植物学的になんて訳すか分かりませんでした)をもたらす。この特徴はResende&Vianaをはじめとする他の交配株も含め、更にラクシフローラ、フェッシェンコイ、シコロベンケイにも見られない。
5. ResendeとVianaの交配株、他の似たような交配株、更にはK. x descoingsiiのような交雑種も含めて(稀なケースもあるにせよ)3列の欠刻葉が見られるが、クローンコエやシコロベンケイには見られない。
6. クローンコエは他の交配株と花にも相違が見られる。クローンコエの萼は短くて小さく、シコロベンケイとK. sanctulaに似る。これらに対し交配株はラクシフローラ、フェッシェンコイのような長い萼筒とクローンコエのような短い萼筒の中間的な長さである。また交配株の萼はラクシフローラ、フェッシェンコイ同様薄いが、クローンコエの萼は肉厚である。そしてクローンコエ、シコロベンケイ、K. sanctulaの花はピンク-パープルで緑ががった色が混じることはあってもオレンジ色の色素はない。しかし交配株はサーモンピンクや赤にラクシフローラやフェッシェンコイのオレンジが混じる。

 上記のような考察からShtein et al.(2021)ではクローンコエ交配種説を否定している。更にSmith(2020)が指摘した変形した花の高頻度の発生はシコロベンケイやK. sanctulaでも起こる事に言及して、反論している。先にも触れたように著者の一人はSmith自身なので、反論といっても前言撤回のようなものである。
 以上のような経緯があってクローンコエは再び独立種Kalanchoe laetivirensとして認識されたのであった。


Invasores節の花:萼筒の長さに着目
Invasores flowers.png

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