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クローンコエ顛末記2020 [taxonomy]

 子宝草=クローンコエについては、今までこのブログで何回か「シコロベンケイKalanchoe daigremontiana とラクシフローラ(胡蝶の舞)Kalanchoe laxifloraの交配種」というISI(International Succulent Introductions)が流布したデマについては全否定しておいた。興味のある方は下記のリンク先を参照願います。
クローンコエ ~神話の崩壊~
子宝草/クローンコエの真実を求めて(前編)
子宝草/クローンコエの真実を求めて(後編)

 さて、注意深いカランコマニアの人は英語版のWikipediaを初めとするいくつかのサイトで、クローンコエの学名がKalanchoe x laetivirensという交雑種の表記になっていることに気が付いたかもしれない。
Wikipedia

 これらのサイトの中には全くの思い違いからこの表記にしている場合もあるのだが、多くは2020年にPhytotaxa誌に掲載された次の論文が一因である。
Smith, Gideon F. (2020). "Taxonomy and nomenclature of Kalanchoe ×laetivirens (Crassulaceae subfam. Kalanchooideae), a further invasive nothospecies from Madagascar". Phytotaxa. 460 (1): 97–109.

 この論文の主旨はクローンコエが交雑起源の植物であることを論じ、そのため学名は交雑種表記でKalanchoe x laetivirensとするということだ。そこで研究史と同定、推定される起源について述べているわけであるが、いきなり1950~1963年にポルトガルのResendeが行った交配実験について紹介している。この交配ではシコロベンケイK. daigremontiana×ラクシフローラK. laxifloraの組み合わせも作出されており、その写真は以前上記のブログ記事「クローンコエ ~神話の崩壊~」に載せておいた。これを見るとこの交配株がクローンコエとは別物に見えるのだが、Smith教授はこの二者を似ているとした上で交配株は欠刻葉になるなど相違点もあると述べている。
 そのこととの関連性には触れないまま、K. x laetivirensが交雑起源であるとして、その根拠としてはクローンコエは花が形成不全になったり、少なくとも不規則な2色化が見られる、他のカランコエではそう見られないことをあげている。そして更にタイプ標本の採集株は野生個体でなくガーデンからの流出株であると書いているが、これは何の根拠にもならないと思われる。Descoings(1997)は本種の原記載で、その来歴について明確に述べている。そのことは上記にあげた過去のブログ記事で(少しばかり)詳しく書いておいたし、この後の論文(次回紹介)でも指摘されている。

 巷に蔓延るデマによる先入観もあってか、詳しい検証なしにクローンコエを交雑種としてしまったように見えるのだが、その親植物の候補としてはやはりシコロベンケイを上げている。Rauh(1995)ではクローンコエをグリーンタイプのシコロベンケイとして扱っていた事が根拠だが少し希薄である。もう一方の親はSuffrutescentesグループのどれかとしながらも、クローンコエの花にモザイクのように入る黄白色から黄花のラクシフローラが有力視されている。シコロベンケイとラクシフローラはマダガスカルのアンタナナリボにあるガーデンで交配株が作られたこともあり、栽培下では自然界よりも交雑しやすいと記しているがその意図は不明である。

 以上のように根拠はやや強引であるが、クローンコエは交雑種として扱われることになった。私個人としては不本意なことであったが、この約1年後に交雑種説は再度覆るのであった。


今回紹介した論文

スクリーンショット 2022-01-05 215816.png

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