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ブリオフィルムの系統/分岐した心皮 [systematics]

 似非マニアの私がどうにも持て余していたBryophyllum節 とKitchingia節だが、この冬何種かの花を解剖していて気付いたことがあった。こうしてちょくちょく「気付き」みたいなことを書くと、自分も身体技法に走り過ぎる武術家になったみたいで嫌なのだが、今度は本当に自らの疑問に決着がついたと思っている。

 Kitchingia節の代表格(のひとつ)であるグラキリペスK. gracilipesの花を分解してBryophyllum節のlaxifloraやuniflora, roseiと比較し、雄蕊が子房由来か花弁由来かを見ていた。以前書いたブログではこの違いが唯一、Bryophyllum節 とKitchingia節を分ける形質かと思われた。(ブリオフィルムの系統/葉上不定芽を形成しないグループ(後篇)参照)
 確かに葉上不定芽を形成しない代表のunifloraを含め、見た限りのBryophyllum節では雄蕊は子房に付いているように見える。一方グラキリペスK. gracilipesの雄蕊は花弁に付いていた。もっとも私自身が花の解剖に付いてまともな知識があるわけではないので、花糸が子房の心皮由来なのか花弁由来なのか理解していない可能性もあるが...
しかしこの形質の差異だけが2節を分ける表徴だとすると、なかなか難しくもあり、不便でもある。

左からグラキリペスK. gracilipes、ウニフローラK. uniflora、ロゼイK. rosei var. seyrigi、シコロベンケイK. daigremontianaの花
graci,uni,ros-sey,daiIMG_8013.JPG 

上の花を分解したところ。左端のグラキリペス以外は花糸が子房に付いている
graci,uni,ros-sey,daiIMG_8017.JPG 


 だいぶ引っ張ってしまったが、グラキリペスの子房を見てふと気付いたことがあった。カランコエは雌蕊が4本だから子房も4裂しているのだが、Kalanchoe節やBryophyllum節では子房に十字の溝があって4裂しているのに対して、Kitchingia節では子房自体がパックリと4つに分れているのだ。
 以前載せたテッサの花の解剖写真(http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2015-10-04)も同様に子房は4つに開いている。テッサはグラキリペスK. gracilipes×紅提灯K.manginiiの交配種でKitchingia節×Bryophyllum節だが、Kitchingia節の形質が色濃く残っているということだろう。

 そこでヴォアトー体系のKitchingia節に属する種の子房の形を見ると、ペルタータK.peltataとK.campanulataも4開裂(注:表現を4裂と区別した)していた。Kitchingia節の残りもう1種のK.ambolensisだけは資料がなくて分らなかった。
 一方Bryophyllum節の花も現物、文献の図版、web上の写真等を漁ってできる限りの種を確認したが、全ての種で4裂しているだけで開裂はしていなかった。これらはいちいち花を解剖しなくても、雌蕊が真ん中に集中しているか、分散しているかを見れば違いが分かる。

上記の花を覗くと、写真では分りにくいが雌蕊の集中と分散が見て取れる
graci,uni,ros-sey,daiIMG_8014.JPG 
子房だけ取り出すとグラキリペスのみ雌蕊4本が開裂している
graci,uni,ros-sey,daiIMG_8019.JPG 

 そこでこの事に関する記述を探すと、進化研関係やDescoingsの著述では見つけられなかったが、ヴォアトー(Boiteau et  Allorge-Boiteau,1995)はかなり目立つ所でこのように記していた。
≪引用始め≫
Le genere Kitchingia Berg. est nettement caracterrise par la divergence des carpelles.
≪引用終り≫
 マニアを目指しているならこれ位読んどけ、と諸先輩方には思われそうだが仏語は読めないのだ。でもある程度英語が分かれば、上記の説明も察しがつきそうなものだ。要するにKitchingia属は心皮が明確に分れるということだが、「Kitchingia属」ということはこれを記載したBerger 自身がこの形質をもとにKitchingiaをKalanchoeから分けたのだろうかという新たな疑問が浮かぶ。Bergerの1930年のこの有名な文献をまだ見ておらず、見ても独語は全く分らないのでお手上げかもしれない。

 ともあれヴォアトーのこの分類形質で2節を分けるという主張は明確で、納得できる。進化研の体系も魅力を感じるが(個人的に好みだ、都合が良いということもある)、ヴォアトー体系も十分説得力のあるものだった。もっとも、節をどのように捉えていたかがはっきりしたというだけで、これが節(または亜属)の根拠として妥当かは別問題である。種以上の上位分類は乱暴に言ってしまえば任意なので、根拠が明白であれば素人にとってはそれでよい。
 これで今までもやもやしていたものが晴れ、今日から暫くは安心して眠れそうな気がする。


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