子宝草目録1-③ Scandentes/鉾型葉形とハイブリッド [taxonomy]
前回は黒錦蝶Kalanchoe beauverdiiの葉の変異を取り上げたが、Descoings(2003)の表現の中で鉾形とか3裂の鉾状というのが黒錦蝶の変異の中では最も特異なものであろう。鉾(ほこ=矛)というのは槍のような古代の武器で現代の我々からすると「鉾型」と言われても想像しにくいだろう。元々は中国の武器であるが、功夫映画でも余りお目にかかれない。ということでここでは垢抜けない表現ではあるが「矢印型」と呼んでおきたい。Descoings(2003)が「鉾型」とした矢印型の葉は、おそらく下の写真のようなものをいうのであろう。
これに対し「3裂の鉾状」と表現したものは、前々から一変種として名を挙げているユエリKalanchoe beauverdii var. jueliiのことであろう。こちらも矢印型の葉であり、その形状は成長に伴い変化する。色彩は基本的に緑色だが、冬期を経ると黒ずんだ色になる。葉形の変化を追ってみると、
① 若い苗:葉は線形で突起がある。
② 少し経つと矢印型になる(写真は冬を越して多少黒くなったもの)。
③ 成長すると「3裂の『矢印型』」になる。2つの黒斑が現れ、プラナリアのようである。
これが黒錦蝶と同一(変)種には見えないが、本当に野生の個体群は他の形状の黒錦蝶に対して隔離機構が働かないのだろうか。そのような研究結果によって各(変)種が統合されたわけではなさそうだし、疑問が残る。
疑問と言えばDescoings(2003)もThe Plant Listもこのタイプの種小名を「juelii」としているが、Hamet & H.Perrier (1914)の原記載を見るとスペルは「jueli」である。前回載せたHamet(1964)からの引用写真では原記載のスペルとなっており、写真キャプチャーで私が載せたスペルと異なっているのに気づいた方もいらっしゃったのではなかろうか。この辺の命名規約上の問題がありそうだが、ユエリが種や変種として認められていない現在、解決しようとする者は誰もいない。
Kalanchoe jueliの原記載より(Hamet & H.Perrier (1914))
さて、Scandentesには他に雑種起源の2種が知られる。そのひとつはライジンゲリKalanchoe ×rechingeriで、黒錦蝶K. beauverdiiと錦蝶K. delagoensisの自然交配種と考えられている。見た目にも両種の形質を持っているが、花は黒錦蝶より錦蝶の特徴が濃く表れる。育て方によっては葉が長く伸びた錦蝶に似た外見となる。
もう1種は黒錦蝶とシコロベンケイK. daigremontianaの交配種と考えられている ポアンカレイKalanchoe ×poincareiである。こちらはマダガスカルで2回しか採集されていないと言われ、お目にかかれない。いつも引用しているBoiteau et Allorge-Boiteau(1995)やDescoings(2003)ではどういうわけかセイタカベンケイKalanchoe suarezensisのような植物として扱われていたが、その後Descoingsは2005年にこれが黒錦蝶の交配種であると訂正した。そもそも前回参照していたBoiteauとMannoni(1949)ではこれを黒錦蝶の交配種として扱っていたので、その後扱いを間違えたのは不思議である。
つる性のハイブリッドKalanchoe ×rechingeri
長くなるが交配種にはもうひとつある。米国のThe Glasshouse WorksでKalanchoe beauverdii Hybridという名で販売しているものは、外見は前回紹介したscandensタイプによく似るが、花の写真を見ると確かに交配種である。この植物の起源については不明であり、入手を試みてGHへ連絡したが、米国内にしか送れないとあっさり断られてしまった。
どなたかこの植物の入手方法をご存じの方がいらしたら、御教示頂けると大変嬉しいです。
参照URL http://www.glasshouseworks.com/succulents/succulents-k/kalanchoe-beauverdii-hybrid
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