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カランコエの節間雑種 [flowers]

 カランコエをカランコエ節Kalanchoe、ブリオフィルム節Bryophyllum、キチンギア節Kitchingiaの3節に分けるか、キチンギア節をブリオフィルム節に含めて2節に分けるかで捉え方が異なるが、園芸品種を初め、自然交雑による交配種を含めても異なる節Section同士の交雑例は多くない。
 一般的に良く知られるのはテッサ‘Tessa’でブリオフィルム節の紅提灯Kalanchoe manginiiとキチンギア節のグラキリペスKalanchoe gracilipesの交配によりオランダで作出された。以前の記事で書いた様にこれはすぐれた品種で、花色が薄いとか暑さに弱いといった(あくまで園芸上の)欠点をなくしたロングセラーである。しかしキチンギア節をブリオフィルム節に含めるとした場合、これは異節間雑種intersectional hybridではなくなってしまう。

‘Tessa’ギリシャの女子の名だろうか
TessaIMG_6114.JPG

 もう1種知られるのはミラベラ‘Mirabella’で、こちらはKalanchoe blossfeldianaの品種×紅提灯と言われている。これならカランコエ節とブリオフィルム節の交配種ということになる。この根拠として引用されるのはthe German journal Gartenwelt 60 (11)の記事であるが、ミラベラはこの時作出された雑種そのものではなく、その後30年を経て花卉業界に現れたものだ。例によって米国大家が宣っている説なので、話半分にしておきたい。ちなみに前述のドイツ交配種のときに使用されたブロスフェルティアナの品種は‘Tom Thumb’である。
 もっと信頼できる情報として農水省の種苗登録の記録によれば、ミラベラは育成者がThomas Frankで、「この品種は,『マンギニー』に無名の品種を交配して育成されたもの」と記されている。こちらの方を信じて、ミラベラを異節間雑種の代表的なものと認識したい。似たようなタイプの交配種も同様である。
 それから我が国では殆ど見られないようだが、ドロシーという花ものカランコエもカランコエ節×ブリオフィルム節のようである。ブリオフィルム節の方の親はどれであろうか。。。

花も名も美しい‘Mirabella’
Mirabella P3140038.JPG

 私の好きな子宝草の仲間のブリオフィルム節では2008年に発表されたリュウキュウベンケイソウKalanchoe spathulata×ラクシフローラKalanchoe laxifloraの雑種があげられる(Izumikawa et.al.)。こちらはある意味純粋にカランコエ節×ブリオフィルム節で、マダガスカルの進化的なブリオフィルム節とアジアのカランコエ節という一見遠い存在で交配が成立し、貴重なデータが得られている。
リュウキュウベンケイソウが子房親となった場合、雑種株は両種の中間的な形質のものが約半数見られ、残りはリュウキュウベンケイソウと区別がつかなかった。それは交雑せずに自家受粉してしまった可能性がある。逆の交雑で得られた種子のうち、発芽したものはラクシフローラと区別がつかず、これも自家受粉が疑われる。
リュウキュウベンケイソウ×ラクシフローラの雑種はDNA量からも染色体数からも両種の交雑が確認され、形態形質こそ中間的であったが葉縁不定芽の形成は現れなかったとしている。

その後カランコエの交配が比較的盛んな台湾においてもKalanchoe blossfeldiana‘Isabella’とセイロンベンケイソウKalanchoe pinnataやウェンディ‘Wendy’との交配について論文が出ている(王 和朱, 2011)。こちらの結果も中間形質の雑種ができるが稔性はなく、セイロンベンケイソウとの雑種では不定芽形成形質はないという結果であった。
 更に後年作出されたガランビトウロウソウKalanchoe spathulata var. garambiensis×黒錦蝶Kalanchoe beauverdiiでも同様に不定芽形成が見られないことから、カランコエ節×ブリオフィルム節では不定芽形成能力が欠如するものと示唆される。
 この結果は若干寂しくもあるが、子宝草マニアを標榜する身としては、コレクション・アイテムが無限大に増加する可能性がないことに安堵感も覚えるのである。

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