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カランコエとブリオフィルム⑥ 平成最後の新展開 [systematics]

 2019年も残り少なくなった。元号が変わり消費税も上がったが、庶民にとって新時代の幕開けとはならないのはいつものこと。植物でも愛でて安上がりに楽しむことにしたい。
 今回タイトルに⑥と付けたが、では⑤を載せたのはいつなのだと突っ込まれる前に調べたら5年以上前だった(https://kalanchoideae.blog.ss-blog.jp/2014-08-03
さて、昨年カランコエ属の下位分類に関する論文が英国のサボテン・多肉植物協会の会誌Bradleyaに掲載された。この手の話題は久々で期待して読んだのだが、分類学そのものではなく命名規約に因んだ状況整理的な内容であった。
著者:Gideon F. Smith and Estrela Figueiredo
掲載誌:Bradleya 36, 2018:162 - 172
論文名:The infrageneric classification and nomenclature of Kalanchoe Adans. (Crassulaceae), with special reference to the southern African species

 著者は南アフリカのカランコエの新種記載や命名に関する論文を精力的に出版していて、最近アフリカ南部のカランコエをまとめた大著も執筆しているので御存知の方もいらっしゃると思う。今回の論文は下位分類であるから当然Bryophyllum節とKitchingia節の話になるだが、著者たちはマダガスカルの植物には精通していないようで内容に疑問符が付く。
 論旨としては、Kalanchoe属はKalanchoe・Bryophyllum・Kitchingiaの3亜属に分けられるというものだ。そして何故かKitchingia「亜属」のみ構成種が載っていて、下記の種がリストアップされている。
Kalanchoe ambolensis
Kalanchoe campanulata
Kalanchoe gracilipes
Kalanchoe peltata
Kalanchoe miniata
Kalanchoe porphyrocalyx
Kalanchoe schizophylla
Kalanchoe uniflora
そして次の3種はBryophyllum「亜属」に残しておく(retained)との記述がある。
Kalanchoe jongmansii, Kalanchoe laxiflora, Kalanchoe streptantha

 さて、これを見た私は深く失望した。論文の前半にはKoorders(1918-1920)が提唱したEukalanchoeという亜属/節名は(属名と同形でないため)命名規約上無効であることが明示されすっきりしたのであるが、ではそれらの分類群がなぜ節Sectionではなく亜属Subgenusなのかという見解は書かれていない。本ブログでは今後これらの下位分類群を今まで通り節として扱うべきか、亜属に変えるか態度を決めかねてしまう。その問題はともかくとしても、Kitchingiaの構成種リストには納得できないし、論文中に分類学的見解も載っていない。
 上記のリスト前半の4種は、Boiteau体系では心皮が4開裂していることを根拠としてKitchingia節に分けていた。これは至極納得がいくものであった。以前から言われていた萼筒が花筒との比率が小さいことと、葉縁不定芽の形成がないことを条件とした場合、リスト後半の4種も条件に合うので一見良さそうに思える。しかしそうするとKalanchoe jongmansiiを保留にしている意味が分からなくなる。

 そこで3亜属の特性表記Diagnosisを見てみる。大変短い表記なので訳してみた。

■Kalanchoe亜属
一年生、または多年生。 草本性または木本性、地上性。 葉縁には通常不定芽を生じない。 花は直立または広がる。 花筒は通常、萼筒・萼片よりもはるかに長い。花糸は花冠の内側に挿入、 葯は花冠内か、非常にわずかに突出する。

■Bryophyllum亜属
多年生または二年生。草本性。 地上性だが、まれに着生。 葉縁の鋸歯の窪みにしばしば不定芽を生じる。 花は下垂型。花筒と萼筒は多くの場合、区別が目立たない。 花糸は花冠の下部3分の1に挿入、葯は突出する。

■Kitchingia亜属
多年生。 草本性。地上性または着生。 葉縁は通常不定芽を生じない。花は下垂型。花筒が萼筒によって目立たないことはあまりない。 花糸は花冠の下部3分の1に挿入、葯は突出する。

 葉縁不定芽の形成に関する部分でKalanchoe亜属もKitchingia亜属も“usually not bulbiliferous”「通常不定芽を生じない」としているのが気になる。K. bogneriのように葉縁不定芽を形成しない(とされている)子宝草は存在するが、葉縁不定芽を形成するKalanchoe亜属やKitchingia亜属については聞いたことがない。なのに何故“usually”などと書くのか、この特性表記は頂けない。Kalanchoe jongmansii, Kalanchoe laxiflora, Kalanchoe streptanthaの3種の帰属を保留的にBryophyllum亜属に残したのは、各種の分類形質への精査をしていない結果であろう。(支持したくないが)この特性表記を基に分類するのであれば、まだ何種もKitchingia亜属に含まれる筈だ。

 論題を見たときの期待が大きかっただけに、残念な内容に失望は倍増したという訳である。各々の亜属の帰属種の分類根拠についても90年前(Berger, 1930)に戻ってしまったので、その意味では混乱をもたらすものでもある。
 個人的な収穫としては引き続きカランコエ1属説が支持されている点と、Eukalanchoeが否定された点に対して確証を深めたが、分類面では何の進展もない(後退はある)と思えるのであった。

レブマニィKalanchoe rebmannii:萼は小さく、花冠は目立っているがどの亜属?
rebmanniiIMG_8216.JPG

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聖地巡礼;珊瑚石灰岩の匙葉と枝角葉 [others]

 このブログではよくあることだが、初回に細かいことを書かなかったので少し補足したい。
かねてより台湾のカランコエ自生地を見たいという願望があったが、思っているだけではいつまでも叶わないので実現に向けて一歩踏み出すことにした。そこで台湾南部へ行けばよさそうだということで、高雄行の航空券探しから始めた。しかし良い時間帯がなくて、金曜夜遅くに高雄に着き、土・日に南部へ向かい探索して、月曜朝一の便で帰国という忙しい旅になった。

ということでガランビトウロウソウ探索の翌日は、リュウキュウベンケイソウK. spathulataを求めて低山へ登った。ここも山肌に石灰岩が見られ、林道脇や森の中に何ヶ所かのリュウキュウベンケイソウの群落を見つけた。沖縄のものとはだいぶ異なる形態で、かといって大陸で一般的に見られるものとも違う。葉が大型で披針形のタイプである。多くの群落でまわりの他の植物に比べカタツムリによる食害がひどい。カタツムリたちにとってリュウキュウベンケイソウは美味しいのだろうか。またはカルシウムを多く含むのか、興味深い現象であった。
 リュウキュウベンケイソウは他のカランコエと違って岩肌ではなく、林床に生えているため発見するのは難しかった。更に難しいのは、種内の形態差が甚だしく台湾国内でもいくつかのタイプが見られるということだ。つまり、探している場所のリュウキュウベンケイソウがどのような形をしているか分からないのだ。しかも特に目立って多肉なわけでもないので、尚更であった。

林床のリュウキュウベンケイソウK. spathulata群落IMG_8028.JPG

この個体群は葉が大型になるIMG_8002.JPG


 さて、残る1種のヒメトウロウソウK. ceratophyllaは他種よりも北部に戻りつつ探した。これも3ヶ所で見られたが、多少の形態的差異はあるものの地域による差異の傾向までは把握できなかった。ヒメトウロウソウはガランビトウロウソウ同様に岩場に着生して自生している。ここで花序を伸ばして背が高くなりすぎると、自重で倒れて下方に落ち、分布が広がっていくようだ。

岩肌に着生するヒメトウロウソウK. ceratophyllaIMG_8214.JPGIMG_8226.JPG

細葉のものと広葉のものが見られるIMG_8108.JPGIMG_8213.JPG



 台湾のヒメトウロウソウはKalanchoe gracilisの名で記載され、現在はこれをK. ceratophyllaのシノニムとしているが、詳細な分類学的研究が行われたのか疑わしく、実のところステイタス不明としたいところだ。私が栽培しているヒメトウロウソウはタイ産と言われ、確かに今回見た台湾のものとはかなり違うのであるが。。。
 台湾国内のものを見ても細葉linerとやや広い葉のものがあり、更にweb上ではリュウキュウベンケイソウのような、またはK. laciniataのような3裂の欠刻葉の植物がK. gracilisとして載っている。これがヒメトウロウソウなのかリュウキュウベンケイソウなのか、どちらだとしてもガランビトウロウソウを含めて台湾国内のリュウキュウベンケイソウ種群が形態的に分化していることは大変面白い。

 ヒメトウロウソウにも欠刻葉にならない個体が出たり、ガランビトウロウソウに欠刻葉があったり、リュウキュウベンケイソウの形態が多岐に渡るなど植物の形態形質(表現型)と遺伝子の関係を含め、アジアのカランコエを総括する研究が進むことを切に願いたい。

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