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ベハレンシス追補(前編) [taxonomy]


 木本性カランコエで一般的な種であるベハレンシスKalanchoe beharensisについては以前まとめたことがあるが、その後に撮った写真もあるのでここらでもう一度総括したいと思う。大きく分けて原種と人為交配種、それに由来不明のものがある。

❒人為交配種
 大雑把にローズリーフ、オークリーフ、ファング、ナナ(ブラウン・ドワーフ)の4タイプがある。これを親植物毎に分けてみると以下のようになる。
① Kalanchoe beharensis × K. tomentosa
・ファング'Fang'、ブラックファング
・ローズリーフ'Roseleaf'、ベハレンシス錦'Rose Leaf Variegated'※
※ベハレンシス錦という名前だがローズリーフの斑入りである。
② Kalanchoe beharensis × K. millotii
・オークリーフ'Oakleaf'
③ Kalanchoe beharensis × K. orgyalis
・ナナ'Nana'(ブラウン・ドワーフ)*
*この名はRauh, Succulent and xerophytic plants of Madagascar, vol. 2, 1998による。日本国内ではブラウン・フォームの名の方が通りが良いかも知れない。

 上記の交配については文献的な根拠があるわけではなく、詳しい筋からの情報に頼らざるを得ない。ナナ以外の品種はいずれもベハレンシス原種の特徴である盾状葉ではなく、葉柄は葉身の端に付いている。
上記のうちローズリーフ、オークリーフというのは米国カリフォルニア州でEdward Hummelのファームで1960年頃に作出されたとされている。ICNのサイトにはこのオークリーフがファーンリーフとして載っており、エビデンスの古いカタログ(Harry Johnson plant catalog)にもそう書いてある。故に私も以前のブログ記事でそれを引用したのだが、その後の調べでEd Hummelの作出後にHarry Johnsonカタログでリネームされたものと判った。なのでHummelの名を活かし、一般的な認識通り下記写真の植物をオークリーフとみなしたい。

ミロティとの交配種であるオークリーフ'Oakleaf'
oakleafP1190203.JPG 

❒由来不明種
 これらが天然の品種を見付けて栽培しているものか、人為的な栽培品種なのかは知らないが、双方とも魅力ある品種である。葉身の中ほどに葉柄が付いているので、たとえ人為的な品種だとしても他種との交配によるものではなさそうだ。
 具体的には矮性品種(厳密な意味ではない)のことで、少なくとも2タイプがある。
・ミニマ'Maltese Cross' or  “Minima”
・ベビーズボトム”Baby’s Bottom”(無毛の矮性種)

 最近インテリアプランツとしてもマイナー人気があるミニマ“Minima”
minimaIMG_8536.JPG

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子宝草/クローンコエの真実を求めて(後編) [taxonomy]

 誰も期待してないとは思うが、前回の続きでクローンコエKalanchoe laetivirensのルーツを探ってみたい。原記載論文にある地名Isalo(原産地)、Toliara(栽培地)、Saint Augustine(タイプ採集地)の3ヶ所にクローンコエは本当に存在しているのだろうか。個人的に調べた結果を述べてみたい。

1. Saint Augustine
 原記載にはこの地にあるLa Mangroveの庭から逃げ出したクローンコエを道端で見つけたという記述があるが、正直なところ現在もこのロッジがあるのか分からなかった。しかしこの村のはずれにあるEden Loge(ヌシベ島のEden Lodgeの間違いではない)というレストラン+宿泊施設では現在もクローンコエを栽培していることが分かった。この場所は確かにマングローブに覆われた半島の付け根にあり、1997年当時からこの辺りでクローンコエがあった可能性はある。
ちなみにここはかなりの辺境にありながら、現地の人の中でひとりの仏人美女が仕切っているというボンド映画などにありがちなシチュエーションである。

ビーチに面した洒脱なトロピカル・レストラン

①IMG_3360.JPG
入り口に置かれたクローンコエ
②IMG_3368.JPG

2. トリアラのL'Arboretum d'Antsokay
 ここはフランス系スイス人Hermann Petignat氏が設立した施設植物園である。故戸澤博氏が2000年代にここを訪れたときのことを著書「モザンビーク海峡の夕日」にて述べているが、ダイグレモンティアナKalanchoe daigremontianaと称して載っている群生写真はどうもクローンコエのように思われる。著者は同じページで「紫模様のシコロベンケイをはじめ最近ではこの栽培品が巷間に多く出回っているようだ」と書いているので、これをシコロベンケイとは別物と認識していると思われる。どうやらシコロベンケイの学名がKalanchoe daigremontianaであることを知らず、かつこれをシコロベンケイとは違う品種と考えていたようだ。
本書は相当気合の入った力作で、マダガスカルへ多肉植物を見に行きたいと思う人には大いに参考になる。
 現在マダガスカルのシコロベンケイの個体数はかなり減っている。この植物園でもごく少数が植えられているのみで、クローンコエに駆逐されてしまったかのようだ。クローンコエは環境が合うのか園内のあちこちで見られ、所によってはそこそこの群生になっている。

 L'Arboretum d'Antsokay

③IMG_2717.JPG
 園内の群生

④IMG_3071.JPG
 本園の植物がタイプ標本個体群の供給元である

⑤IMG_3187.JPG
 日本で栽培されているものと差はない

⑥IMG_2819.JPG

3.イサルIsalo国立公園
 先ずこの一帯イサル山系はよくイサロと書かれているが、Isaloと書いてイサルと読む。マダガスカルではOをUと発音するためだ。砂岩が織りなす奇妙な景観が特徴のイサル山系は東西で最大20km、南北50kmもあり、広大なこの国立公園のどこかにクローンコエは自生している。実際どこへ行けば見つかるのか、故人となったHermann Petignat氏のみぞ知るかと思われた。しかしクローンコエKalanchoe laetivirensの原記載には「イサル国立公園の砂岩山塊の入り口で見つけた」と記述がある。ということは街道から砂岩の山塊までの10kmほどの間で見つかった筈である。
 はたして、砂岩に入った亀裂のようなキャニオンに向かう途中の林の中で、クローンコエは現在もひっそりと自生しており、地元のガイドはこれをワイルド・プランツであると説明している。これがHermann Petignat氏が見つけた個体群かどうかは分からないが、やはりその一帯にあったのだと言えよう。

 真実を求めてキャニオンへ

⑦IMG_2143.JPG
 ここがクローンコエのルーツ(のひとつ)

⑧IMG_2153.JPG
 これもまた国内で見られるものと差はない

⑨IMG_2155.JPG

 以上のことから、やはりクローンコエはマダガスカルの一固有種であると私自身は納得している。

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