SSブログ

アジアのカランコエ [taxonomy]

  前回はカランコエ・スパチュラータKalanchoe spathulata(リュウキュウベンケイソウ)とその変種について述べたが、アジア産(といってもインド以東程度の大雑把な意味)のカランコエは他にも知られている。
カランコエ・スパチュラータ種群も含めて、スパチュラータ以外の種を列挙してみよう。

【K. spathulata種群】
種 名           分 布
K. ceratophylla     インド・ヒマラヤから南はインドネシア、フィリピン、東は台湾まで
K. rosea         インド(アッサム)

【その他の仲間】
種 名           分 布
K. bhidei        インド
K. cherukondensis    インド(アンドラ・プラデシュ)
K. chevalieri       ベトナム
K. craibii        タイ
K. grandiflora          インド
K. longifolia             タイ
K. olivacea              インド
K. tashiroi               台湾蘭嶼
K. tetramera           タイ
K. yunnanensis※     中国雲南省
※これをK. spathulata var. annamicaのシノニムとすることもある

【アフリカ大陸との共通種】
種 名                   分 布
K. laciniata           インド
K. lanceolata        インド

 ここでまず気になるのはアフリカ大陸との共通種で、インドに分布している上記の2種である。以前アラビアのカランコエをまとめたときにもKalanchoe laciniata とKalanchoe lanceolataはリストアップされていたので、アフリカ大陸から東限はインド辺りまで分布している種なのかもしれない。しかしK. laciniataはKalanchoe ceratophyllaの誤認という可能性もある。解決を待たれるテーマである。
 しかしご存知の方も多いと思うがインドはインド亜大陸とも呼ばれ、超大陸パンゲアが崩壊した後にアフリカ方面から今の位置に移動してきてアジアの一部になった。そのときの衝突によって出来たのがヒマラヤ麓のシワリク丘陵である。
 故にインドはアジアなのにカメレオンがいるし、スリランカにはシクリッド、アンダマン諸島にはヒルヤモリが見られる。ライオンもいるが、これは元々アフリカからヨーロッパ、中近東を経てアジアまで分布していたものが、最近(ここ5,000~10,000年前のこと)になって各地で絶滅したため不連続分布をしているように見えるだけだろう。それよりもインド亜大陸はマダガスカルとの結びつきが興味深いところだ。

 インドには白花のKalanchoe bhideiやKalanchoe olivacea、ピンク花のKalanchoe roseaが知られ、ベトナムのKalanchoe chevalieriの花はオレンジ色である。アジアン・カランコエといえども全てがリュウキュウベンケイソウ=カランコエ・スパチュラータK. spathulataのような黄花ばかりではない。
 K. spathulata種群のK. roseaはインドのアッサム州で採れた個体を基に記載された。アッサムはその後分割され、今は隣接する州となったメガラヤで最近になって薄いピンク花のカランコエが見つかっている。私なんぞは何の根拠もなくこれがK. roseaではないかと思っているが、今後の研究が待たれる。
 もう1種のK. spathulata種群であるヒメトウロウソウKalanchoe ceratophyllaは広域に分布しているが、インドシナ半島には変種のK. ceratophylla var. indochinensisが見られ、花序の分岐した側生が長い事て区別できるという。
 タイにはヒメトウロウソウの他にもKalanchoe craibiiやKalanchoe longifolia、Kalanchoe tetrameraといったレアものが知られる。
 以上がアジアのアウトラインであるが、この他にも以前ドイツのサイトに写真が載っていたミャンマーのシャン高原産の未記載の白花カランコエなど、未知のカランコエが他にもあるに違いない。

広域分布するヒメトウロウソウKalanchoe ceratophylla
ceratophyllaIMG_9086.JPG 

Kalanchoe roseaの原記載(J. Linn. Soc., Botany 25: 21. 1889)
K.rosea OD.jpg

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

カランコエ・スパチュラータと8つの変種 [taxonomy]

 日本国内に自生する(していた?)唯一のカランコエ属の植物がリュウキュウベンケイソウで、その学名がKalanchoe spathulataである。以前はこれをKalanchoe integraとしていたが、黄花のリュウキュウベンケイソウに対してこちらは赤花が咲く別種であると分かり、更にそれがKalanchoe deficiensのシノニムであるとされた(Ohba, 2003)。このことは以前の記事でも書いているが、改めて述べておきたい。
 そのK. spathulataはインド・ネパールから沖縄にかけて広範囲に分布しており、当然変異は多い。沖縄のものに限っても学名の通り匙状葉のものとやや巾広の葉のものがある。国外では下の写真のようなものが一般的で、更に3裂の欠刻葉になるものも少なからず見られるようだ。台湾だけでも以前台湾のカランコエ記事で書いた様に3タイプが見られる。

一般的に見られるカランコエ・スパチュラータKalanchoe spathulata
spathulata var. spathulataIMG_5096.JPG

葉が3列の欠刻葉となるタイプKalanchoe spathulata
lobed spathulataIMG_7609.JPG 

 そしてここが面白いというか難しいのだが、これらの変異を少し逸脱したものがK. spathulataの分布域内、あるいはその周辺で見られ別種として記載されていた。それらの多くをOhba(2003)はK. spathulataの変種と位置付けた。この論文によりKalanchoe ceratophylla 以外の黄花のアジア産カランコエの殆どがK. spathulataに内包された。但しここでK. spathulata の変種にされたK. spathulata var. dixonianaはDescoings(2003)によれば白花であるという(Ohbaの論文にはこの変種の花色の記載が見つからなかった)。
 各変種とその産地は以下のとおりである。
変種名    分布
K. spathulata var. annamica ベトナム・ラオス・中国雲南省
K. spathulata var. baguioensis フィリピン(ルソン島)
K. spathulata var. dixoniana タイ
K. spathulata var. garambiensis 台湾南部
K. spathulata var. schumacheri インドネシア(ジャワ島)
K. spathulata var. simlensis インド(ヒマチャル・プラデシュ)
K. spathulata var. staintonii インド(シッキム、アッサム他)・ネパール・ブータン
K. spathulata var. spathulata 上記以外の分布域

 このうちガランビトウロウソウK. spathulata var. garambiensisは以前述べたように小型種で、紅葉?した葉裏の紫色が非常に美しい。その他は大体似たような植物なのか調べ切れてはいないが、Ohba(2003)によるとこのK. spathulata種群は他にK. ceratophyllaとK. roseaの2種が含まれている。K. ceratophyllはヒメトウロウソウの和名で知られる3~5裂の欠刻葉となる植物で、K. spathulata同様花色は黄色い。K. roseaはインドのアッサム州で見つかった淡いピンクやオレンジの花が咲く種である。
 その他のアジアの種とK. spathulata種群の違いについては同論文からは分からず、その点が気になるところである。

葉裏の美しいガランビトウロウソウK. spathulata var. garambiensis

garambiensisIMG_7415.JPG

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー