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臺灣のカランコエ [taxonomy]

 台湾は私にとって思い出深い国だ。この地に(家族抜きで)1週間から半月ばかり滞在したことが3度あり、ずっと山中にこもっていた。惜しむらくはその頃植物への興味がなかったので、そこにも自生している筈のカランコエの事は全く知らず終いであったことだ。今では家族と共に短期間の観光旅行に行くのが関の山だ。いつの日にか、また動植物を見ながらの山歩きをしたいものだ。

 さて、彼の地には自然分布のカランコエが4種知られている。それに加え、少なくともセイロンベンケイソウとキンチョウが帰化植物として見られ、大陸中国並みにカランコエ相は充実している。むしろ単位面積当たりで考えれば、アジアの他国よりもリッチである。
 台湾のネイティブなカランコエは下記の4種である。
・リュウキュウベンケイソウ  Kalanchoe spathulata var. spathulata
・ガランビトウロウソウ    Kalanchoe spathulata var. garambiensis
・コウトウベンケイソウ    Kalanchoe tashiroi
・ヒメトウロウソウ      Kalanchoe ceratophylla var. ceratophylla

 リュウキュウベンケイソウは言うまでもなく、日本(といっても琉球列島のみ)に自生している(orしていた)唯一のカランコエと同種・同変種である。但し、全く同じものかというと疑問符が付く。
 中国語名で匙葉燈籠草(匙叶伽蓝菜)、倒吊蓮、篦葉燈籠草と諸々あり、匙葉燈籠草というのは学名をそのまま翻訳したのだろう。本種の学名がKalanchoe integra ではなくKalanchoe spathulatと認識しての名称なので大したものだと思う。
 台湾の方のHPなどを見ていると、どうも台湾での名称というのは同じ植物に多くの呼び名があるというより、植物のタイプで呼び名が異なっているようにもみえる。例えば匙葉燈籠草は沖縄のリュウキュウベンケイソウあるいはそれとは異なるがアジア産として欧米で良く栽培されるものと同じタイプで、葉の形状がスプーン状のものをいう。これに対しラキニアータKalanchoe laciniataのように3裂の欠刻葉を形成するタイプのものは倒吊蓮、花卉モアフラワーズのマドリッドの葉身を細身にして先を尖らせたようなものは雞爪蓮と呼ばれているようである。勿論、このような認識なくごっちゃに使っている場合も多い。ともあれWEBを漁ると少なくとも上記の4タイプが引っかかってくる。この差が単に形態的に多型の植物であるためなのか、分化が生じているのか、非常に興味深い。

 ヒメトウロウソウ(小燈籠草)はガランビトウロウソウ(鵝鑾鼻燈籠草)と共に名前だけトウロウソウ(=Bryophyllum)だが、花は両者ともリュウキュウベンケイソウによく似た上咲きの黄花で、全くのKalanchoe節である。台湾では雞爪癀などの呼び名がある。フィリピン、大陸中国からインドシナ半島まで広く分布し、ベトナム・ラオスのものは別変種Kalanchoe ceratophylla var. indochinensisとされる。
 私の手元にあるタイ産の個体に比べて台湾(やフィリピン)のものは葉が細く分かれるようで、かつてKalanchoe gracilisとして記載された。これも今一度調査の必要がありそうだ。某氏の御教示によると実生苗はかなりの割合で欠刻葉ではないとのことで、リュウキュウベンケイソウとの関係も研究成果が待たれる。

 リュウキュウベンケイソウとヒメトウロウソウが台湾全土に散見されるのに対して、南部沿岸地方で見られるのがガランビトウロウソウで草丈10cmほどの小型種である。冬季に紅葉?すると葉が深い紫色になり、美しい。台湾のサイトの情報を見ていて紫のタイプと緑のタイプがあるのかと思っていたが、季節による変化のようだ。Ohba(2003)はこれをリュウキュウベンケイソウの変種としたが、独立種Kalanchoe garambiensisと見る向きもある。
 これも稀にヒメトウロウソウのような欠刻葉のものがあるようで、マニア的には貴重である。

 もう1種、台湾南東沖の離島である蘭嶼に産するコウトウベンケイソウはOhba(2003)によるとクレナータKalanchoe crenataの帰化群落と疑われているようだが、Yamamoto(1926)の原記載や海外サイトの写真を見る限り、クレナータとは見えない。特に特徴のない鋸歯が細かな黄花の種である。確かにカランコエ属の分布東限の地で、何故この島にだけ特化した種が存在するのかは謎である。植物の種分化は動物とは違うメカニズムが働くので、私のように動物分類学しか分からない者では考えにくいのだ。

 非常に大雑把だが、以上が台湾産カランコエである。そのうちアジアのカランコエを俯瞰して、台湾のカランコエ相について改めて考えてみたい。

リュウキュウベンケイソウ  Kalanchoe spathulata var. spathulata
lobed spathulataIMG_5383.JPG 

ガランビトウロウソウ  Kalanchoe spathulata var. garambiensis
garambiensisIMG_4484.JPG 

コウトウベンケイソウ  Kalanchoe tashiroiの原記載図(續臺灣植物圖譜vol.2, 1926)
tashiroi.jpg

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寒波の洗礼 [others]

 2018/1/22関東地方全域は大雪に見舞われ、その後1週間は低温が続いた。埼玉は最低温度が▲7℃から0℃、最高温度も4℃から8℃といった寒い週だった。我が家のベランダでも1/25から1/28まで4日間毎日氷が張り、朝の気温は▲3℃から0℃だった。いうまでもなく、寒さに弱いカランコエにとっては致命的な期間であった。
 埼玉の冬の最低気温は東京より2℃ほど寒いが、我が家のベランダではここ何年かルトンディフォリアK. rotundifoliaがカバーなしで冬を乗り切っていた。その他にも他の植物の鉢植えの片隅で不定芽から芽を出したBryophyllumも冬越しに挑戦するが、毎年氷が張ると敗退していた。
 今年もまた果敢な挑戦者たちが冬越しを試みたが低温に耐えられず、または雪に埋もれて絶対王者とも思われたルトンディフォリアK. rotundifoliaまでもが敗退した。ここ数年で一番の寒さにカランコエの限界を見た思いだった。

 しかしである、雪に覆われたローズマリーの鉢の片隅で、雪に耐えて生き残ったものがいた。K.×houghtoniiである。親である錦蝶K.delagoensisもむき出しで雪と寒波に挑んで倒れ、もう一方の親シコロベンケイK. daigremontianaなどはビニール2枚掛けで防寒していたのだが、役に立たず死んでしまった。なので雪に埋もれていたK.×houghtoniiが生き残ったことは奇跡的ともいえる。まさに不死鳥である。
 マダガスカル高地に産するプミラK.pumilaやアフリカ大陸南部産の種が生き残る可能性は高いが、Bryophyllumの交配種の耐寒性が強いとは意外だ。次の冬には他の交配種も試してみたい気にさせてくれた。
 一方、市販のビニール掛けフレームに収めたカランコエ達は、ビニールを3重にかけた甲斐があって多少のダメージを負ったものがいたものの、無事に難関を切り抜けてくれた。

昨年までの覇者ルトンディフォリアK. rotundifoliaも無残な姿にIMG_8598.JPG
4重にビニール袋を被せたベハレンシス・ヌーダK.beharensis var. subnudaも虚しく枯死IMG_8590.JPG
錦蝶K.delagoensisは言うまでもなく凍死

IMG_8589.JPG
シコロベンケイK. daigremontianaの抵抗も無意味に半透明にIMG_8597.JPG
雪に埋もれたローズマリーの鉢in the snow.jpg
やはりK.×houghtoniiは不死鳥かIMG_8732.JPG

 因みに東京亜熱帯地区の住民たちも雪の洗礼には敵わず、ほぼ全滅に近かった。唯一ユリオプスデージーの陰で雪を被らなかったのであろうか、ラクシフローラK.laxifloraが一株生き残っていた。僅かな環境の違いが生死を分けることを目の当たりにして、感慨を覚える一件であった。

昨年末に見た美しいプランターもIMG_7337.JPG
無残な結果にIMG_8645.JPG
ユリオプスデージーに守られたラクシフローラK.laxifloraIMG_8643.JPG
ユキノシタは守ってくれなかったIMG_8644.JPG

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