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おもいでの夏 [cultivation]


 このようなタイトルにしたが、この夏に思い出となる特別な出来事があったわけではない。淡々と一日一日を過ごしてきただけだ。
 西日本は連日の猛暑で人々だけでなく他の動物も、植物も難儀だったと思う。こちら関東地方は6月から真夏日があり、7月には猛暑日まで度々あって長い夏の予感に気が滅入っていた。しかし8月に入ると大して暑くもなく、大半のカランコエはベランダであまりダメージもなく生き延びてくれた。
 例年のような犠牲者はなく、一番ダメージを受けたのはペルタータKalanchoe peltataだった。6月までは過去に例を見ないほど順調に葉が茂り大変素晴らしい状態であったが、ひと夏ベランダで過ごしたら葉はほとんど全て落ち、涼しくなってからも葉が育たず悲惨な状態だ。それでも完全に枯れることなく、夏越ししたと言えばしたとも言える。これは仕方なしに先日思い切って切り詰めた。

このように順調だったペルタータKalanchoe peltataが
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Kitchengia節は暑さに弱いのか、葉が落ちていって
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終にはこんな姿に

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 いつも夏に大ダメージを負って株を失ってしまうKitchengia節のもう1種、グラキリペスKalanchoe gracilipesはこの夏を無事に越すことができた。毎日天気予報を気にしていて翌日が真夏日と分かったら、やはり夏に弱い他の下垂型花卉達と共に前の晩に室内に取り込んだのだ。そのうち様子を見ながら33゜~34℃位までなら最も暑さに弱いグラキリペスとフィフィKalanchoe uniflora "Phi Phi"だけ取り込んで、35℃以上になるときはエンゼルランプ、シャンデリア、ウェンディも避難させた。グラキリペス×マンギニー(紅提灯)のハイブリッドであるテッサは暑さに強く、これまでも屋外で夏を乗り切っている。花はグラキリペス寄りだが、生理的にはマンギニーの形質が強いのかもしれない。
 毎日気温を気にしての出し入れは面倒ではあったが、確実な効果があった。幸運なことに暑い日が2、3日続いたら小休止のように涼しい日が訪れたので、1週間室内に入れっぱなしということはなく光量不足も解消できた。

 では何故ペルタータは屋外に取り残したのか。
室内に持ち込めないほど暴れて大きくなっていたためである。Kitchengia節そのものが暑さに弱いのか、グラキリペスについでペルタータも暑さには弱そうなので、来年は気をつけようと思う。
 ともあれこの夏はグラキリペスの夏越しに成功したという点では思い出の夏となった。

 
夏場はいったん成長を止めたが、秋には再び成長を始めたグラキリペスKalanchoe gracilipes
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クローンコエ ~神話の崩壊~ [taxonomy]

 旺盛な繁殖力で巷に充ち溢れるクローンコエには、次の3つの「神話」がある。
1.和名はコダカラベンケイ(ソウ)
2.学名はKalanchoe  בCrenatodaigremontiana’
3.この植物はシコロベンケイKalanchoe daigremontiana と胡蝶の舞Kalanchoe laxifloraの交配種

このうち1.と2.については、以前否定しておいた。
(子宝草/クローンコエ http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-01-11)
改めて簡単に述べると、
1.「クローンコエ」というのは多分商品名で、園芸的には「子宝草」と呼ばれる。和名はない。一方コダカラベンケイというのはKalanchoe daigremontianaの和名で、別名としてシコロベンケイがある。全くの別種である。このような誤謬の一因(主因?)はWerner Rauh著Succulent and Xerophytic Plants of Madagascar 2(1998)にて、当時まだ世間にほとんど知られていないクローンコエをKalanchoe daigremontianaとして写真を載せていたことかも知れない。

2.クローンコエの学名はこのブログで何回か紹介しているように1997年にDescoingsが新種記載したKalanchoe laetivirensである。Kalanchoe  בCrenatodaigremontiana’などという学名はなく、またこれは栽培品種名でもない (この辺の事情は後述する) 。

 以上は以前書いたことの焼き直しであるが、今回3.の交配種説について解明したので記しておこうと思う。
 以前にも触れたが、現在流通しているクローンコエという植物は1994年にマダガスカル南西部のToliaraで採集されたものである。どこかで交配して作出したものではない。その野生個体を増やしてISIが普及させたのだが、その際に以下のようなコメントを載せている。

ISI 95-36. “Kalanchoe sp.” is illustrated in Rauh’s Succulent and Xerophytic Vegetation of Madagascar, Vol. 2, p. 318, as a non-maculate form of K. daigremontiana. However, according to S. Jankalski it is Kalanchoe ‘Crenodaigremontiana’ Boiteau & Manoni ex Jacobsen (Bryophyllum _ crenatodaigremontianum Resende & Viana), a hybrid of K. daigremontiana and K. laxiflora (Bryophyllum crenata), reported from the wild but also recreated in cultivation by Resende.

 こんな情報と共に普及させたのだから、これに盲従した人が続出したのであろう。

 Jankalski氏が言うように(マダガスカルで採集された)クローンコエは本当にK. daigremontiana × K. laxifloraなのだろうか。上のコメントではResende & Vianaが「Bryophyllum crenatodaigremontianum」として記載したものがこの交配種で、それがクローンコエの正体だとしている。この学名をKalanchoe属に置き換えるとKalanchoe‘Crenatodaigremontiana’に変化する。さらに交配種ということでKalanchoe בCrenatodaigremontiana’となる。最近やっとこの論文(や別の関係した論文)を入手した。1965年のPortugaliae acta biologica誌に載った該当論文でResende達はK. daigremontiana × K. laxifloraの雑種を作出して、その累代の中で生じた変化について述べている。
 そして交配した雑種の写真を載せているが、クローンコエには見えない。3裂の欠刻葉の個体もあり、どう見ても別物である。実はこの組み合わせの雑種は国内でも得られていて、ある論文に花序の写真が載っている。著者の方に伺ったところ、やはりその組み合わせで得られた雑種はクローンコエとは異なっていたとの事である。

これがResende & Viana(1965)に載った雑種
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 人為的な交配種とは異なる野生採集株であるクローンコエは、K. daigremontiana × K. laxifloraではないということで3番目の神話も否定しておきたい。

 ここでもう一度2.の学名について触れておきたい。Descoingsがクローンコエを新種記載した際には、巷で氾濫する‘Crenatodaigremontiana’(‘Crenatodaigremontianum’)などという「学名」には触れていない。実はこの名は学名でも何でもなく、Resende & Viana(1965)が論文の中で雑種を仮にそう呼んだだけだ。栽培品種名ですらない。
 と、ここで下の写真をよく見るとResende & Viana(1965)はcrenodaigremontianumと記している。これを上記のISIの記事中で何故かcrenatodaigremontianumにすり替えてしまっている。そして何故だかそちらの似非学名の方が広まってしまった。

そのエビデンスとしてResende & Viana(1965)を参照願いたい
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Resende et al. 1965.png 

  上の写真のような事情であるから、交配種説と似非学名についてはJankalski氏の勇み足であると言わざるを得ない。もっとも実際のK. daigremontiana × K. laxifloraの正逆の雑種に対しては、俗名として愛好家の間で‘Crenodaigremontiana’とか‘Crenatodaigremontiana’の名を使用することは構わないと思う。

 このように権威ある者が巷に流布した情報が正しいとは限らない(日本国憲法が日本人不在の「みっともない」押し付け憲法というようなものも好例である)ので、疑問に思ったことは自分で調べてみると事実が見えてくることがある。権威者の言葉を鵜呑みにすると「恥ずかしい」間違いが増幅することは世の常である。

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子宝草目録3-② Bulbilliferae/クローン・グリーン [taxonomy]

 毎度引き合いに出しているBoiteauとAllorge-Boiteauの“Kalanchoe de Madagascar”は1995年の出版で、そのときこのグループBulbilliferaeにはシコロベンケイKalanchoe daigremontianaとキンチョウ(錦蝶)Kalanchoe delagoensis(Kalanchoe tubifloraとして記載)の2種しか記載種がなかった。その後Descoingsによって1997年にKalanchoe laetivirensとKalanchoe sanctulaが、Wardによって2006年にKalanchoe ×houghtoniiが新種記載された。


 K. laetivirensは子宝草とかクローンコエ(これはたぶん商品名だろう)と呼ばれるが、標準和名はない。マダガスカル南西部のトゥリアラToliara/ Tuléarで採集されISI(International Succulent Introductions)で記載前にKalanchoe sp.として頒布された。これが1995年で、数年のうちに各国に広まったようだ。なにしろ当時全くカランコエ素人でこんな植物の存在を知らなかった私も、埼玉の片隅にあるステーキハウスの玄関先で2000年に目撃している。
 前回も述べたようにシコロベンケイKalanchoe daigremontianaと混同され、ネット上でも間違いが氾濫している。この誤謬の一因はRauhの“Succulent and Xerophytic Plants of Madagascar. Vol. 1”(1995) でシコロベンケイの栽培品種として写真を載せていたことではないかと推察している。ベハレンシスの品種であるローズリーフの間違いもこの本のVol. 2が原因で誤謬が広まった。大著であるが、要注意である。
 大きくなると花序は少なくとも高さ1.5mを超える。花後に花序にも不定芽がつくが、開花後に親株は枯れてしまう。しかし枯れないこともあって、その点は次に紹介するKalanchoe sanctulaと同様である。


クローンコエKalanchoe laetivirensと花、および花序の不定芽
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 97年記載のもう1種、Kalanchoe sanctulaはマダガスカル南東部のTaolanaroで採集された個体を元に新種記載され、日当たりのよい赤土の斜面で見つかっている。クローンコエと共に緑色の葉が美しい種で、セイロンベンケイソウのようなクローンコエのような、特に特徴のない種である。そのためか特に話題にならないし、あまり栽培もされていないようである。


Kalanchoe sanctulaと花
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 以上Bulbilliferaeのグループで4種を紹介した。もしかするとマダガスカルにはまだまだ未知の子宝草が自生しているのかもしれない。次回の子宝草目録では人工的な交配種を紹介したい。

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