ウェンディの翼（前編）

　Kalanchoeという属名が女性名詞のためか（どうか分からないが）花ものカランコエの園芸品種名には女子名が使われることが多く、特にヨーロッパ物はその傾向が強い。これはK.blossfeldiana交配種に限らず、ウェンディ、テッサ、ミラベラなど下垂型の花のカランコエでも同様である。ピーターパン繋がりでもないだろうが、ウェンディの他にティンカーベルという品種もあった（過去形）。

　ここはいずれ確認していかねばならないと感じているのだが、どうやらウェンディのKalanchoe ‘Wendy’という名は国際栽培植物命名規約上で公式な名になっているようである。そして以前何度かこのブログでも書いているようにウェンディはK. miniata × K. porphyrocalyxの交配種とされているが、表現形質としてK. miniataの影響は見て取れない。ウェンディと殆ど同じ（全く同じ?）品種に‘Pearl Bells’というものがあり、これもK. porphyrocalyxと区別がつかないことからその品種K. porphyrocalyx ‘Pearl Bells’として取り扱われることが提唱されている (Smith & Shtein, 2021 ; Phytotaxa 478 (2)) 。この品種が日本で見られることはないようだが、‘Pearl Bells’には一重と八重の花があるという。

　八重咲のウェンディというとここ何年か見かけるようになったサニーデイが知られるが、この品種の本名はサニー・バルーン‘Sunny Balloon’である。上記の論文ではこの品種もまた八重咲であることを除いてK. porphyrocalyxと区別がつかないので、その品種としてK. porphyrocalyx ‘Sunny Balloon’の名で記載している。

　八重咲ウェンディにはデンマークのクヌート・イェプセン社からも後発で販売された‘Dolly’という商品名のものがあるが、それが国際栽培植物命名規約上の公式名であるとは確認できないことからサニー・バルーンを採択するのが妥当であろう。勿論、商品名としての‘Dolly’（これも女子名だね）を否定するものではない。

　ちょっと分かりにくいかもしれないが、今後ウェンディやサニーバルーンを（国際栽培植物命名規約上の）学名で表記するときは、それぞれKalanchoe ‘Wendy’、そしてKalanchoe porphyrocalyx ‘Sunny Balloon’とすればよいことになる。

　少し前の記事でウェンディの片親であるK. miniataについて述べたことがあるが、もう一方のK. porphyrocalyxはどんな植物であろうか。大雑把に言うとマダガスカル中部から北東部にかけての熱帯林で見られる草丈35～40cmくらいになる着生植物で、見た目は殆どウェンディと変わらない。特に花は色・形ともにほぼウェンディと思えばよいようだ。

　1833年にBakerがKitchingia porphyrocalyxとしてマダガスカル中部の個体を基に新種記載した。Bakerはその後1887年にKalanchoe sulphureaという種を記載しているが、それは現在K. porphyrocalyxのシノニムとされている。最初Kitchingia亜属（当初はKitchingia属）として記載されて、その後属レベルではKalanchoe属に、亜属レベルではBryophyllum亜属に帰属が変わった。しかし昨年(2021)この種は別亜属Alataeに再分割された。その辺の話は次回に回したい。

　現時点でK. porphyrocalyxには２つの変種が知られている。一つは自動名の基変種Kalanchoe porphyrocalyx var. porphyrocalyxであり、もう一つは1937年にHumbertがSambirano川上流のOmbrophilousの熱帯雨林で見つけ、その後Boiteau & Mannoni(1948)が発表した小型のKalanchoe porphyrocalyx var. sambiranensisである。しかしこの変種は新種記載の要件を満たしていなかったので、後年改めて正式に記載された（Smith & Figueiredo, 2019）。

ウェンディとサニーバルーン；花は共に美しい、諸氏はどちらが好みだろうか