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子宝草/クローンコエ [taxonomy]

 子宝草とかクローンコエと呼ばれるカランコエがある。多肉の世界では子宝草と呼ぶ事が多いようだ。ホームセンターなどで購入するのであろうか、一般家庭や店先などで見かけることも多い。商品名なのだろうがクローンコエという名札を見かける事もある。私はこの名が気に入って、家ではもっぱらこの名で呼んでいる。(といっても声に出して植物に呼び掛けているという意味ではない。)

植物は栄養繁殖したり、挿し木・挿し穂・葉ざしなどで増やしたものは親株と同一遺伝子を持つ個体になるわけだから、全てクローンである。クローンコエを含むいくつかのブリオフィラム節は葉縁に不定芽が沢山ついて、まさにクローンを大量生産している。(余談だが、紅茶の世界ではこれらクローナル・プランツを略してクローナルと称している。特にダージリンのお茶で、中国種のチャを挿し木で殖やしたものがこう呼ばれる事が多い。)

 子宝草という名は良いのだが、これをコダカラベンケイとかシコロベンケイと呼んでいる書物やサイトが氾濫しているのは少し問題があろう。Kalanchoe daigremontianaの和名がコダカラベンケイ(別称シコロベンケイ)であって、別の植物である。コダカラベンケイは1940年代から日本で栽培されているので、ここ10数年ばかりではびこってきたクローンコエに和名をシフトする必要はないと思う。というよりこれは両者の混同に基づく誤用なのではないだろうか。見た目はそこそこ違うと思われる2種だが、なぜか混同されてしまっているのだ。

 混乱を避けるため、このブログ内では今後子宝草はクローンコエ、コダカラベンケイはシコロベンケイ(ソウ)と呼ぼうと思う。あくまで当ブログ限定の話である。

 また余談だが、シコロベンケイというときの「シコロ」とは何であろうか。漢字では錣と書いて、兜の後ろに付くびらびらした防斬用の付属物が有名だが、これとは関係なさそうである。マニアックな武術に詳しい人は知っているかもしれないが、忍者が使う両刃ののこぎりも「錣」という。この形を見るとシコロベンケイの葉に形が良く似ている。私の勝手な想像だが、語源はこれではないか。「忍者 のこぎり」で検索して調べてみて、納得した人は賛同してほしい。

 

 話をクローンコエに戻して、度々この植物がシコロベンケイとカランコエ・ラクシフローラの交配種であると解説されている。再び脱線するが、よく見受けられるカランコエ・ラクシフローラをKalanchoe crenataとシノニムとする記述も間違いで、この両者は全く別物である。間違えるのも無理はない入り組んだ理由があるのだが、長くなるのでいずれ改めて書いてみたいと思う。

 さてクローンコエはシコロベンケイとカランコエ・ラクシフローラの交配種としてKalanchoe ×crenatodaigremontianaまたはKalanchoe cv ‘Crenatodaigremontiana’という学名を付記している事が多い。「×」を付けるのはそれが交配種であることを表す。cvは栽培品種を表すが、最近この「cv」の表記は不要になった。よくよく調べるとこの植物の原記載は見つからず、もともとポルトガルのResendeがこの植物を見つけて1965年の論文でCrenatodaigremontianaの名を使用した事が分かった。

 しかしながらResendeは新種記載したわけではなく使用しただけなので、この名は学名風の呼び名に過ぎないと解釈できる。世界中の維管束植物のリストがあるIPNIで検索しても、この種名は出てこない。日本では「カランコエ」が一般名称でKalanchoeと書くと学名なのだが、アルファベットを使う諸外国では一般名も学名もKalanchoeと表記するため、カランコエ属の「コダカラコチョウ」といったような適当な表記が学名と勘違いされていったのではないだろうか。実際にクローンコエが新種記載されたのは、Descoingsにより1997年になってからで、学名はKalanchoe laetivirensである。これによって不適正なまま流布していたcrenatodaigremontianaの名は、シノニムのような扱いとなり消える事になった。

 

 学名の問題は以上の様なことでKalanchoe laetivirensを使えば良いのだが、交配種であるかどうかの真偽についても一応の経緯が分かった。結果からいうと現在出回っているものが人工交配種なのかどうかは分からないが、先のResende195060年代初頭にかけてシコロベンケイとカランコエ・ラクシフローラを掛け合わせてリスボンの植物園で作出したことは確からしい。

ではクローンコエは全くの栽培品種なのかというとそうでもなく、もともとマダガスカルで発見されたものと同じものをResendeが交配実験で作ったという。しかし、ここが微妙なのだが、ポルトガル産の末裔が現在栽培されているものだとしたら人工交配種という事になるが、現在のクローンコエのルーツはInternational Succulent Introductions1995年に普及させたものらしい。このISIの親株はマダガスカルのトリアラToliaraで採集されたものとのことだが、採集株自体が近くのホテルの庭から増えた個体らしく、野生のものなのかどうかは判然としない。しかし普通に考えると、ポルトガルで作出したものをまたわざわざマダガスカルにばらまきに行くとは考えにくい。ということは現在のクローンコエは人工交配による栽培品種ではなく、自然交雑による雑種か、あるいはすでに種分化した種である可能性も多々ある。

可能性の話ばかりでも仕方ないが、Kalanchoe laetivirensの原記載はこのToliaraの個体をもとに書かれているのでクローンコエ= Kalanchoe laetivirensであって、雑種起源だったとしても現在有性で繁殖可能であれば独立種である。その辺のことを調べた記事は見当たらないのであるが、クローンコエを受粉させて実生してみるとか、シコロベンケイとラクシフローラを掛け合わせて人工クローンコエを作ってみるなど、高校の生物部あたりで実験テーマとして面白いかもしれない。

(本当は自分でやれば良いのに、無責任ですね。)

 

クローンコエPB060624.jpg

クローンコエ(子宝草)

 シコロベンケイP7120010.jpg

こちらがシコロベンケイ

 シコロベンケイ(細葉)P6290426.jpg

シコロベンケイの細葉タイプ;これについてはいずれ改めて

 


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